「算数センスを磨く」ノート作りのコツ(後編)…粟根秀史<3>

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図形感覚を磨くためには何をすればよいか

 図形問題を苦手とする小学生は少なくないようです。そのような子供たちは、図形問題を解く機会が少ないというだけでなく、図形そのものに対する取り組み方にも問題があるようです。図形問題に使う頭は、文章や数の問題に使う頭とは違ってくるため学習方法も違ってきます。

 図形問題に強くなるには、まず、図をきちんと正確に描く練習が必要です。それも、定規やコンパスなどの道具を使わず「フリーハンドで図を描く」ことです。「フリーハンドで図を描く」という過程には、その図形の特徴を正確にとらえ、長さや角度の関係に注意しながら描くという脳の働きが作用しています。おのずと構造全体の把握力や細部への注意力が鍛えられます。

 図形を上手に描けないから定規を使う、というのは全くの逆であり、図形を上手に描けないからこそ、定規を使わないで図形を描く練習をするべきなのです。

 図形問題に弱い子は、うまく図が描けないから自分の手で図を描こうとしません。その結果、いつまでたっても図形分野に対して苦手意識を克服できないままでいます。初めは下手でも良いのです。揺れた線で構わないので、自分の手で丁寧に図を描く練習を始めましょう。

 自分の手を使って図を描いてみると、その図形独自の特徴や隠れた性質に気付くことも多く、この具体的・実感的な発見が、図形に対する面白さや興味を引き出す機会を増やすことにもなるでしょう。

「目」と「手」の両方を使って学ぶ

 書道では、上達の大切なポイントとして「目習い」「手習い」という言葉が使われます。まず、手本となる書をしっかり見て、そのお手本に近い出来栄えを目指して、自分の手で書く練習をする。これをくり返していきます。また、「目習い」には、もう一つ、「多くの作品を見ることによって、鑑賞眼を高める」という意味もあるそうです。

 どんな分野でも技量を上げたり、センスを向上させたりしたいなら、この「目習い」と「手習い」は欠かせません。それは、算数の「図形への取り組み」においても同様です。

 「目習い」は図形そのものをよく見て、その特徴を正確にとらえる目を養うこと、「手習い」はフリーハンドで自分がイメージした通りの図が描けるようにトレーニングを積むことにあたります。今回は家庭学習で行う「目習い」と「手習い」が一体となった図形ノートの作り方について説明します。お子さんの図形に対する洞察力や認識力を鍛えるのにうってつけの方法ですから、ぜひとも実践してみて下さい。

発想法や着眼点をイメージ図でストックしていく

 授業で習ったり、問題演習をしたりして学んだ図形のポイントを、イメージ図としてためていくための専用の方眼ノート(5mm方眼(けい))を1冊用意して下さい。

 例えば、授業で次のような問題に取り組んだとします。

 (問題1)

 右の図のように1辺の長さが10cmの正方形があります。この正方形の中に、点Aを中心とする円の一部を描き、辺AD上の点Eと頂点Cを結びました。斜線部分アとイの面積が等しいとき、AEの長さは何cmになりますか。ただし、円周率は3.14とします。

 この問題を初めて考える生徒に多いのが、アまたはイの部分の面積を求めようとしたり、右の図1のように補助線APやBPを引いたりして考え込むケースです。もちろん、それでは解けませんが、「まずは自分で考える」ことによって、正しい解法を知ったときの印象の深さが違ってきますから、その時間は決して無駄ではありません。

 この問題は次のような考え方で解くことができます。

 右の図2のように、アとイ両方の図形に同じ図形ウをつけ加えて考えます。そうすると、この問題は次のような「基本問題に言い換える」ことができます。

 (1)おうぎ形ABDの面積は何平方cmですか。
 (2)台形ABCEの面積がおうぎ形ABDの面積と等しいとき、AEの長さは何cmですか。

 最初からこのような発想法が使える生徒はごく少数で、ほとんどの生徒にとって、「新しいことを習った」経験となります。よって、ノートに残すべきなのは、この「新しいこと」、すなわちここでは「アとイの両方にウをつけ加えて、面積の分かる図形に着目する」ということです。

 授業中は時間的理由から、テキストやプリントの図に「つけたし!」と直接記入したり、ノートに「ア=イ→ア+ウ=イ+ウ」などとメモをしたりしておくぐらいで精いっぱいになるでしょう。ですから、この後の家庭学習でノートにイメージ図で描いて残しておきます。

 では、ノートにイメージ図を描く上でのコツをいくつか具体的に示していきます。

どこにスポットライトを当てるのかを強調して描く

 図形ノートは、目と手を使って図形の構造を探り、仕組みを研究していくツールになります。そして、それらを強烈なイメージで頭に焼き付けていくことが目的ですから、基本的に図形がメインで言葉がサブとなり、数式を書く必要はありません。

 上の問題1では、着目すべき重要ポイントとなる図形は、アやイではなく、ウの部分になりますから、ここにスポットライトを当てる感じで赤ペンでなぞるなどして際立たせておきます。

 <イメージ図の描き方の例>

 問題1

 実際にはフリーハンドで描くので、揺れた線で構いませんが、方眼の目盛りを利用して、丁寧に描き、できるだけ正確な図にします。

 「この図形はここにスポットライトを当てる」という描き方のほかに、「図形を分解する」「図形を復元する」という視点でイメージ図を描く方法もあります。

図形を分解して式にする

 複合図形の面積の求め方の基本は

 1.「区切って足す」(いくつかの図形に分けて面積を合計する)
 2.「囲んで引く」(面積の分かる図形で囲んで、全体の面積から要らない部分の面積を引く)

