中学受験の過熱が教育虐待を招いたという嘘…北一成<8>

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「5年続きで受験者増」は「過熱」と言えるのか

 昨年、名古屋で不幸な出来事がありました。父親が息子を自身の出身校に合格させたいあまりに、中学受験に熱心になり過ぎて、ついに刺殺してしまうという、悲しい事件でした。

 その後のマスコミ報道では、一部に「中学受験の過熱が不幸な事件を招いた」という論法がありました。その都度、首都圏模試センターが算出している首都圏の私立・国立中学校の受験者数推移のグラフが紹介され、2019年の首都圏中学入試まで「5年続きで受験者数が増加」したことを背景に、「中学受験の過熱が教育虐待を増加させた」という論法でニュースが取り扱われることがありました。

 しかし、その論法には「(うそ)がある」ことを、ここではお伝えしたいと思います。

 確かに首都圏では近年「5年続きで受験者増」してきたことは事実です。それでも、中学受験熱が高まり、首都圏の私立・国立中学の受験者総数が5万人を超えた1991年や2007年には、「過熱」という表現も当てはまったかもしれませんが、現在の状況は「過熱」と言うには及びません。

 かつてのピーク時から1万人近くも減少を続けてきた中学受験者数が、ようやく2014年に底を打ち、少しずつ右肩上がりになってきたのが、この「5年続きで中学受験者数が増加」してきた経緯です。したがって、2019年の受験者数も、一時期のピークに比べるとまだまだ少なく「中学受験の過熱」と言えるほどの状況ではありません。まだ現状は「中学受験ブームに再燃の兆しが見えてきた」と言える程度なのです。

中学受験者増加分の大半は、「ライトな受験生」

ライトな中学受験スタイルなら教育虐待は生まれないはず(写真はイメージです)
ライトな中学受験スタイルなら教育虐待は生まれないはず(写真はイメージです)

 この「5年続きの中学受験者増」の背景にある「志願者(=受験者)数の増加」は、従来から主流であった「4科目」受験生によるものではありません。難関校を目指して早くから有名進学塾に通ってきた一部の熱心な受験生を除けば、むしろ多くは、従来とは違った、いわゆるライトな受験準備をしてきた受験生によるものです。

 しかも、その大半は、公立中高一貫校志望者が併願する「適性検査型入試」を始め、総合型入試、合科型論述入試、思考力入試、自己アピール(プレゼンテーション型)入試、英語入試などの、いわゆる「新タイプ入試」の志願者の増加によるものです。

 むしろ一部の最難関校、準難関校を除くと、従来の「4科目」型入試の受験生は、今でも全体的には減少傾向にあると言ってもいいでしょう。

 つまり、首都圏のこの5年間の中学受験者数の増加は、「中学受験の過熱」を反映したものではなく、以前よりも軽度な受験勉強をしてきた小学生が数多く挑む、緩やかで間口の広い入試状況になってきたことの反映と解釈すべきものです。

 その中で、一部の難関校をめざす受験生と、それ以外の多くの受験生の「二極化」に近い現象が生まれていることも事実で、それが先のようなマスコミ報道の誤解を促している理由なのかもしれません。

 「何が何でも難関校への合格を目指したい」と考える受験生は、小学校低学年から一部の有名進学塾に通って受験勉強を進めているケースがほとんどですが、その一方、さほど受験勉強にも無理をせず、小学校高学年まで習い事やスポーツなども続けながら、「どこか、わが子にとって良い私立中学校があれば受験させてみよう!」と考える家庭(保護者)の方が、最近ではかなり増えてきたのです。

 そうした志向や子育てのスタイルを好む若い世代の保護者が年々増えてきたことによって、幼児期から続けてきたスポーツや芸術、習い事などを小学校高学年まで続け、遅い時期から本格的に中学受験の準備を始めるという、「ライトな受験生」も大幅に増加してきたのです。

 そうした「ライトな」、あるいは「頑張り過ぎない」中学受験スタイルであれば、名古屋での悲しい事件のようなケースでの「教育虐待」は生まれるべくもありません。

 かつて「中学受験が過熱」した時代に比べれば、親が最後まで「何が何でも第1志望の◯◯中学校に合格を!」と思いつめてしまうケースは少なくなっているのです。

入試本番に向かうわが子の背中を自然体で見守る

 それでも、わが子への期待や、中学受験への思い入れが強過ぎるあまり、親の熱意が暴走し、いわば「教育虐待」に近い接し方をしてしまうケースが、今でも散見されることは否定できません。

 そうした保護者を、受験業界では「子供を壊してしまう親」などと表現することもありますが、むしろ先に「壊れてしまう」のはそうした親であって、それは子供の受験結果にも、むしろマイナスに影響することの方が多いのです。

 だからこそ、多くの良心的な進学塾では、それぞれの塾の経験や持てるノウハウから、親の受験への関わり方について、必要以上に過熱しないよう、アドバイスに力を注いでいます。

 中学受験は、一人一人の子供たちにとって、成長の過程で経験するハードルの一つではあります。目標に向けて努力することは大切なことですし、合格という喜ばしい結果が得られれば大きな達成感が得られます。

 しかし、何も「第1志望の学校に合格できなかった」からといって、その子がダメなわけでも、そこで人生が失敗というわけでもありません。

 第1志望校の合否にかかわらず、わが子が努力する姿勢や、その過程でのわが子の成長を、保護者が認め、一緒に喜んであげることが、お子さんにとっての励みや喜びとなることを、入試本番のこの時期だからこそ、あらためてお伝えしたいと思います。

 そんな気持ちで保護者が自然体で、入試本番に向かうわが子の背中を見守ってあげることができれば、きっと親子にとって実り多い中学受験体験となるはずです。

プロフィル
北 一成( きた・かずなり
 首都圏模試センター教務情報部長。1985年に首都圏の大手中学受験専門塾に入社。同塾の広報や進学情報誌の編集などに携わり、2013年8月に退職。翌月「日本Web情報出版」を設立し、同時に「日本Web学校情報センター」及び「JWSIC教育研究所」を開設。学校情報・入試情報を専門とし、取材等で約400校の中高一貫校をのべ3000回以上訪問。2000人以上の保護者から学校選びに関しての相談を受けてきた。2013年11月から現職。

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1011132 0 マナビレンジャー 合格への道 2020/01/21 12:51:00 2020/01/21 16:13:27 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200121-OYT8I50000-T.jpg?type=thumbnail

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