Withコロナの2021年中学入試で起こること…北一成
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多くの学校では例年よりも短くなった夏休みを終え、小6受験生の皆さんは、来春2021年の中学入試に向けて、本格的な問題演習に入る時期を迎えたことでしょう。しかし、まだ有効なワクチン開発のニュースを聞くことができない現状から考えると、来春の中学入試が、「withコロナ禍」で行われることは、ほぼ間違いない状況になってきたことを意識しておく必要があります。そうした状況下で、7月から8月にかけて、例年よりも遅く各私立中学校の2021年入試要項が次々に公表されてきました。それら最新の入試動向と、塾関係者や受験生保護者の声を考え合わせて、現時点で考えられる来春の中学入試で予想される動きを、ご紹介したいと思います。
大規模入試の安全対策とオンライン入試
すでに3~4か月後に迫った来春2021年入試での「コロナ対策」としてすでに公表されていることとしては、以下のことが挙げられます。
◆大規模入試の安全対策による例年との変化
たとえば、栄東第1回や市川中第1回(幕張メッセ)入試に代表されるような、例年3000~6000人の受験生を集めてきた大規模入試がどのように実施されるのかが話題になってきましたが、この両校でも、試験会場の増設や時差登校(入試)、臨時駐車場の設置などをはじめ、可能な限りの安全対策を施したうえで、例年とほぼ変わらないような入試の実施を予定しているということです。ただし、この両校だけではなく、キャンパス・校舎の収容キャパの上限近くまで多くの受験生を集めることになる人気校では、同様の安全対策が必要になり、各校がその体制を検討していると考えて良いでしょう。
◆中学入試でも出題範囲を考慮(縮小)する動き
この8月までに、日本大学第二中、立教女学院中、東京学芸大学附属小金井中などが、来春入試での出題範囲を一部縮小するなどの措置を公表しています。多くの進学塾のカリキュラムや授業、教材では、中学受験に必要な履修範囲を7月か夏休み後までにはほぼやり終えているため、受験関係者の間では、コロナ禍による学習の遅れは、中学入試にはさほど影響ないのではと見られてきましたが、これらの学校は、「安心して受験できますよ」ということを広く受験生に伝えるために、あえてメッセージとして発信したのではないかと思われます。
◆「帰国生(別枠)入試」にはオンライン入試が続々登場
1~2月に実施される一般入試前に、早ければ10~11月から順次実施される私立中の「帰国生(別枠)入試」を、オンラインでも受験できるようにする動きが続々と登場しています。すでに、かえつ有明、湘南白百合学園、山脇学園、聖徳学園、文化学園大学杉並、目白研心などが、帰国生入試でのオンライン入試導入を公表しています。こうした私立中は今後さらに増えてくることが予想されます。
これらの措置は、今も渡航を実質的に制限されている海外在住の受験生と保護者には大いに歓迎されている模様です。なかには、まず帰国生入試で試行的にオンライン入試を実施して、その結果とノウハウを、コロナ感染拡大によって例年通りの入試実施が難しくなった際に、一般入試でも生かそうと考えている私立中もあります。
◆一般入試ではオンライン入試の導入に慎重姿勢

帰国生入試だけでなく、入試本番の時期に感染拡大が危惧される社会状況になった時の対応策という意味も含めて、一般入試でもオンラインでの実施を公表する私立中が登場しました。しかし、9月に入って東京私立中高協会が、オンライン入試の自粛を申し合わせたことが伝えられ、いったんは実施を公表した都内の私立中高もオンライン入試の導入を取り下げています。東京以外の各県私立中高協会が、この申し合わせを受けてどういう措置を取るのかが今後、注目されます。
◆今年度秋以降の学校説明会・見学会を中止する動きも
休校期間の3~4月はすべての学校説明会・見学会が中止もしくは延期とされ、緊急事態宣言が解除された6月以降も、そうした動きは多くの学校で継続されました。6月末~7月以降は、実際に学校を訪れることができる説明会・見学会も多くで再開されましたが、なかには秋以降の学校説明会・見学会の中止を早々に決断し、公表するケースも出てきました。聖光学院、筑波大附属駒場は、今年度すべての説明会・見学会を中止、立教女学院は11月に予定していた説明会を中止し、いずれもそれらの行事をオンライン化すると公表しています。
◆公立中高一貫校のコロナ感染対策
