読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

恵泉女学園の畑で人生に必要な知恵を学ぶ…辛酸なめ子<35>

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

心を鬼にして名も知らぬ草を抜く

 「慈しみ深き~友なるイエスは~♪」。恵泉女学園中学・高等学校の校舎に近付くと、清らかな讃美歌の歌声が流れてきました。草木が生い茂り、花壇には花が咲き乱れるキャンパスに足を踏み入れると、天国に来たのかと一瞬錯覚しそうになります。

 恵泉では園芸の授業が評判です。創立者の河井道氏が、北海道でキリスト教の宣教師と出会い、園芸の楽しさを知ったことが発端だそうです。「人間の努力だけでは成し遂げられない自然の力を知る」ことなどを子どもたちに経験させたい、という願いから園芸の授業が始まりました。気候変動が激しい昨今、人類は地球環境について考えなければならない局面に来ていると感じます。園芸の授業で大地に触れることは、今後の人類の行く末を考える上でも重要な経験になりそうです。今回、その園芸の授業を見学させていただくことができました。

この日の園芸の時間(約100分)の予定は盛りだくさんです
この日の園芸の時間(約100分)の予定は盛りだくさんです

 教室に行くと、この日の授業でやることが書かれていました。「ブロッコリー定植」「ダイコン間引き」「ポップコーン収穫」「秋()き一年草()(しゅ)」など、かなり盛りだくさんです。高1の生徒たちは慣れた様子で体操着に着替え、バケツやスコップを持って学校の近くに借りている畑に向かいます。道中、ファッショントークなどが聞こえてきて、普通のJKらしさが垣間みられました。

 畑に着くと、まず、大根の周りの雑草を抜く、というミッションが。「雑草という草はない」。そんな昭和天皇がおっしゃったと言われる言葉がよぎりますが、心を鬼にして名も知らぬ草を抜くお手伝いをしました。人数少なめのグループに勝手に入らせていただきました。

まずは大根の雑草を抜くのと間引きから……。慣れた様子で黙々と作業しています
まずは大根の雑草を抜くのと間引きから……。慣れた様子で黙々と作業しています

 「大根が一か所から5、6本出ているので、小さそうなのは抜いて3本にしてください」と、園芸科の先生からの指示が。間引き行為ははじめてで、小さめの葉っぱを根から引き抜くのはかわいそうな気がして、なかなか勇気が出ませんでした。生徒さんにどの葉っぱを引き抜くべきかアドバイスいただき、何本か抜いてみました。間引きによって養分が十分にいきわたって、残っている大根が大きく育つのでしょう。人生でも取捨選択が必要だと学べる体験です。抜いた草は、畑の一角の大きな穴に投げ込んで土に(かえ)ってもらいます。

 「スベリヒユって雑草ですよ」と、回ってきた先生が雑草の名前を教えてくれました。「かわいい」と言いながらも抜いていく生徒。園芸の授業について感想を聞いてみました。

 「ふとした時に何でこんなことやってるんだろう、って思うことがありますが、一生懸命やってる時は楽しいです」「教室で座ってるよりは楽しい」と、どちらかというと好評のようでした。大人になってから、この授業の素晴らしさが実感されそうです。

 恵泉ご出身の英語科の花岡尚子先生は、「園芸の授業で花や植物の名前をたくさん覚えたら、絶対いいことあるよ。私もあったもん」と生徒さんに語りかけていました。具体的なエピソードを聞きたいところでしたが、季節感を大切にしていて草花に詳しい女性はモテることはまちがいなさそうです。

年頃になるとなぜか虫を見て叫ぶ

なかなか抜けないトウモロコシ。「おおきなかぶ」のような光景が繰り広げられます
なかなか抜けないトウモロコシ。「おおきなかぶ」のような光景が繰り広げられます
収穫された爆裂種のトウモロコシ。各自持ち帰って家でポップコーンを作ります
収穫された爆裂種のトウモロコシ。各自持ち帰って家でポップコーンを作ります

