午後入試で注目集める香蘭女学校・田園調布学園…広野雅明<17>
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今春の中学入試で、サピックス小学部の児童が2月1日に受験した学校は、1人あたり平均約1.40校でした。昨年度は約1.35校でしたので、今年も実受験校数が増加した計算になります。
実受験校数が1を上回るのは、半数弱の児童が2月1日に午前と午後の2回、受験したためです。午後入試は従来、算数・国語の2科目、あるいは試験時間を短めにした4科目が中心でしたが、最近は受験生の負担を軽減するため、あるいは学校が望む資質を持つ生徒を獲得するため、算数などの1科目の入試を設定する学校も増えました。さらに、大学のAO入試を意識した独自の入試を設定する学校もありますが、なかなか受験者の数が伸びないため、従来型の入試に戻すケースもあるようです。
午後入試が設定されると、ご家庭では併願パターンがかなり柔軟になります。今まで、「この入試日では受験できないので」と、検討対象にならなかった学校も、午後であれば受験可能です。学校説明会に足を運び、その雰囲気がご家庭の考えと合えば、受験対象に加えてもよいでしょう。今回は前年度に午後入試を設定した香蘭女学校と今春、午後入試を新設した田園調布学園を紹介したいと思います。まずは本年度の両校の志願状況です。

両校とも志願者の総数が大きく伸びています。また、合格者の模試の平均偏差値も大幅に上昇していますので、午後入試の実施は学力上位層の受験にも結び付くことが分かります。
伝統的なミッションスクール 香蘭女学校
香蘭女学校は、同校ホームページによると英国国教会の「聖職議会」と英国王の勅許でできた「福音伝播協会」によって、1888年に当時の東京・麻布区(現在の港区の一部)に設立されました。1912年に当時の東京・芝区(同)に移転し、さらに1937年に現在地に移転しました。戦時中はさまざまな苦難があり、空襲で校舎が全焼し、戦後は九品仏(東京・世田谷区)の仮校舎で授業をしたようです。1948年に現在地に戻りました。
同校ホームページには、校長メッセージとして、「私立学校にはそれぞれの『建学の精神』と呼ばれる教育理念があります。香蘭女学校の『建学の精神』は、日本古来の女性が持つ固有の文化を重んじキリスト教倫理によってそれらを高め、豊かな教養と品性を養う独自のものです。いわゆる『和魂洋才』をしっかりとしたキリスト教の倫理を基にして育む独自の女子教育です」とあり、ミッションスクールでありながら日本文化も大切にしていることが分かります。
校地は、東急線「旗の台駅」から徒歩約5分とアクセスに恵まれ、中原街道沿いですが緑豊かな環境にありますので、都会の
香蘭女学校は、日本聖公会に属するキリスト教学校です。同じく日本聖公会に属する立教大学へ97人の関係校推薦があり、全学部全学科に進学することができます(各学科に上限はあります)。卒業生数は約160人ですので、非常に大きな枠です。一般受験者にも進路・志望校に合わせた個別対応で指導を実施しており、私立大を中心に現役での大学進学率が極めて高くなっています。比較的規模の小さい学校の面倒見のよさがあります。
プロテスタント校の中には、宗教色の強い学校もありますが、同校は過度に熱心ということもないので、宗教行事にも溶け込みやすいようです。もちろんミッションスクールですので、毎朝の礼拝、イースターやクリスマスの礼拝などはとても大切にされており、90年を超えるガールスカウトや100年を超えるバザーなど、伝統校ならではの歴史があります。
学習面ではこれからの国際化社会を見据え、英語教育と国際交流プログラムが重視されています。「英語Full」と呼ぶ通常授業のほか、少人数制の「英語Half」では、英会話や多読多聴、英語の自由作文などが行われます。授業以外でもネイティブの教師と英語でコミュニケーションを取るなど多くの機会を通して、英語の4技能を伸ばしています。また、全学年で必修科目となっている聖書の授業は、特に欧米への海外留学ではとても役立つそうです。
