中学入試問題における「良問」とは…後藤卓也

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適度な難易度は「合格最低点60%前後」

 2年ほど前、この連載コラムで、中学入試問題が難化した経緯をまとめ、「基本的に入試問題は難しい方がいい」という持論を述べました(マナビレンジャー 合格への道「たとえ結果が出なくても中学受験の経験は『一生の宝物』だ」=2018年2月28日掲載)。

 簡単にまとめると、「合格最低点」が低い入試の方が、苦手教科の失点を得意教科でカバーできる。試験本番の緊張でミスをしても、挽回するチャンスがある。問題がやさしくて1問のミスが命取りになる勝負より、問題が適度に難しい方が「なにくそ」という気持ちで立ち向かえるし、不合格になっても諦めがつく――という内容です。

 「適度な難易度」のレベルは学校ごとにさまざまですが、合格最低点60%前後(300点満点ならば180点)が一つの目安ではないかと私は思っています。

 入試問題における「良問」の第1の基準が、こうした「難易度設定のバランス」だとすれば、第2の基準は「学習意欲(+指導意欲)がかき立てられるかどうか」です。

 今回は、この第2の基準をテーマに、主に理科の入試問題を取り上げます。理科は特に問題の「素材」(ネタ)の選び方次第で、学習意欲が大きく変わる事例が多いからです(もし機会があれば、他教科の問題についても熱く語ってみたいと思います)。

ポケモンやドラえもんも登場、学習・指導意欲かき立てる

 たとえば今年の立教新座中(第1回入試の理科・問2)では、丸々1ページにわたって「健児君」と「お父さん」がポケモンについて語り合います。そして、前半はポケモンの「キャタピー→トランセル→バタフリー」という架空の生物たちの変化プロセスは、「進化ではなく□□である」(正解は「変態」)といった知識問題。後半はDNAがA・T・G・Cというたった4種類の塩基から成り立っているという話から、ポケモンのクリムガン・ボーマンダ・カイリュー・リザードンという想像上の生物たちを、「クリムガンに近い仲間の順に並べなさい」という設問で締めくくるという凝った構成になっています。

 遺伝は中学入試の理科の最新流行ネタですが、もちろん小学校では教えないし、そもそも、この立教新座中の問題に関連する両性生殖(雌雄による生殖)などの意味がどこまで分かっているかもアヤしい。でも、ポケモンなら子供たちは食いつく。この理科の問題をネタにすれば、「なんでコンパンからモルフォンへの変化には、さなぎの時期がないのか」とか激論しながら、遺伝の学習に誘うことができるでしょう。

 ちなみに「ドラえもんはなぜ生物としては認められないか」について記述する問題(2013年の麻布中・理科)も話題を集めましたが、個人的には、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」を用いた2016年の国士舘大学の地理の問題(理科ではないし、中学入試でさえないけれど)がイチオシです(興味のある方は「ジョジョ」「大学入試問題」で検索してみてください)。

 アニメやゲームをネタにしているからといって、子供たちにおもねっているわけではありません。立教新座中のポケモンも、麻布中のドラえもんも、問われているのは本格的な理科の学力です。こういう入試問題が出題されると、我々も負けないように、もっといい教材を作り、いい授業をしようという気持ちになります。

サケ切り身の骨「どんな形?」、興味広げる身近なテーマ

 子供たちにとって身近なネタを手がかりにして、高度な内容へと誘うのも一つの方向性ですが、子供たちにとって「身近なはずのもの」に着目するのも、理科への興味関心を広げる上で重要な手法です。

<図1>
<図1>
<図2>
<図2>

 2018年の慶応普通部の理科では、動物園にいる8種類の動物について、体のつくり(草食動物と肉食動物の違い)や生態を問う中で、いきなり「キリンの模様、パンダの模様を描きなさい」と迫ってきました。キリンとパンダの体のラインだけ示して、そこに模様を入れるのです。ちなみに、私たちの塾「啓明舎」の当時の新6年生に描かせてみた答案の一部がこちら(図1、2)。

 <図1>はどうやらパンダとタヌキの区別がついていないようですが、キリンはみんな、こんな感じかな。

 読者の皆さんはいかがですか。実は私も描けませんでしたし、この問題(せいぜい2、3点)が合否を左右するわけでもありません。ただし、「今度動物園に行く時は、ちゃんと観察しよう」「写真を撮ったり、スケッチしたりしてみよう」と思いませんか。その気持ちを育てることが大切なのです。

<図3>
<図3>

 もっと身近なものを取り上げたケースがこちら(2013年の海城中・理科)。サケの切り身の中に「背骨とろっ骨を書き加えなさい」という問題です。(図3)

<図4>
<図4>

 去年の海城中の学校説明会でも、6年前のこの問題が取り上げられていたので、さっそく私たちの塾の3~6年生に、切り身の形も含めて自由に描かせてみたところ、全員がこんな感じでした……(図4)。

<図5>
<図5>

 「じゃあ、頭や尾はどこにあるんだよ」と追求してみたところ、その答えがこちら。(図5)

 そこで、さっそく「デパ地下の魚屋に連れていってもらって,新巻鮭(あらまきざけ)丸ごと1本を見てくること」という宿題を出したら、「あんなふうになってたんだ~」と口々に感動していました。これも大切な理科の勉強だと思います。

何のための受験勉強? 志望校合格に終わらない良問を

 そもそも何のために受験勉強をしているのか。もちろん、それは「志望校に合格するため」でしょうが、それだけが目的だとすれば、「不合格だったら、すべては無駄だった」ということになりかねません。

 でも、もしここで紹介したような問題が出題されるのであれば、受験勉強はもっといろいろな意義や目的を持ったものになるでしょう。それこそが「良問」の一番の基準だと、私は思うのです。

プロフィル
後藤卓也( ごとう・たくや
 啓明館塾長。1959年愛知県生まれ。東京大学教育学部博士課程修了。1984年の啓明舎設立当初から時間講師として勤務。2年間の西ベルリン(当時)留学経験の後、再び啓明舎へ。94年から塾長。主な著書に「秘伝の算数(全3冊)」(東京出版)、「新しい教養のための理科(全4冊)」(誠文堂新光社)など。(「啓明舎」は2020年3月末から「啓明館」と名称変更しました)

無断転載禁止
1154533 0 マナビレンジャー 合格への道 2020/04/10 05:21:00 2020/04/10 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/04/20200401-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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