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「計算ミス」を叱ってはいけない理由…後藤卓也

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小3の計算指導は「楽しく」「速く」ゲーム感覚で

 今年は、私個人の体調(高齢化)に加え、新型コロナウイルス感染拡大に伴う休校措置も重なり、5か月近く塾の教壇に立つ機会がありませんでしたが、夏期講習はほぼ連日、小学2~4年生の授業を担当することができました。やっぱり対面での授業は楽しい。まして低学年の子供たちの反応は見ていて飽きることがない。1時間でも多く、1年でも長く、現場に立ち続けたいというのが、偽らざる思いです。

 その中で、3年生は夏期講習に参加した子のクラスを担当したこともあって、先日オンライン保護者会を行いました。教員は私1人という「ワンオペ」開催で、塾の教育理念、教科ごとの指導、家庭学習のポイントなど内容は多岐にわたりましたが、算数に関しては、ほとんど「計算の話」に終始しました。

 小学3年生の教科書を開くと、3、4ケタの足し算・引き算、「÷1ケタ」の割り算、「×2ケタ」の掛け算、そして小数・分数と、「数と計算」のオンパレードです。

 もちろん塾では、文章題や思考力を育てるパズル的な問題も扱います。でも、授業前のひとときは、みんなで「暗算バトル」、自宅ではタブレット型端末のアプリを使った「メイクテン(make10)」(四つの1ケタ数字を加減乗除して10を作るゲーム。藤井聡太二冠の趣味でもあります)、そして授業中も「計算タイムトライアル」と、かなりの時間を計算に使います。

 一般的な計算テストも行いますが、「バトル」「ゲーム」「トライアル」という表現からも分かるように、点数を付けることより楽しむこと、正確な計算より早く答えを出すことを目指す。それが3年生で重視している計算指導です。

 なぜこうした指導を3年生(特に3年の夏~冬)で行うのかというと、学校で「九九」を習うのは2年生ですが、割り算は未習だとすると、「メイクテン」のようなゲームは全員で楽しめない。そして3年生の2月になると、塾ではひと足早く「4年生」に進級し、理科、社会を含む4教科の学習や、カリキュラムに沿った授業の確認テストが始まってしまう。計算ばかりに時間を割くわけにはいきません。

 私たちの塾では、3年生は算数、国語の2教科だけ。テストは年4回だけだし、その結果によるクラス替えもありません。カリキュラムに沿って授業を進めるという縛りや、テスト結果にこだわりたがる保護者からの雑音(失礼!)にとらわれることなく、算数では「数の感覚と計算」の指導(国語では読み聞かせ・音読重視の読書指導)にじっくり力を入れることができるのです。

真面目な子が陥りがちな「計算ミス恐怖症」

家庭では計算ミスを叱ってはいけいない(写真はイメージです)
家庭では計算ミスを叱ってはいけいない(写真はイメージです)

 先日の3年生保護者会では、こうした塾の指導内容を説明したあと、家庭では「計算ミスを叱らないこと」と「筆算を強要しないこと」をお願いしました。この二つの点に関しては、実は3年生に限らず、どの学年の保護者会でもいつも話していることです。

 テストの結果が返却されると、保護者の方々はたいてい総合成績の次に、算数の1番の問題(計算問題)と漢字の点数をチェックする。そして「ちゃんと筆算したの。ちゃんと筆算しないから計算ミスをするんだって、何度言ったら分かるの」とブチ切れる。このセリフ、これまで何度お子さんに投げかけたことがありますか。

 計算ミスを叱ってはいけない理由は、いくつかあります。第一に、それは何の具体的な指導にも助言にもならず、単に親がいら立ちの感情をぶつけているだけだからです。4年生くらいまでの子なら、「宿題をサボったり、授業を聞いていなかったりしたならともかく、なんでケアレスミスくらいでそんなに叱るの」と反発するだけで効果はゼロでしょう。

 逆に深刻なのは、真面目な性格の子が6年生になって「計算ミス恐怖症」に陥ることです。自分の出した答えに確信がもてず、「またやっちゃったらどうしよう」という不安で、テスト中、筆算しては消し、やり直してはまた消しを繰り返し、10分たってもまだ1番の計算問題を前に泣き顔になっているケースは珍しくありません。