理数教育では、一人一人のノートをきめ細かくチェックし、つまずいている箇所を分析し、基礎学力を充実しています。理科では教室内の座学だけではなく、北軽井沢にある山荘でのフィールドワークや実験・実習を数多く取り入れているようです。これらの理数教育を支えているのがICT環境で、校内全域をカバーしている無線LANを通して、さまざまな疑問をすぐに調べ、研究結果を共有することが可能となっています。
香蘭女学校は長らく2月1日午前のみの1回入試で、面接もありましたが、昨年度、2月1日午前と2月2日午後の2回入試に切り替えました。各方面からアクセスのよい学校ですので、非常に多くの保護者や児童が、同校のさまざまな行事に参加できます。正門から校舎へと続く道の両脇が美しい築山に彩られ、四季折々の自然が楽しめます。設備は新しいとは言えませんが、都内の学校にしてはゆったりとした設計で、家庭的で温かな雰囲気が感じられたとの声も聞きます。ぜひ一度足を運んでいただきたい学校の一つです。
理系に強い女子校 田園調布学園
田園調布学園は、1926年に調布女学校として設立され、2004年に田園調布学園と校名を変更しました。田園調布大学が系列にあり、学内推薦入学制度がありますが、進学者は多くないようです。18年に第2校舎も改築・完成し、施設面もさらに充実しました。
同校の建学の精神は、「捨我精進(自分本位の
同校は、1学年約200人で5クラス編成です。中学募集のみの中高一貫校です。月曜日から金曜日の通常の授業に加え、土曜日に土曜プログラムや行事を行っています。女子校では文系の比率の高い学校が多いですが、本校は半数弱が理系です。中学入学時は算数が苦手なお子様が約70%いるそうですが、実験を多く実施して、理解しやすくするなど、女子に合った教え方や興味を伸ばすカリキュラムにより、「こういう勉強をしたいから理系に進む」と、目的を持って選択できる生徒になるそうです。
同校は、生徒が学力を伸ばすためには、まず主体的・能動的に取り組む「協同探求型授業」を実施することが大切だと考えています。10年以上前から一コマの授業を65分間にしています。授業では、まず基礎知識をしっかり定着させ、生徒が学習内容を踏まえて自分の意見を言えるようにする授業を心がけているそうです。
また、英語4技能を育成するためにオンライン英会話を採用し、ディスカッションなども取り入れ、ネイティブの先生と交流ができる「イングリッシュルーム」も活用しています。中3の終わりまでに約8割以上の生徒が英検準2級以上を取得できるほど、英語力が伸びるようです。
幅広い教養を身に付ける「土曜プログラム」には、発展段階に合わせた学年ごとの「コアプログラム」と、語学・文化・科学など五つの分野で170以上の講座から自分の興味・関心に応じて選択する「マイプログラム」があります。また、東京理科大や東京農大との高大連携プログラムも実施し、在学中に幅広く多様なことにチャレンジし、将来の進路選択のきっかけを作るようにしているそうです。
学習のサポートでは、英語・数学・国語の指名制補習もあり、中3・高1では英語・数学で到達度別授業があり、高1の夏休みから希望者を対象とした受験補習も実施されるので非常に手厚いです。
今年度からは、従来の2月1日・2日・4日の午前中入試に加え、2月1日午後の算数1教科入試が新設されました。理系進学者の多い同校にはふさわしい入試に思われます。また、受験時の面接が廃止されましたので、受験生の心理的な負担もかなり軽減されたことでしょう。
同校の敷地も幹線道路沿いですが、一歩、校内に入ると静寂が感じられます。完成したばかりの新校舎は木のぬくもりがあり、居心地のよさを感じる児童も多いと思います。学校から徒歩5分の場所には比較的大きなグラウンドもあり、都内の女子校としては施設も非常に充実しています。
2019年は東京大学農学部に推薦で生徒が1人入学したそうですが、上記の本校のさまざまなプログラムの中で才能が開花したそうです。お子様を、「将来、理系に進ませたい」「さまざまなことに挑戦させたい」とお考えのご家庭は一度、説明会などに参加されてはいかがでしょうか。