神奈川県立の公立中高一貫校(相模原中等教育学校、平塚中等教育学校)では、これまで「適性検査」に加え、「グループ活動」を受検生に課してきましたが、21年度はコロナ感染対策のため「グループ活動」を実施しないとすでに公表しています。
試し受験や午後入試の受験生が減少か
◆入試でのコロナ対応や休校期間のオンライン対応も人気動向に反映か
上記のような、入試当日の時差対応(登校)、駐車場の設置、外部会場の増設など、受験生の安全確保を考え、コロナ対策を工夫してくれる学校に保護者の注目が寄せられる可能性が出てきました。同じように、コロナ禍の休校期間中に、どのようなオンライン対応(教育活動の継続)をしてくれたかに関心を寄せる受験生の保護者も増えています。
今回のコロナ禍だけではなく、今後の災害や感染症対策として、いざという時の各校の対応力と教育継続力にも向けられるようになった保護者の目は、来春入試以降の人気動向にも反映することが予想されます。
◆1月中の試し受験の受験生は減少か
入試時期のコロナ感染が心配される1月中の試し受験は、例年に比べ敬遠される可能性があることも、すでに多くの塾で指摘されています。特に神奈川から1月中の千葉・埼玉へ試し受験に向かう受験生の減少はほぼ間違いないと言われています。
◆午後入試(午前と午後のダブル受験)の受験者も一部減少か
1月中の試し受験と同様に、1日のうちの移動範囲が大きくなることでコロナ感染することの心配から、あるいは多くの受験生が集まる午後入試校での“密集”を避けるために、午後入試(午前と午後のダブル受験)の受験者の減少も予想されます。特に一部の人気集中校が敬遠される可能性もあります。
◆震災後と同じく、自宅から近い学校への入学志向が増加か
かつて東日本大震災の直後にも同様の傾向が見られたように、入学後の通学で公共交通機関を使って6年間わが子を通わせるうえで、コロナ感染が心配される遠方の学校への受験(入学希望)が敬遠される傾向も予想されています。
幾度かの危機を乗り越えて実施されてきた中学入試
withコロナの状況下で実施される来春入試の動きと、予想される動きについて紹介してきました。こうした動きを意識しておいていただきたいという願いと同時に、受験生と保護者の皆さんには、決して必要以上に心配や不安を感じることなく、「どのような状況になったとしても、中学入試は無事に実施される」ということを信じていただくようお願いしたいと思います。
かつて中学入試は、何度か大きな危機に直面したことがあります。約30年前の1992年の首都圏入試では、2月1日が前夜未明からの大雪に見舞われ、公共交通機関のほぼすべてが運休もしくは本数を減らして徐行運転をせざるを得ない状況になり、ほとんどすべての受験生親子が予定の集合時刻には受験校に到着できないという事態に直面しました。
しかし、この時ほぼすべての私立中学校が、受験生が到着できる時刻まで試験開始時間を遅らせて、受験生が無事に受験できるような措置を取りました。さらに、遅らせた午後からの試験開始時刻にも到着不可能だった遠方からの受験生にも、特別に時差で試験教室を設けて対応し、最後には16時近くなってたどり着いた受験生も、無事に試験が受けられる対応を取った難関女子校もありました。
また、1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災の年には、この年から入試日を3月1日から2月1日に変更することになっていた兵庫の私立中が、入試日を予定より1か月遅らせました。そして3月の入試当日には、まだ各地に地割れの跡や家屋崩壊によるがれきなど震災の傷痕が残るなか、入試が行われました。なかには灘中学校のように、グラウンドは自衛隊が駐屯する避難所として使われ、体育館は数日前まで遺体安置所とされていた環境のなかでも、何とか中学入試が行われたケースもありました。被災した受験生の中には、別の避難所から直接、家族と受験に来た姿も見られました。
ここでお伝えしたいことは、各私学は、自校を志願してくれた小学生との大切な出会いの場である中学入試を、何よりも大切な場として考えており、たとえコロナの危機下であったとしても、受験生が十分に力を発揮できるよう体制を整えてくれることを、親子で信じていてほしいということです。仮にコロナの感染拡大によって「移動(外出)ができない」状況になったとしても、何らかの方法で「受験できる」と考えて良いはずです。
そうした気持ちで、目の前の「今、できること」に集中して、来春の中学入試に親子で向かっていただくことを願っています。
