「公立王国」で奮闘、存在感増す注目の私学…森永直樹<8>
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私学には教育理念があり、それに基づいた特色ある教育が行われています。新時代を見据えた教育改革が進んでいることもあり、受験生の志望理由の上位の項目を見ると、「校風」「通学時間」「大学進学実績」のトップ3に、「英語教育への期待」など、具体的な学校教育の中身への期待が続きます。
コロナ禍に伴う休校期間中、「学びをとめない」私学の取り組みが公立と比較され、「教育格差」として話題になりました。これは私学の「変化への対応力」として評価され、新しい大学入試への対応や、AI新時代に向けた先進的な取り組みなど、私学の特色ある学校教育と合わせて期待が膨らんでいます。
今回は、関西圏以外の学校を2校紹介します。「公立王国」と言われている地域で、ひときわ輝きを放っており、以前から注目していました。両校とも「変化への対応力」の面でも期待される学校で、コロナ禍でのオンライン対応と合わせて紹介いたします。
静岡県内唯一の中高一貫男子校「静岡聖光学院中学校」
1校目に紹介するのは、静岡市の静岡聖光学院中学校です。県内唯一のミッション系の中高一貫男子進学校です。
未来志向のさまざまな取り組みが注目され、首都圏や関西圏の私学の教員がたくさん訪問しています。星野明宏校長のリーダーシップのもと、教員が生き生きとさまざまなプロジェクトを動かしているのが印象的です。やれるかやれないかは後回しで、「生徒たちにいい刺激を与えることができるなら、まずは動いてみよう」というようなスピード感が特徴です。
コロナ禍でも、このスピード感が発揮されています。2月25日から対策の検討に入り、3月2日にはオンデマンド(動画配信)中心にオンライン授業へと切り替わっています。同時に生徒アンケートを取り、生徒がより主体的に、よりストレスなく授業が受けられるようにZoomでの双方向授業へと進化させ、置かれた状況で何がベストかを考えた対応を取っていました。
この経験を今後にどう生かしていくのかが学校教育に問われているなか、有志の教員が、教室での学びと自宅での学びをシームレスにつなぐ「未来の教室」プロジェクトを始動させています。できるだけ低予算で、そしてできるだけ教室で受ける授業と変わらない質の授業を自宅でも受けられるような教室づくりを、クラウドファンディングを利用して行うというものです。「自校だけでなく、全国の多くの学校が学びをとめずに済むようなお手伝いができたら」という願いのこもったプロジェクト。多くの人に注目し、応援してもらいたいものです。
学校教育の中身では、イギリスのパブリックスクールの名門イートン校、ハロー校とのサマースクールや、ホスト校となって実施される「国際未来共創サミット」に代表される国際交流の機会の多さが特徴です。ほかにも、中学3か年で合計100時間を超える充実したプログラミング授業を行う「BIGIRION-Garage(デジタル創造工房)」や、創造力、クリティカルシンキング、コラボレーション、コミュニケーションを
新しい時代に真価を発揮できる人材を送り出すことが学校に求められる役割ととらえ、「主体的に学ぶ姿勢を持続できる生徒に育てたい」、そして「人生でいくつもの
開校11年目の進学校「岡山学芸館清秀中学校」

2校目に紹介するのは、岡山市の岡山学芸館清秀中学校です。開校11年目の少人数の進学校です。
「世界で活躍できる立派な日本人」と「地域社会に貢献できる真のエリート」の育成を目指し、「人間教育」と「徹底した受験指導」に力が注がれています。教育方針だけ見ると硬い印象を持ってしまいがちですが、生徒と教師の距離感が絶妙で、これからの時代に必要なものであれば積極的に取り入れていく柔軟な姿勢も評価され、岡山県外からも通学者が出るほど人気が高まっています。
コロナ禍での休校期間中の対応も受験指導を売りにする進学校らしいものでした。通常の学校生活と同じ形式を取って規則正しい生活をさせるために、Zoomを利用した双方向リアルタイムでのオンライン授業が4月早々から5月末まで実施されました。
生徒たちは、制服を着てパソコンの前に座り、オンライン上で実施されるホームルームから一日がスタートし、特別編成された時間割の授業へと進みます。時間割は演習と講義が交互になるようにゼロから組み上げ、もう一方では生徒にとっては通常の授業に参加している感覚にできるだけ近づけるべく、生徒への発問やグループ討論など従来の授業の良い点が残されるよう工夫しました。オンラインでの指導は座学だけでなく、体育や理科の実験、プログラミング授業、小テスト、添削指導、面談、質問タイムにまで及び、きめ細かさという点では全国でもトップレベルの対応になっていました。
教育の特色に、「体験」を重視した学びが掲げられています。グローバル時代に必須の「広い視野」を養うためです。中学3年次の「タイ・カンボジア研修」では、過酷な環境の中に置かれた地元の子供たちとの交流を通して、自分たちの当たり前が当たり前ではないことや、学ぶことがいかに大切かを理解し、自分のすべきことや新たな目標を見いだしています。この経験が大きな成長へとつながり、中学3年間の教育の集大成となっています。
森健太郎校長の見据える今後の教育は、これからの時代に必要とされる力を身に付けるため、さまざまな「体験」を通して人間力を向上させ、「学ぶ目的」を見つけ、「学ぶ意欲」につなげていくというもの。
近年の大学進学実績の躍進が注目されていますが、生徒は学ぶ目的を持って進学しているだけに、むしろ進学後の活躍が楽しみです。
静岡聖光学院中は「寮」のある学校です。また、岡山学芸館清秀中は来年度から新コース体制になります。まずは学校ホームページで教育内容をご覧ください。そして興味をお持ちになったら、一度学校へ足を運び、両校の持つ「空気感」を感じ取ってください。
