吉祥女子の合唱コンクールのポジティブパワー…辛酸なめ子<26>

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 合唱コンクール……、青春のヴァイブスがほとばしる単語ですが、合唱の熱意やモチベーションを忘れて日々の仕事に追われる大人になってしまった今、この行事の名前を見ると懐かしさと憧れが呼び起こされます。

清らかな少女にしか出せない透明感

コーディネートが楽しめるネイビーの制服。ニットで揃(そろ)えるクラス、ベストにブラウスのクラス、チェックのスカートのクラスなど、それぞれ統一感がありました
コーディネートが楽しめるネイビーの制服。ニットで揃(そろ)えるクラス、ベストにブラウスのクラス、チェックのスカートのクラスなど、それぞれ統一感がありました

 先日、「なかのZERO」ホールで開催された「第32回 吉祥女子中学 合唱コンクール」は、まさしく大人たちが忘れ去ってしまった大事な感情や一体感が凝縮されたひとときでした。今年で32回目の伝統あるコンクールです。ただ歌って終わりではなく、校長先生や音楽科の先生など審査員の方々が賞を授与することでさらに盛り上がるという、中学時代の一番の思い出になりそうな行事です。保護者の方々と一緒の2階席で見学させていただきました。

 「合唱コンクールは一年の最後をしめくくる行事で、ここにいたるまでもめごとを乗り越えて、クラスの団結力が強まります」と、広報部の綾部先生はおっしゃいます。中高生の練習にはもめごとがつきもの。悩むあまり部活の人間関係相関図を書いていた黒歴史が脳裏をよぎります。

 そうしているうちに次第に1階席に生徒さんが集まって来ました。最初がやがやしていたのが「校歌斉唱」になると清らかな乙女の声で歌っていました。校歌で発声練習したあとは、いよいよ本番です。中1はいくつかの課題曲から選んだ一曲で、中2は全クラス「東京音頭」、中3は自由に曲を選べます。中2は毎年、日本の伝統的な曲を練習し、中3のカナダ語学体験ツアーの時に披露する、といううらやましい風習があるようです。

スムーズな入退場で、時間はほぼオンタイムで進行していました
スムーズな入退場で、時間はほぼオンタイムで進行していました

 コンクール委員の委員長、高橋さんの「朝、昼休み、放課後など少ない時間で練習してきました」「ご来場くださった全ての方々に楽しめる合唱コンクールになれば幸いです」という、しっかりした開会の言葉で始まりました。声が枯れ気味だったのに、激しい練習ぶりがうかがわれます。

 吉祥女子中学はクラス数が多くて1学年6、7クラスという構成。中学3年全20クラスが、ステージ上で曲を披露していきます。声のボリュームがささやかなクラスから、元気がいいクラス、ワンチーム感があるクラス、感情表現が豊かなクラスなど、続けて聞いているうちに違いや個性が際立ってきました。共通しているのは、清らかな少女にしか出せない透明感です。背後の保護者席からも「すごいね」「やっぱり違うわ……」「ピアノうまいね」などと感想が聞こえてきます。保護者席は時には立ち見が出るほど人気だそうです。

吉祥女子ならではのポテンシャル

最優秀賞だった3年E組。「結-ゆい-」という転調もあって難易度高めの曲を歌いこなしていました。少女の歌声の強みを生かした合唱でした
最優秀賞だった3年E組。「結-ゆい-」という転調もあって難易度高めの曲を歌いこなしていました。少女の歌声の強みを生かした合唱でした

 吉祥女子の合唱コンクールの特徴だと感じた点について僭越(せんえつ)ながら申し上げると……

 まず、

 ・クラス紹介が個性的

 というのが印象的でした。歌う前に、一言クラス紹介があるのですが、それぞれ気合いを感じさせるコメントでした。

 「帰り道にふと思い出してもらえるようがんばります!」「勉強キライ。規律もキライ。……うちら失敗しないんで!」「眠い人の眠気も吹き飛ばして見せましょう!」「ありがとう2F! ファイト!」「大坂先生のクラスですが東京音頭を全力で歌います」「音程、リズムが難しく、苦戦しましたが、がんばって練習しました」など、まじめなものから、ユーモアを感じる内容までいろいろでした。この最初の一言でもしすべってしまったら……その後の歌唱にも影響しそうです。

