読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

強い相手と戦うことが、成長への原動力になる…後藤卓也

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

コンピューターVS人間の将棋青春ドラマ

 年末に「AWAKE(アウェイク)」という映画を見てきました。この映画は、2015年にプロ棋士とコンピューター将棋ソフトが実際に対局した「将棋電王戦FINAL」の最終第5局の「史実」を素材とし、小学生の頃から将棋のライバルであった2人の若者の青春ドラマとして「創作」された作品です。

 若葉竜也さん演ずる「浅川陸」は実力ナンバー1の若手棋士。かたや吉沢亮さん演ずる「清田英一」はライバルの陸に破れて将棋の道を断念し、無気力な大学生活の中で将棋ソフトと出会い、その開発に情熱を燃やすことで再起したプログラマー。その2人が「宿命の対決」に臨みます。

 実は6年前の「将棋電王戦FINAL」の直後に、私はこの「マナビレンジャー 合格への道」で、これは「ソフトの開発者である人間とプロ棋士である人間との戦い」であり、「勝ったのも人間、負けたのも人間、どっちもカッコよかった」という内容のコラムを書きました。

 「コンピューターと人間、どちらが勝つのか」という話題ばかりが取り沙汰され、いささか後味の悪い結末で終わった(その経緯も映画の中で語られています)将棋電王戦でしたが、「AWAKE」はその時の私の気持ちを代弁してくれたかのようなすてきな映画でした。

難問にチャレンジする子は必ず伸びる

 映画の冒頭、初めて将棋会館を訪れた英一に、初対面の陸はこう問いかけます。「君、強い?」

 英一がうなずくと、陸は言います。「よかった。強い相手とやった方が面白いから」

 中学受験を志そうとする小学生の皆さんに、この気持ちを大切にしてほしいと思うのです。例えば志望校を選ぶとき、私は、より偏差値の高い学校に受かった者が「勝者」だとは思いません。偏差値は世間的な「人気の度合い」を示すものに過ぎず、それよりも校風や環境、教育方針などが自分に向いているかどうか、その学校でどんな6年間を過ごしたいと思っているのかが肝心だと考えています。でも、もし「この学校、いいなあ」と思う学校が複数あるなら、その中で一番難しい学校を目標にしてほしい。

 テストのとき、「難しい問題は捨てて、計算問題や基本問題を確実に得点するように」と指導されるかもしれません。それは正しいアドバイスですが、まだ入試まで1年あるとしたら、「どうせこんな問題は解けるはずない」と諦めて、ほかのやさしい問題で地道に点数を拾いに行くのではなく、面白そうな問題に果敢にチャレンジしてほしい。

 難しい問題に挑んだ結果、基本問題で失点して、両親に小言をくらう子のほうが、最後は必ず伸びる。これは30年以上受験指導をしてきた私の実感です。「当たって砕ける」経験を何度も繰り返す中で、1問でも難問を正解したときの達成感が、「もっと強い相手と戦いたい」という気持ちをさらに駆り立てる。それは受験勉強に限らず、スポーツでも音楽でも将棋でも同じだと思います。

負けた時の悔し涙が新たな出発点に

悔し涙を流した数だけ強くなれる(写真はイメージです)
悔し涙を流した数だけ強くなれる(写真はイメージです)

 「負けたくない」「失敗したくない」という気持ちは、みな同じです。将棋の谷川浩司九段(永世名人)のインタビューをさせていただいたとき、「『負けました』と言えない子は強くなれない」という言葉が心に残ったという話も、以前このコラムで書きました。それは対戦相手に対する礼儀であると同時に、自ら負けを認め、受け入れるところから、次の一歩が始まるからです。

 その谷川先生も子供の頃は、負けると駒を投げたりかんだりしたそうです。藤井聡太二冠(王位、棋聖)が小学生の大会の決勝で負けて、大勢の観客が見守るなかで大泣きをしているシーンも、去年何度もテレビで放映されました。確かに、負けは認めなければならない。でも悔しくて涙が止まらないのは、それだけ本気で勝ちたいと思ったからなのでしょう。

 「AWAKE」の中でも、陸は英一との初めての対局に敗れ、暗い夜道で一人膝を抱えて泣き続けます。でもその敗戦こそが、陸が大きく成長するきっかけになりました。その8年後、英一も重要な一局で陸の強さに圧倒され、心が折れ、将棋をやめてしまいます。しかしそれが英一の新たな人生の出発点となります。

 何年も塾に通い、遊ぶ時間も削って勉強してきたのだから、志望校に合格したいと思うのは当然です。そのためにはテストでいい点数をとり、上位クラスを目指さなければならない。でも目の前の強敵(難問)との戦いを避けて、確実に勝てる相手とばかり戦っていたら、自分の殻を破ることはできません。

 自宅学習では難問にも挑戦し、テストの時は確実な勝ちを狙うのも一つの作戦ですが、塾内テストと大手模試、そして実際の入試では、プレッシャーの差は半端ではありません。入試本番の緊張感の中で実力を発揮するには、テストの時こそ失敗を恐れず、真剣勝負を挑むという気持ちで取り組んでみましょう。

 特に「こんな点数をとったら、両親に叱られる」「クラスが下がったら恥ずかしい」「友達にバカにされる」などという考えはきっぱりと捨てること。叱られたり笑われたりするからではなく、本気で挑戦したのに負けた、解けなかった。だからこそ悔しくて涙が止まらない。そして涙が枯れるまで泣いたら、「次は絶対に負けないぞ」という気持ちが湧いてくるのです。

 どれだけ本気の悔し涙を流したか。その涙の数だけ君たちは強くなれる。だから「強い相手とやった方が面白い」という気持ちを、ずっと持ち続けてください。皆さんの「挑戦する気持ち」を心から応援しています。

 最後に、来年以降に中学受験をするお子さん(特に新5、6年生)をお持ちの保護者の皆さまへ。テストの好成績が自信につながる、という要素も確かに無視できません。しかし、5、6年生にもなればかなりの経験値を積んでいるはずです。これからは、自分の足で歩き、高い壁に挑もうとする我が子を、後ろから見守り、ときには背中を押してあげましょう。

 私も、読者の皆さんのお子さんが、単に志望校に合格するだけでなく、受験勉強を通して一回りも二回りも大きく成長することを願い、これからも文章を通してエールを送り続けていきます。

プロフィル
後藤 卓也( ごとう・たくや
 啓明館塾長。1959年愛知県生まれ。東京大学教育学部博士課程修了。1984年の啓明舎設立当初から時間講師として勤務。2年間の西ベルリン(当時)留学経験の後、再び啓明舎へ。94年から塾長。主な著書に「秘伝の算数(全3冊)」(東京出版)、「新しい教養のための理科(全4冊)」(誠文堂新光社)など。(「啓明舎」は2020年3月末から「啓明館」と名称変更しました)

無断転載・複製を禁じます
1797435 0 マナビレンジャー 合格への道 2021/02/05 16:00:00 2021/02/05 16:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210125-OYT8I50046-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)