神戸女学院という異次元のシチュエーション…辛酸なめ子<34>

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お嬢様エピソード「ごふ」とは何か?

中央に噴水を配した中庭をヴォーリズの設計した校舎群が取り巻いている(写真提供:神戸女学院中学部・高等学部)
中央に噴水を配した中庭をヴォーリズの設計した校舎群が取り巻いている(写真提供:神戸女学院中学部・高等学部)

 140年の歴史を持つ関西屈指の名門校、神戸女学院中学部・高等学部には、心のどこかで憧れを抱いていました。東京の私立校には実現不可能な、山を利用した自然豊かで広大な敷地に、有名建築家によるスパニッシュミッション様式の美しい校舎と庭園……。そんな素晴らしい環境で学んだお二方にお話を伺いました。タイプが違うけれど、それぞれの分野で才能を発揮されている2人は、京都大学出身で「左京区桃栗坂上ル」「女神のサラダ」など多数の著作があり、小説家として活躍している瀧羽麻子さんと、日本漢字能力検定協会の部長で、文章読解・作成能力検定(文章検)・BJTビジネス日本語能力テストの普及と日本語能力育成支援活動に従事している山田乃理子さんです。

 学年的には3学年違っていて、もしかしたら校舎ですれ違っていたかもしれないそうです。

 「学年違うと交流なかったよね。阪神大震災があったので、一時的に仮設校舎でした。しかもその年の3学期はテストがなくて、全員、5段階評価で3がついて、私はその時一番成績が良かったです」と、山田さんは当時を思い出します。神戸女学院だと3を取るのも難しそうです。

 「同じ学年は120人しかいないので、6年間一緒だとみんな知り合いになりますね。卒業後も母校愛が強い人がわりと多いです」と、瀧羽さん。中高6年一緒だと、運命共同体というか、ソウル同級生という感覚になるのはわかります。とくに神戸女学院のような、俗世から隔絶された立地だと、より一体感が高まりそうです。

 写真を見ると、まるでヨーロッパの貴族の邸宅のような校舎で、神戸のお嬢様が集っているイメージです。

 「いましたいました。うちは普通のサラリーマンだったけど少数派です。親はお医者さんとか会社経営されているとか」

 と、山田さんは謙遜していました。いっぽう瀧羽さんは芦屋出身で清楚(せいそ)なワンピースが隠しきれないお嬢様オーラを放っているような。

 「うちも普通の会社員です。当時はお互い、親の職業は気にしてなかったですが」とのことでしたが……。お嬢様エピソードでいうと、トイレのことを「ご不浄」や略して「ごふ」と呼ぶ風習があったとか。

大橋未歩目当てに文化祭は男子が群がる

 ちなみに神戸女学院は、私服通学だったそうです。

 「みんな本当に好きな格好してました。ロリータ系もいたし、ヒステリックグラマーしか着ない子も。私は古着がすごい好きで小汚い感じで高校行ってました。でも注意されたりはしなかったです」。瀧羽さんはかつては古着好きだったという一面が。意外と生徒はお嬢様ファッションではなく、普通に寒い時はスカートの下にジャージはいたり、快適さや自然体を大事にしていたようです。山田さんはパンツ系のファッションを貫いていたとか。

 「完全に私服なんでジーパンにTシャツはいた瞬間で、はいはい、みたいになる。私服よりも制服の方が男子受けが良いのか、関西の女子校の中では甲南女子とか松蔭の方が男子校の人気が高かったです。ただうちの同期には元テレ東のアナウンサー、大橋未歩がいて、文化祭は彼女目当てに男子がいっぱい来てましたね」と、山田さん。近隣にも響き渡る伝説の美少女だったようです。

 そんな山田さんは、大橋さんが出演した「あいつ今何してる?」(テレビ朝日系)で、彼女の気になる同級生として取り上げられたことがあるそうです。番組サイトで高校時代の写真を拝見したら、アンニュイで個性的な美少女で……女子校ではおモテになったのではないでしょうか。

 「ショートカットだったからか、好きだって言ってくれる子もいましたね。交換日記してくださいって頼まれたり、バレンタインにチョコを渡されたりしました。かっこいい感じで扱われるのがちょっと(つら)かったので、意味がわからないふりをしていました」

 モテる側の貴重なご意見を聞くことができました。たしかに女子校ではショートヘアでボーイッシュ系できれいな顔立ちだと、勝手に祭り上げられたりしがちですが、イメージで男役を押し付けられるのも大変そうです。気付いてないふり、わからないふりという処世術は賢明だったかもしれません。

平和で自由というより、心配なほどの警戒心のなさ

 瀧羽さんの周りには、同性に憧れるカルチャーはあまりなかったそうで、学年によって雰囲気が違うようです。

 「アイドルみたいな人はいなかったような。誰々が素敵(すてき)、みたいに合わせる習慣がないというか。マイペースでした」

 同調圧力もないし、いじめもない平和な環境だったとか。精神的に大人な方が多いのでしょう。

 「スクールカースト的なものもあまり感じたことがなくて。みんな周りのことをそこまで気にしてないというか、グループの小競り合いはあっても、いじめはなかったと思います。群雄割拠みたいな? みんな同じじゃなきゃいけないとか、キラキラしないといけないとかいう焦りもありませんでした」。「群雄割拠」という四字熟語をさらっと出す、さすがの語彙力の瀧羽さん。山田さんも文章検定の仕事をしていて、自然と語彙がうずまいている座談会です。