 大根の間引き、続いてのブロッコリー定植までは順調にいきましたが、「ポップコーン収穫」は難関でした。先ほどまで、ネットで囲われた一角に枯れかけた草がいっぱい生えていて気になっていたのですが、収穫時期を迎えたトウモロコシだったようです。ポップコーンになるトウモロコシは爆裂種と呼ばれます。1人1本ずつ引っこ抜くのですが、かなり背筋力が必要みたいで、「おおきなかぶ」のように2、3人がかりで連結し「せーの!」と引っこ抜く姿も。土まみれになってトウモロコシを収穫したものの「集合体! やだ! 気持ち悪い!」と投げ出す生徒さんがいたり、「あーっ! 虫が!!」「(あり)が登ってる!」と虫に抵抗を示す生徒さんも。

 先生によると、中学生はわりと無邪気に楽しく畑作業をしていますが、高校生になって年頃になると、虫を見て叫んだりする傾向があるそうです。植物だけでなく、人間の成長の過程も見える授業です。トウモロコシを収穫した後は、教室に戻って、今度はピートモスという栽培用の土に花を植える作業を淡々と行っていました。今回この授業を少し見学しただけで初めて知ることがたくさんです。園芸は理科や家庭科など他の教科ともリンクし、知識を深める助けになっています。世俗にまみれた大人としては、土に触れて心身が浄化される効果も感じました。

 副校長で園芸科を担当され、農学博士でもいらっしゃる松井信行先生にお話を伺いました。

 「園芸はいろんな教科とつながって世界が広がります。そして何より、食べることはみんな大好きです。中1では小麦を脱穀して臼で()いて粉にして、パンやスコーンを作ったりします。ジャガイモを5種類育てて食べ比べしたり。高3は水田で米を育てて餅つきをします。卒業してからも、おいしかったことは思い出になりますね」

 たしかに十代にとっては食べることは大きな楽しみです。先生によると、楽しいだけではない現実も学べるそうです。

4階まで吹き抜けのメディアセンターには約9万冊の蔵書が。しかも中央にガジュマルの木が植えられていて生徒を見守っています
4階まで吹き抜けのメディアセンターには約9万冊の蔵書が。しかも中央にガジュマルの木が植えられていて生徒を見守っています

 「一生懸命育てたけど収穫はいまいちだったり、適当にやった人がたくさん採れたり、努力は報われるとは限らない、ということも学びます。たまたま種を()く場所が悪かったり深さが足りなかったのかもしれません。天気も運のうちです」

 園芸で人生の不条理さを体感……。間引きを体験して、弱肉強食についても考えさせられました。また、園芸では虫に慣れることで心身も鍛えられそうです。

 「不思議なもので一人で畑にいるとき、虫がいても騒ぐ人はいないんです。みんながいる時に虫がいると騒ぐ。人に見せたいのか、人間の習性なんでしょうか。慣れればなんてことなくて、刺す虫以外はお友達です」

 騒ぐとかえって虫に襲われるので要注意だと先生はおっしゃいます。

 「うわーってやると襲ってくる。私もこの前実験して、スズメバチの前でワーッて言ったらブワーッてついてきました」

 さすが博士でいらっしゃるので研究熱心で理系男子の(かがみ)です。先生によると学校内には三つのニホンミツバチの巣があり、性格も巣によって「怒りっぽいハチの巣」「穏やかなハチの巣」「面倒くさい性格のハチの巣」とわかれているそうです。いずれも騒がなければ襲ってこないそうで、これもまた人生訓になりそうです。過剰に反応しないで穏やかな気持ちを保てば、何事も平穏に乗り越えられる、という……。人生に必要な知恵は園芸の授業で学ぶことができます。もはや恵泉の卒業生に地球の未来を託したいです。

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は「大人のコミュニケーション術」(光文社新書)、「おしゃ修行」(双葉社)、「魂活道場」(学研プラス)など。

無断転載・複製を禁じます
1672239 0 マナビレンジャー 合格への道 2020/12/07 08:00:00 2021/01/07 13:46:15 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201201-OYT8I50075-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

NEW
参考画像
お買い上げ金額から10%OFF
NEW
参考画像
1ドリンクサービス(お一人様1杯)
NEW
参考画像
1,000円以上お買上げの方に「とうきび茶」プレゼント
NEW
参考画像
「ふぞろいの牛タン・切り落とし」一品プレゼント!
NEW
参考画像
ファーストドリンク一杯無料

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)