PISA「読解力」順位で見えた本当の国語力問題…水島醉<5>

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 前回からの続きである、読解力(国語力)を構成するメカニズムおよび読解力(国語力)を向上させるための方法についてはお休みして、今回は、先日発表されましたPISAの結果について私見を述べたいと思います。

日本の15歳「読解力」15位に後退の衝撃

 2018年の国際学習到達度調査(PISA)で、日本の15歳の「読解力」順位が、前回の8位から15位に落ち込んだことが、関係者にショックを与えているようです。

 もちろん私は、このPISAの順位の変動に関係なく、長期的に見た国語力の質の低下に対して、強い危機感を持っていることをお断りした上で、このPISAのデータについては、もう少し冷静に見るべきではないかと考えています。

 PISAの「15位」というデータの解釈について、いくつかの問題点があります。

 まずこのPISAのデータは、相対順位だということです。絶対的な国語力の評価ではありません。日本の15歳時の読解力が仮に下がっていないとしても、他の国(地域)の読解力が上がっていれば、日本の順位は相対的に下がります。順位だけでは、日本の読解力が低下していると言い切ることはできません。

 次に、参加国(地域)の総数の変化を考慮しなければならない点です。2000年は32か国・地域だったものが、2018年は79か国・地域に。2倍以上に増えているわけですから、相対順位が2倍以下に下がっていても不思議ではありません。もちろん後から参加した国・地域の教育状況によっても左右されますが、単純に「32か国中の8位」と「79か国中の15位」を比べれば、「79か国中の15位」の方が上だとも言えます。参加総数を考慮して数値を処理した【グラフ1】をご参照ください。

【グラフ1】クリックで拡大
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 さらに、データはあくまでも全数調査ではなく標本調査だということです。国立教育政策研究所のホームページによると、今回、日本の読解力の平均得点は504点とありますが、同時に「信頼区間499-509点」とも書かれています。これは、点数で言うと499点から509点、順位で言うと第11位から20位の間には統計的有意差がないということです。15位とされていますが、本当は11位かも知れないし20位かも知れない。このことに鑑みて、年度間で大きな差が出ない数値を私が選択して作ったものが【グラフ2】です。【グラフ2】は事実を示したものではなく、こういう可能性もある、という一例を表したものです。

【グラフ2】クリックで拡大
【グラフ2】クリックで拡大

 これらのことを踏まえて考えますと、PISAテストにおける日本の相対順位が大きく下がったのは、2018年よりも、むしろ2000年から2006年辺りと見るべきではないかと、私は考えています。【グラフ1】の黄色の部分(統計的有意差のない範囲)が最も落ち込んでいるのは2003年です。

 相対的な順位でなく絶対的な読解力でお話しするとしても、同じ頃が一番読解力の低かった時期なのだろうと私は感じています。正確なデータを持ち合わせていないので私の直感でしかないのですが。

本当に読解力が低下したのは「塾バブル」の時期

 さてPISAのデータおよび私の推測のように2000年から2006年前後に15歳であった者の読解力が最も低かったのだと仮定すると、その原因はなんでしょうか。私がすぐに頭に浮かぶのは「塾バブル」です。

 1990年代半ばから2000年頃にかけて、社会のバブル景気に合わせて「塾バブル」というものが起きました。言葉は悪いのですが猫も杓子(しゃくし)も、地域の公立小学校での成績が下から数えた方が早いような小学生が、偏差値60を超える難関校に合格できると信じて、進学塾に押し寄せる。進学塾は「大丈夫です。うちに来ていただいたら××中学も○○中学も、十分合格できるだけの力を付けますよ」とそれを受ける。そんな現実があったのです。読解力がまだまだな子供に、中学受験用の難しい長文切り抜き問題を解かせ続ければどうなるか。内容が理解できないまま問題演習だけさせられ、基本的な読解力、国語の基礎体力が身に付かないまま、高校生になってしまっている可能性は否めません。

2018年調査で分かったいっそう重要な問題

 さらに、それに関連して、気になるデータがあります。

 PISAのデータを解析した国立教育政策研究所のホームページに【グラフ3】のような資料がありました。これは成績をレベル1(得点が低い)からレベル6(得点が高い)の6段階に分けてそれぞれの人数の割合をグラフにしたものですが、これを見ますと、2018年のテストにおいて、最も低いレベル1の子供が全体の15%以上もいるということです(2013年は20%弱です)。

【グラフ3】クリックで拡大
【グラフ3】クリックで拡大

 レベル1と言えば、ごくごく基本的な部分しか正解できていない、要するに、平均的な15歳にとって基礎的な読解力さえ身に付いていない子供がこんなにも多くいるということです。私にとっては、こちらのデータの方が、重要かつ緊急度の高い問題だと思われます。

 これはスポーツに例えるなら、走る体力さえ付いていない高校生がたくさんいるということです。基礎体力さえもないのであれば当然技術は向上しませんし、もし技術だけ向上したとしても、それは選手として役に立たない技術になってしまいます。

 私は、スポーツでの基礎体力が、読解力の場合は「読書」だと、いつもお話ししています。「読書」ができない限り、読解力は伸びないのです。

 以前にも述べましたように、本当に読解力(国語力)の高い子供は口をそろえて「国語なんか勉強したことがありません」と言います。また「無類の読書好きであった」「ひたすら読書をした」という点も、読解力(国語力)の高い子供に共通している点です。読解はまずは文字(文章)を読むことから始まりますので、文字(文章)が読めない限り、読解力が上がることはあり得ません。読解力を上げるためのいろいろな技法はありますが、やはりまずは読書です。文字(文章)が読めない限り、それを理解することは不可能なのです。

 模試でも、読書の苦手な子供のほとんどは、問題を最後まで解き切ることができません。読書が苦手なことは点数が低いことと等しい。国語の試験では、少なくとも文章を読まない限り、問題が解けないのは当たり前のことで、正確には「読解力」不足というより「読書力」不足なのでしょう。

 PISAの結果を見て私の考えることは、やはり必要なのは読解力の基礎「読書」であり、それを向上させることが「読解力(国語力)」の向上につながる非常に重要な要素だということ。だから生徒に、いかに良く、いかに深く文章を読ませるかが国語指導者にとって必要不可欠なスキルであろう、ということです。

プロフィル
水島 醉( みずしま・よう
 1990年から「エム・アクセス」講師。「問題を解かせる→解説」という授業は国語力の向上につながらないと考え、「読書・思考・記述」を中心とした国語指導を展開している。「読む・聞く⇔書く・話す」の4ルートを鍛えることによって国語の地力を向上させる「視聴話写」という教材を開発。子供の心の成長と学力との関係を重視し、「マインドフルネス学習法」を提唱、授業に応用している。著書に「国語力のある子どもに育てる3つのルールと3つの方法」(ディスカヴァー携書)、「進学塾不要論」(同)など。

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990039 0 マナビレンジャー 合格への道 2020/01/09 05:24:00 2020/01/09 05:24:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200107-OYT8I50054-T.jpg?type=thumbnail

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