 「自由の精神みたいなのがうたわれてましたよね」と、山田さん。神戸女学院は校則もほとんどないそうです。

 「本当に自由ですね。制服の代わりに校章つけなきゃいけなかったんですが、忘れてもとくに罰則はなかったです」という瀧羽さんに、
 「あまりつけた覚えはないです」と、山田さんは回想します。校則が厳しくないと、反発したくて不良行為に及ぶ人もあまりいないというメリットが。

 「放課後、街で見張りの先生に会っても逃げ隠れせず、『おー、何してんのこんなところで』と、屈託なく先生に話しかけたりしちゃうんですよね。その警戒心のなさが心配だと先生に言われたりしました」

 とくに女子同士でいると警戒心はなくなって、温室や楽園のような居心地の良さがあります。男子がいないというのも平和を保つ要因でしょうか。

 「それはあると思います。13歳から18歳のとき、男の子の目があって、選ばれる選ばれないとか自分は何番目に可愛(かわい)いと思ってキリキリするのは大変だなと思います」という瀧羽さんの言葉が()に落ちます。

 「彼氏がいる子自体少なかったですね」と、山田さん。
 そして今に通じる、暗黙の女子校ルールみたいなものが。

 「神戸女学院の友達には、自分の恋愛については言いづらいです。大人になってからも気恥ずかしくて言えない。あと、当時は付き合うなら共学より男子校が人気でした」とおっしゃる瀧羽さんに
 「中学から一緒だから恥ずかしいのかもしれない。恋話とかしなかったです。あとは世間でいう性的な話、ファーストキスや初エッチはどうだったとか、全くしたことがない」と、山田さんも同意。

 「ある意味、姉妹みたいなもので。お互いの子ども時代を知ってるから照れがありますね」と瀧羽さん。

 世間は、女性が集まると、海外ドラマ「SEX and the CITY」みたいにえげつない性的トークを言ってるというイメージを抱いているかもしれませんが、女子校出身者のうち多くは下ネタは言うかもしれませんが、基本、自分の具体的な話は避ける傾向にあると思います。私も同級生の結婚式に行って、スライドで初キスがどうこうというエピソードが流れたとき、恥ずかしくてその場から走り出したくなりました。中1から知っていると、そういったことは想像しづらいです。ただ、人によるので、中には自分の初体験したホテルの部屋を撮影して皆に見せている子もいましたが……。

 神戸女学院の話に戻りますが、生徒だけでなく先生にとっても楽園のような環境だったそうです。

 「先生は好きなことを教えていて、先生同士も仲良さそうでした。ただ、今はどうかわかりませんが、いわゆる進学校という雰囲気ではなかったです。成績を貼り出されるとかもないし、勉強しなきゃというピリピリ感がないです。成績が悪くてもそんなに怒られないから、自制心が問われる」と、瀧羽さんはおっしゃいます。

 「教科書が終わらずに学年終わったりしますし。私は授業をたいして聞いてなくて、小学校から落ちる一方というか。目的意識がないとラクな方に行ってしまいます」という山田さんですが、無事に外部受験で合格できたそうです。

 卒業してしばらく()った今、やはり思い出されるのは、素晴らしい環境や美しい校舎。山田さんは
 「人生で一番美しいものを日常的に見たっていう認識です。今でも美術館やきれいな建物を見るのが好きなのはその6年間があったからかな。当たり前に心地よく過ごせてたのが普通じゃないんだって、今は思います。あのシチュエーションは現世から逃れられて、異次元に浸れます」と、遠い目でおっしゃっていました。そこまでとは……羨ましいです。

 「素敵な噴水のある中庭や、シェイクスピア作品ゆかりの植物を集めたシェイクスピア・ガーデンというのもありました。その影響か、今も緑がないと少しつらくて、山を見るとホッとします。学校まではわりと急な山道みたいなところを通るんですが……」と、瀧羽さん。足腰も鍛えられ、シニアになっても元気でいられそうな女子校です。

 ちなみに東京都内の学校の環境について伺うと
 「近代的すぎて会社じゃんみたいな」(山田さん)

 「街中にあると、こんなところに学校が、ってびっくりします」(瀧羽さん)

 というコメントが。そう言われてみると、そうですよね。どこで育つかは運命なので自分ではどうしようもできませんが……。6年間の環境は大事だと、品格が漂うお2人を見て感じました。美しい女子校の思い出を少しでもわけてもらえて、ありがたい時間でした。

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は「大人のコミュニケーション術」(光文社新書)、「おしゃ修行」(双葉社)、「魂活道場」(学研プラス)など。

無断転載・複製を禁じます
1509310 0 マナビレンジャー 合格への道 2020/09/30 05:02:00 2020/09/30 17:33:50 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200929-OYT8I50038-T.jpg?type=thumbnail

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