読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

渋谷に放たれる実践女子生の度胸…辛酸なめ子<39>

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

本当は濃紺のセーラー服

イラスト・辛酸なめ子
イラスト・辛酸なめ子

 創立1899年という由緒正しい名門女子校、実践女子学園。渋谷がテリトリーで都会的なイメージですが、どんな学園生活なのでしょう。仕事で知り合った編集者さんがこちらの学校のご出身で、「実践は渋谷のカラスと呼ばれていました」とおっしゃっていたのが印象的だったので、詳しくお話を伺わせていただきました。

 取材場所のカフェに現れたTさんと、お友達のNさんはマスク姿でも品格やセンスが漂っていました。

 「堅実にして質素、品格ある女性を目指す、という校風でした。基本、地味目な子が多かったです」と、Tさん。

 すぐ近くに華やかな雰囲気の東京女学館があるため、比較されがちだったそうです。

 「誰が言ったのかわからないですけど、女学館は『渋谷の白鳥』と呼ばれ、うちは『渋谷のカラス』と……。今の中学生は赤いリボンなんですけど、私の頃は黒だったんでますます渋谷のカラス感が。カバンも黒くて重かったです。青学もすぐそばで自由の象徴みたいでわりと(まぶ)しく見てました」

 でも、当時の写真をちらっと見せていただくと、制服は黒ではなく濃紺でした。しかもデザインがセーラー服の中でもかなりかわいい部類に入るような……。胸当てなしでリボンは結ぶタイプ。さりげなく女子の魅力を引き出すデザインです。ちなみに女学館も胸当てなしでリボンを結んでいます。渋谷界隈(かいわい)の女子校はおしゃれ偏差値が高いのでしょうか。

 「通ううちに制服はだんだん好きになってきました」と、Tさんはおっしゃいます。

 ただ、渋谷のビル風に苦労することも……。

 「渋谷はビル風が強くて制服のプリーツスカートが舞い上がるから試行錯誤してました」と、Nさん。

 「下に黒いスパッツをはいたり。友達は、黒いプリーツに、カーテンのレールを引っかける金具を()り下げると、重し代わりになってめくれ上がらないと言ってました」

 十代の発想力はすごいです。

時代を感じさせるナゾの風習

 実践では、以前なぞの風習があったことをNさんが教えてくれました。

 「(94年入学の)私たちよりも、ちょっと上の世代の先輩が面白い話をしていました。今は進学校ですが、当時はまだ不良っぽい空気が少し残ってたそうです。上の世代の方が通っていたとき、みんなカバンを小さくしていたそうです」

 たしかスカートの丈をやたら長くしていた世代ですね。86年生まれの西東京の友人がそんな制服姿で貫禄があったのを覚えています。しかし革のカバンを小さくするとは、そんなことが可能なのでしょうか……。

 「お風呂にカバンをつけると革が収縮して小さくなる。それを天日干しすると縮まるそうです。当時流行(はや)ったそうですが、私たちの時代には廃れてました」

 小さいカバンには教科書もあまり入らないので、勉強していないという反体制精神をアピールしていたのでしょうか。今、バッグのサイズが大きすぎてしっくりこない場合にも使えそうな荒技です。

 「私たちの頃にはギャル文化の影響がありましたね」と、Tさん。

 「ギャルはいかに革のカバンを持たないですむか考えてました。サブバッグだけで先生の目を盗んで登校するチャレンジがありました」

 「自分の学校のサブバッグが気に入らないから他校のサブバッグをお友達にもらって使っている子がいましたね」と、Nさんも当時の思い出を語ります。

 まじめそうな実践にギャルがいたとは意外ですが……。

 「渋谷だし、時代的にギャルの時代だったのでいましたけれど、そこまで踏み外してない印象です。学校ではおとなしくしてるかな」と、Nさん。

群れを作らず、サバサバとやっていく

 生徒数が多く(一学年中学8クラス、高校10クラス)、ギャルに限らず様々な人種が共存していたとTさんは語ります。

 「サバサバしてる感じ。群れるっていうより個人個人。グループで分かれていても自由に仲良くやってました」

 ひと学年に400人もいると、クラス替えで人間関係がリセットされて、ひとつのグループにこだわらず、新しい友達が作れそうです。Tさんが当時の女友達数人と遊んだときの写真を見せてくれましたが、とくに仲良しグループとかではなく、皆わけへだてなく仲良かったそうです。浅くて広い付き合いができる女子校のようです。

 「今、当時の同級生との(つな)がりほとんどないんですけど、思い返すとサバサバしていい子(たち)だった。人間関係の悩みってなかったなって。さっぱりしてたのはすごいよかった。人が多いから多様性を認める文化がありました」と、Nさんも同意します。

 ひと学年200人前後だと、強い派閥がひとつ目立ってしまいがちですが、400人もいれば女王キャラが複数出てきて勢力もバラけそうです。ただ、サバサバしすぎてドライになっているという面も。

 「中学生の時は運動会があったのに、高校では運動会がないのも一因かもしれません。一体感が薄れました」と、Nさんは推測。

 「同じクラスになる人が少ないし、高校から入ってくる人もいるし、同窓会でこの人誰だっけ、となりがちです。姉も高校から女子校なのですが、(いま)だに当時の友達と仲良くしていて。母に、あなたのところはずいぶんあっさりしてるね、と言われたことがあります」

 Tさんも「そんなに繋がりが濃くなくて、私に関しては卒業してから同窓会に一回も行ってないですし」と、淡々とした人間関係のようです。

 世の人は、中学高校時代の友達といつまでも仲良くしなくては、という思いにとらわれがちですが、楽しい思い出だけ大切にすれば、人間関係をいつまでも引っ張らなくて良いのかもしれません。実践女子卒業生のクールな人間関係に学ばされました。

 「礼法と度胸は身につきました」とTさんが言うと、

 「中学で渋谷という大都会に放たれたことで、知らないうちに度胸がついたと思います。以来、どこに行くのも何も怖くないですね」と、Nさんもおっしゃいます。度胸といえば、明治時代に欧米に視察に行った下田歌子先生のマインドも受け継がれているのでしょうか。

 「渋谷のカラス」といっても、カラスは鳥の中で最も賢いと言われています。そこには処世術や人間関係に()けている実践女子の生徒への敬意も込められているのかもしれません。

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 漫画家・コラムニスト。東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は「大人のコミュニケーション術」(光文社新書)、「おしゃ修行」(双葉社)、「魂活道場」(学研プラス)など。

無断転載・複製を禁じます
1927651 0 マナビレンジャー 合格への道 2021/03/23 05:01:00 2021/03/23 05:01:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210317-OYT8I50026-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)