 となります。一つの問題に対して、この二つの考え方を同時に使わなければならない場合は、「図形の式」を描くと理解しやすくなります。いったん基本的な図形に分解して、それらの足し算・引き算の形で表します。問題を2題と、それぞれの描き方の例を挙げてみます。

 (問題2)

 右の図は、長方形と半円を組み合わせた図形で、点Eは半円の弧CDの真ん中の点です。斜線部分の面積の和は何平方cmですか。ただし、円周率は3.14とします。

 <イメージ図の描き方の例>

 問題2

 (問題3)

 右の図のような半径6cmのおうぎ形があります。斜線部分の面積を求めなさい。ただし、円周率は3.14とします。

 <イメージ図の描き方の例>

 問題3

 実際のテストでも、問題で与えられた複雑な図形そのものに、さらに色々と書き込んで考えようとしたためにミスをしたり、構造全体を把握できなかったりするのです。図形式を描くことは、図形の成り立ちを見抜く力、認識する力を向上させるトレーニングとしての役割を果たすだけでなく、テストにおいての実践的なテクニックとしても充分に威力を発揮することでしょう。

「復元させる」という視点を持つ

 元の図形はシンプルなものですが、難しくするためにその図形を切り取って付け替えたり、分散させたりして、複雑な図形に作り替えてある問題もよく見られます。

 (問題4)

 右の図で、CはAB上の点、EはCD上の点、AC=CD、AE=BDです。このとき、角アの大きさは何度ですか。

 <イメージ図の描き方の例>

 問題4

 問題で与えられた条件のうち、ACとCDの長さが等しいことと、角ACDと角DCBの和が180度であることに着目して、二つの三角形ACE、DCBをいったん切り離して、ACとDCをくっつけると二等辺三角形にもどります。この他にも、「正方形にもどす」「直角二等辺三角形にもどす」などのタイプがあります。

 問題5

 右の図のように、1辺が4cmの正方形と直径4cmの半円二つと半径4cmのおうぎ形一つを組み合わせた図形があります。斜線部分の面積の和は何平方cmですか。

 <イメージ図の描き方の例>

 問題5

 頻出問題で、「1か所に寄せ集める」というのが定番の発想ですが、左端の図は、右端の図の斜線部分(正方形の4分の1)を直線や曲線で切って分散させた図形であるというとらえ方もできます。よって、これも「復元させる」という視点を持つと、より理解が深まるでしょう。

補助線の引き方には「定石」がある

 図形が苦手な子に多いのは、思いつきで必要のない線を何本も引いてしまっていて、余計分かりづらい図形になっているケースです。色々と試してみるのは良いことですが、テスト時に何の根拠もなく、ただやみくもに線を引いていくというのは感心できません。補助線の引き方には、「円周上の特別な点→中心と結ぶ」「面積比を利用したい→頂点同士を結ぶ」「相似な三角形を作りたい→平行線または延長線を引く」など、問題ごとに最も適した「定石」というものがあります。 

 (問題6)

 右の図のようにAB=10cm、AD=14cmの長方形ABCDがあります。四角形PQRSの面積は何平方cmですか。

 <イメージ図の描き方の例>

 問題6

 4本の線を引くことによって、全体を五つの長方形に分けています。この後、同じ部分に同じマークを付けて面積を足し引きすることによって答えが出せます。

 「なぜそこに線を引くのか」という発想の源にあるのは、「分かる図形に分ける」「分かる図形を作る」ということです。それを踏まえた上で、「こういう図形は、ここに補助線を引く」という定石をイメージ図に表して、目で覚えていきます。

結局、「自分専用の参考書」とはどのようなノートなのか

 前回は授業ノートの取り方、今回は家庭学習での図形ノート作りについて説明しましたが、どちらにしてもノートに残すべき内容は、つるかめ算の計算式や、台形やおうぎ形の面積を求める公式などの反復練習で自然に身に付くものではありません。その問題を解くための発想法や着眼点、つまり「コアの部分」であることが重要なポイントになります。

 問題を解く手順をすべて覚えようとしていては、いつまでたっても「算数センスを磨く」ことはできません。どこが「コアの部分」なのかを考えたり、研究したりすることが大切であり、そういう取り組みこそが事象の本質を見抜き、構造を理解する力を高めることにつながるのです。

 単なる記録帳や作業帳としての役割だけで終わらせるのではなく、主体的な深い学びや新たな発見を生み出すための「自分の思考の発酵所」として活用されたとき、ノートは「自分専用の参考書」となりうるのではないでしょうか。

プロフィル
粟根 秀史( あわね・ひでし
 教育研究グループ「エデュケーションフロンティア」代表。森上教育研究所客員研究員。大学在学中から塾講師を始め、35年以上にわたり中学受験の算数を指導。首都圏の大手進学塾教室長、私立小学校教頭を経て、現在は算数教育の研究に専念する傍ら、教材開発やセミナー、講演を行っている。また、独自の指導法によって数多くの「算数大好き少年・少女」を育て、「算数オリンピック」金メダリストや灘中、開成中、桜蔭中の合格者などを輩出している。「中学入試 最高水準問題集 算数」「速ワザ算数シリーズ」(いずれも文英堂)など著作多数。

無断転載禁止
1372476 0 マナビレンジャー 合格への道 2020/07/30 05:22:00 2020/07/30 05:22:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/07/20200715-OYT8I50064-T.jpg?type=thumbnail

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