 ・選曲のセンスが良い

 中1と中2はだいたい決まっていますが、中1の課題曲の中には松任谷由実「やさしさに包まれたなら」や、さくらももこ作詞「ぜんぶ」、宮本益光作詞・信長貴富作曲の「夢見草」があったりして、最近の合唱曲の充実ぶりに驚かされます。中3の自由な選曲の中には、いきものがかり「YELL」、miwaの「結-ゆい-」、SEKAI NO OWARI「プレゼント」など。どれも素敵な歌詞とメロディで心の琴線が震えました。人気の歌手は合唱曲というジャンルでも稼いで……というか活躍していらっしゃることを今回このイベントで知りました。私の小学校中学校時代だと「翼をください」ばかり歌わされていた記憶ですが……。今は名曲がたくさんあって良い時代です。また、ミッション系の学校では讃美歌(さんびか)やハレルヤなどを歌いますが、高次元すぎて感情移入する感じではありません。でも、このコンクールで歌われた合唱曲は、より十代の心情に近いので、思い出と結びついて、一生の宝物になりそうです。講評の時、音楽の小川先生が「心にひびくハートフルな選曲」と称していらっしゃいました。

コーラスクラブが「パプリカ」を披露。振り付けを知っている人たちが上半身だけで踊っています
コーラスクラブが「パプリカ」を披露。振り付けを知っている人たちが上半身だけで踊っています
休み時間が告げられると皆さん喜びをほとばしらせていました。アルプス一万尺をする女子や抱き合って感動を分かち合う女子たちなど……
休み時間が告げられると皆さん喜びをほとばしらせていました。アルプス一万尺をする女子や抱き合って感動を分かち合う女子たちなど……

 また特徴として

 ・応援がエモーショナル

 というのにも驚かされました。合唱のあとに、コーラスクラブが「パプリカ」「証」などをステージ上で披露したのですが、合唱団の面々が登場したとき、客席からすごい声量で応援が! もはや音の集合体で圧が強すぎて何を言っているのかわかりませんが、出演者の名前を叫んでいるようです。あとで中3の生徒さんに聞いたら「応援の気持ちで友だちの名前を叫びます」とのことでした。そして「パプリカ」を歌っている時は、客席の半数くらいが踊っていました。パプリカブームの波はここにも……。パワフルな応援は、世代的なものなのか、それともこの学校の特徴なのかわかりませんが、一体感が半端なかったです。共感力が高い女子の特質を表しているようです。

 ・ハイブリッドな器用さ

 休み時間のにぎやかさから一転、合唱になるとピュアで可憐(かれん)な歌声になっていて、その器用さ、オン・オフの切り替えにも驚嘆。休み時間のとき、2階席から見ていると、手を(たた)いて笑ったり叫び声を上げたり、指揮者ごっこで遊んだり、親御さんに手を振ったりしていて無邪気な感じでした。高速アルプス一万尺をして遊んでいる女子たちもいて、昔から変わらない姿に感じ入りました。でもそんな彼女たちもコンクールが始まると席で静かに聞き入っていました。

 感動の3時間はあっという間で、最後に最優秀賞、優秀賞、審査員特別賞、指揮者賞が発表されました。どのクラスも聞いていて納得のレベルの高さ。最後に、最優秀賞と優秀賞のクラスの指揮者さんに話を伺いました。

 まず、出演していて受賞の手応えを感じたのか聞いてみると……

 「結構良かったな、と思いました」(中1F 前林美貴さん。曲は「夢見草」)

 「もしかしたらとれたかな、くらいの感じでした。客席の反応が良かったです」(中2A 清水依莉菜さん。曲は「東京音頭」)

 「正直、取ったな、って思いました」(中3E 吉川咲環さん。曲は「結―ゆい―」)

 と、指揮者のカリスマや自信、入賞の素直な喜びを漂わせる3人の女子たち。ちなみに、練習していく中で、誰々が練習に出ないとかもめごとがあったりするのでしょうか?

 「私のクラスはすんなり今日まできた感じです」(前林さん)

 「全くもめなくて平和でした」(清水さん)

 「私のクラスはとてもいいクラスで争いとかバチバチすることもなかったです」(吉川さん)

 と3クラスともピースフルな雰囲気だったようです。それが曲のハモり具合や調和やまとまりの良さとして表れていたのでしょう。吉祥女子から世界平和が広がっていくような、そんな未来の希望を感じました。

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は「大人のコミュニケーション術」(光文社新書)、「おしゃ修行」(双葉社)、「魂活道場」(学研プラス)など。

無断転載禁止
1125922 0 マナビレンジャー 合格への道 2020/03/25 05:21:00 2020/03/27 16:20:14 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/03/20200311-OYT8I50047-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

参考画像
100円割引
参考画像
5000円以上お買上で5%OFF(マイカーで御来店のお客様のみ、特価品、食料品は除く)

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
The Japan News
発言小町
OTEKOMACHI
ささっとー
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
挑むKANSAI
読売新聞社からのお知らせ