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受験生が学校行事に触れにくかった1年間
2021年度入試が終了し、あらためてこの1年を振り返ると、新型コロナウイルスの中学受験への影響は大きかったように感じます。学校に直接足を運ぶ機会が減少し、受験校の選定に影響したのではないか、ということです。オンラインでの学校説明会などは頻繁に実施されていましたが、実際に足を運んでみて分かる「教育環境」や「生徒の様子」などは、なかなかつかみきれなかったのではないでしょうか。文化祭や体育祭を見学して、先輩たちの生き生きした姿に触れて、受験生が自分の意思で受験を決めたというケースは少なくありません。通常なら開放されていた文化祭などの学校行事へ受験生が参加できなかったことは残念でなりません。
学校行事が中止やオンライン開催になったことは在校生にとっても残念なことです。なぜならば、私学の魅力の一つはその学校ならではの「名物行事」であり、在校生たちもその行事に参加したことが、しばしば入学を決めた理由になっているからです。
私学には、創設の理念が息づく行事があふれています。生徒たちの健全な心身を育むために必要な行事は、強い信念と徹底した安全管理の下で行われています。今回は関西を代表する二つの「名物行事」を紹介します。
清風「100km歩行」
一つめは大阪市の男子校、清風の名物行事「100km歩行」です。学校のある大阪市天王寺区から和歌山県の高野山・奥の院までの30時間を超える耐寒ウォ-キングを行います。この行事は30年以上続いていて、私自身7年前に有志数人で体験取材をしています。
この行事は希望制であるにもかかわらず、約700人に及ぶ生徒が参加します。引率者を務める学園教職員有志約150人や「歩行」全体の支援を行う保護者、卒業生・在校生たちを合わせると、実に1100人もの人数によって運営されています。この中には医療や救護のほか、全行程を記録するサポートメンバーも含まれています。
中学1年生たちが歩くのは堺市の泉北高速鉄道「泉ケ丘駅」までの30kmですが、参加するには他学年同様に、年4回のハイキング(昼間歩行2回、夜間歩行2回)のうち2回をクリアし、事前の健康診断で校医に認められるという条件があります。こうした健康面での徹底したチェックに加え、先生方が事前に行う歩行コースの安全確認や当日のサポートがあって、初めてこの行事は実施することができるのです。
安全管理上でのリスクを考え、野外での体験活動をやめてしまう学校が多いなか、この行事を30年以上続けてこられたのは信念以外の何物でもありません。世の潮流がどう変わろうと決して揺るがない、先生方の強い覚悟を感じます。
参加する生徒たちは出発式のあと、学校を午前8時30分に出発し、道中は四天王寺や

このあたりから、標高が高くなり、日が沈んで気温も下がり始め、ヘッドランプを装着しての歩行となります。危険な崖も多く、蓄積した疲労や睡魔との戦いとなります。この峠をクリアすれば、ほとんどの生徒がゴールすると言われています。峠越えに3時間以上を費やし、かつらぎ体育センター(和歌山県かつらぎ町)に到着します。ここで全行程の約5分の3となる62km地点です。時刻は午前3時を過ぎており、保護者お手製の豚汁とおにぎりの朝食をとって、夜明けまで川沿いの道をたどり、高野山へのラストスパートとなります。
山道は傾斜もきつく険しいですが、ここまで来たら突き進むのみです。ゴールの奥の院に到着するのは午後3時30分。吹奏楽部の演奏で迎えられ、到着式が行われます。最後に学園長による万歳三唱が行われ、2日間で成長を遂げた生徒たちは晴れやかな表情で共に完歩した仲間をたたえます。
この行事が生まれた背景について校長・平岡宏一先生に伺った時の話です。「私自身が暗い山道を歩きながら思い浮かべたのは、『
関西学院「青島キャンプ」
二つめに紹介するのは関西学院(兵庫・共学校)の無人島・青島キャンプです。
中学部に入学した新入生たちは、すぐに兵庫県三田市にある関西学院
ところが、先生方や卒業生たちは、「関学生として真に認められるのは、中2の夏を過ぎてから」と皆が口をそろえます。つまり、青島キャンプを経験した後ということです。
スクールモットーの「感謝と祈り、そして練達」を実践する場として、青島でキャンプが行われるようになって半世紀になります。青島は関西学院が所有する、瀬戸内海に浮かぶ無人島です。毎年、中2の夏休み期間に5泊6日のスケジュールで青島キャンプは実施され、生徒たちは島の大自然が持つ厳しさと優しさを体感しながら、互いの知恵を出し合って共同生活を行います。日頃から豊かな生活を享受し、何不自由なく過ごす現代の若者たちにとって、島での生活は最初はつらく厳しい修練の場となります。
キャンプ中、生徒たちはグループを作り、それぞれにキャンプ経験豊富な大学生のリーダーが付いて、あいさつ、行動、ルール、マナーなどを厳しく指導しています。大自然の一部である無人島では、1人のいい加減な行動が全体を危機に陥れる恐れもあります。リーダーによる指導は、こうした行動を戒めると同時に、生徒自身が自らの安全を管理することにもつながっています。最初はリーダーたちに叱られしょんぼりしていた中2生たちも、行動とともに生き生きとした表情に変わり、キャンプを終える頃には見違えるほどたくましい姿を見せてくれます。
半世紀もこのキャンプが続いているのは、「教師が常に生徒とともにある」という伝統が受け継がれているからです。若手の先生方は、本土と島を往来する小型舟艇が運転できるよう進んで船舶免許を取得しています。また、キャンプの1か月前から1人の先生が無人島に入り、準備を進めています。安全面での万全のサポート体制を含めて、ここまでできる学校はそうはありません。教師だけでなく、生徒や家庭、卒業生といった互いの厚い信頼関係の上に成り立つ、関西学院という大きなファミリーだからこそできる行事なのです。