 対策は学年や時期によっても異なりますが、まず「計算なんか0点でもいいから、最初に出た答えを書いて、あとは他の問題をやりなさい」と声をかけます。詳しい理由は稿を改めないと書き切れませんが、解答用紙を前に止まっていては何も始まらないし、図形や文章題を解く時に求められる計算はそれほど複雑ではないからです。

試験でのミスはある程度織り込んでおくしかない

 計算ミスを叱ってはいけない第二の理由は、それが本当に「ケアレスミス」である限り、叱っても直らないからです。

 計算ミスの原因として指摘されるのは「数字が汚い(特に0、6、9の区別)」「手を動かさない(途中経過を書かない)」「書き写し間違いをする」などですが、その中には「診断と指導とトレーニング」によってある程度修正できるものと、純粋に本人の集中力不足や緊張によって生じるものがあります。後者の場合は、第一の理由で指摘したように、計算ミス恐怖症のような「心理的な負担」も加わります。それらをすべてひっくるめて「計算ミス」とか「ケアレスミス」とかいうのは乱暴過ぎるでしょう。

 私が経験上よく目にするのは、計算式や筆算を書きすぎて、問題文の文章の上にまで書いて判読不能になったり、どこにどの計算をしたのか自分で分からなくなったりするケースですが、これにはある程度、有効な対処法があります。ただ、何度その指導をしても同じことを繰り返す子が多いのは頭の痛いところですが……。

 ちゃんと指導しても同じミスをするのは、「それが試験だから」です。テストや入試の本番に、平常心で臨むのは大人でも困難でしょう。頭に血が上って、隣の子が気になって、時間が足りなくなって、「あ~、やっちゃった~」と言うのを聞いて、幼い小学生を責められますか。だから、最後は「ある程度ミスをすることを織り込んだ上で、できる限りの指導をし、あとは神に祈る」しかないのです。たぶん。

4年生以降も焦らず、毎日10分の計算トレーニングを

 ということで、結局「計算ミスはなくならない」ので、計算ミスを叱るのは無駄かつ有害なのですが、「計算ミスの可能性を織り込んだ上で、算数全体の点数を上げるための努力の方向性」ならあります。

 ミスをする原因の中で、ある程度の対策が可能なのは、「時間が足りなくなって焦ること」と「計算式や筆算を書きすぎること」だと、私は考えます。これらはやらかすと被害が甚大ですが、それに対する小学校低学年時の指導は、塾の3年生の計算指導として紹介した通りです。

 「暗算バトル」「計算タイムトライアル」などを紹介しましたが、筆算の練習より暗算力の強化を優先すること。そのためにスピード重視・ゲーム感覚のトレーニングを楽しくやらせること。暗算のゲームは単なる反射神経だけでは勝てないので、やがて試行錯誤しながら「作戦」を考える姿勢も身に付きますし、我々もその都度ヒントを与えていきます。

 4年生になると、そのための時間が十分とれなくなってくるのは致し方ありません。4年生以降の計算指導にも、時期に応じていくつかの指導方法はありますが、根本にある考え方は同じです。焦らずに毎日10分程度でいいので、暗算力を鍛えるトレーニングやゲームの時間をとるようにしてみてはいかがでしょうか。

プロフィル
後藤 卓也( ごとう・たくや
 啓明館塾長。1959年愛知県生まれ。東京大学教育学部博士課程修了。1984年の啓明舎設立当初から時間講師として勤務。2年間の西ベルリン(当時)留学経験の後、再び啓明舎へ。94年から塾長。主な著書に「秘伝の算数(全3冊)」(東京出版)、「新しい教養のための理科(全4冊)」(誠文堂新光社)など。(「啓明舎」は2020年3月末から「啓明館」と名称変更しました)

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1443816 0 マナビレンジャー 合格への道 2020/09/05 16:00:00 2020/09/05 16:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200824-OYT8I50004-T.jpg?type=thumbnail

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