計算問題は「暗算」と「工夫」で要領よく…粟根秀史<10>

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練習量は多いのに計算力が上がらない悩み

 「算数の土台は、何と言っても計算力です」「計算問題は、必ず正解できるようにしましょう」「計算のスピードと正確さを身に付けるには、毎日の計算練習が欠かせません」

 ここまでは、塾の先生から常に言われていることですし、学習法の本にもよく書かれていることです。そして、保護者の方も、我が子の家庭学習の状況やテストの結果から、計算力がいかに重要か十分承知されていることでしょう。

 しかし実際は、量はこなしていても、質にこだわった計算練習ができていない子供が多いのです。また、保護者の方も、「計算ばかりは地道にたくさん練習させるしかない」と思っています。そして、「毎日練習をしているのになかなか計算力が上がらない」という悩みを抱えているケースは少なくありません。

 計算のスピードを上げる方法としては、次の二つが考えられます。

 (1)筆算や途中式を書くスピードを上げる

 (2)暗算力や工夫する力を高める

 (1)の方法には限界があります。その限界を超えてしまうからミスが多発するのです。そうであるにもかかわらず、筆算や途中式をどれだけ速く正確に書くことができるか、それのみをひたすら練習している子供がいます。

 計算する時は、必ず筆算することや途中式を書くことを、親や先生から強要されているからです。

 そのような大人の方は「書かないからミスが起こる」と思っていらっしゃるようですが、実際には書かなくてもよいことをゴチャゴチャと急いで書くことによって、ミスが起こってしまっているのです。

 計算のスピードと正確さの両方を上げるには、計算方法そのものを根本から考え直す必要があります。

 つまり、上の(2)の「暗算力や工夫する力を高める」ことに力点を置くしかないということです。

解答プロセスの質の違い

 暗算とは、頭の中で筆算をイメージして解くことではありません。例えば、次のような問題を、筆算派のA君と、暗算派のB君に解いてもらったとして、2人の解答プロセスを比べてみましょう。

 (問題)
   148×17-24×34=□

 (A君の解答プロセス)


答え 1700

 (B君の解答プロセス)
   まず、17と34という数字に目を付けて、工夫できるのではないかと考える。

   24×34→24×2×17→48×17と変形して、

   148×17-48×17=(148-48)×17=100×17=1700

  以上を、頭の中でイメージして解く。

 正解しているのだからどちらでもよいのではないかと思われるかもしれませんが、2人の解答プロセスは質的に全く異なります。A君は教えられた手順そのままの筆算で機械的に計算しているのに対し、B君は数字への洞察力を働かせて楽に解いています。

 たとえ計算問題であったとしても、この時の取り組み方が今後の算数・数学の学習に大きく影響します。どんな計算でも、何も考えないですぐに筆算に頼ってしまうのは受動的な取り組みであり、どう工夫して計算しようかと頭の中で作戦を立てるのは能動的な取り組みであるからです。

 暗算は、数字を短時間頭の中に留めておかなければならないので、ちょうどよい頭の体操になり、また、工夫を考えることは「構想力」を身に付けるための立派な思考訓練になります。

 もちろん、筆算でなければできない計算もあるでしょうから、全てを暗算でやるわけではありません。現在の自分の計算力やその問題のタイプを踏まえて、筆算と暗算のバランスをとりながら解く練習をしていく必要があります。

最新の入試問題にチャレンジ

 「計算の工夫」を要する問題は、毎年の入試で数多く出題されています。2021年度の出題から、3題を例として下に挙げておきます。頭に負荷をかけるには暗算で解くのが最も効果的なのですが、それが難しければ数字をメモすることを織り交ぜながら解いてもらってもかまいません。なお、それぞれの解説は、頭の中で行う解答プロセスの例を詳しく書いたものになっています。

 (入試問題1)

   0.02+1.01+10.1+11+99+99.9+99.97=□

(2021年度 立教女学院中学校)

 急ぐあまり何も考えないで左から順に足していったのでは、逆に時間がかかる問題です。 まず先に式全体を見て、すべて足し算によって構成されていることを確認したら、順番を変えることで計算が楽になるような工夫ができないかを考えます。すると、うまく組み合わせることで「ぴったりの数」が作れることに気付くはずです。

   0.02+1.01+10.1+11+99+99.9+99.97
  =(0.02+1.01+99.97)+(10.1+99.9)+(11+99)
  =101+110+110
  =321                           答え 321

 (入試問題2)

  (37037×84-30030×81-7007×81)×9を計算しなさい。

(2021年度 中央大学附属中学校)

 この問題も(  )の中の左から順番に計算していっても答えは出ますが、大きな数の掛け算や引き算を繰り返すことになり、とても面倒です。

 37037が30030と7007の和になることに目を付けてまとめると、次のようになります。

 まず(  )の中を簡単にすると、

   37037×84-(30030+7007)×81
  =37037×84-37037×81
  =37037×(84-81)
  =37037×3
  =111111
 これに「×9」をすればよい                答え 999999

 (入試問題3)

   5.69+5.96+6.59+6.95+9.56+9.65=□

(2021年度 四天王寺中学校)

 左から順番に足していっても難しい計算ではありませんが、やや面倒です。式全体を眺めて、一つ一つの数字をよく観察してみましょう。

 一の位、小数第1位、小数第2位、それぞれの位に5、6、9が2回ずつ現れていることに気付かれたでしょうか。

 各位とも数の和は(5+6+9)×2=40であるから
   1×40+0.1×40+0.01×40
  =(1+0.1+0.01)×40
  =1.11×40
  =44.4                         答え 44.4

 ただがむしゃらに計算練習をしてきたお子さんの場合、どう工夫したら無駄に計算をしないで答えを出せるのか、途方に暮れるかもしれません。このような問題に対応するには、ある程度「発想法や着眼点」を意識した練習の積み重ねが必要であるからです。

 工夫に気付くための発想法や着眼点を中心に、上手に計算するやり方を説いた問題集としてお薦めするのが、拙著「分野別集中レッスン 算数 計算」(文英堂)です。問題数は多くありませんが、計算センスを磨くには十分な内容になっています。

 これまでに述べた通り、計算問題は解答プロセスこそが最も重要であるにもかかわらず、塾での課題や市販の計算ドリルは、途中の考え方が省略されているものがほとんどです。本書は、全ての問題に対して最も効率的な解答プロセスを載せてあります。

 2週間で集中的に学習するような構成になっていますが、お子さんの学年や現時点での計算力に応じて、学習方法は柔軟に変更していただいてかまいません。本書の中から、保護者の方が面白いと感じられる問題をピックアップして、親子で一緒に考えてみてもいいでしょう。お子さんがすぐ筆算にとびついてしまうタイプであれば、「筆算しないでできないかな?」「簡単に計算できる方法はないかな?」など、工夫を試みるようにやさしく促してあげて下さい。

 自分が思いついた方法ではうまくいかないこともあるでしょうが、失敗もまた大事な経験です。肝心なのは間違ってもいいから、楽しみながらやること。義務的にではなく、遊び感覚で取り組むことです。

 お子さんが上手に工夫して解いた場合は、「よく思いついたね!」「かっこいい解き方だね!」など、大いに褒めてあげて下さい。お子さん自身が、工夫することの面白さを実感し、数の背景に興味を持ってくれたら大成功です。

 この夏は、中学入試の計算問題を題材として、親子で一緒に「数で遊ぶ経験」をしてみてはいかがでしょうか。

プロフィル
粟根 秀史( あわね・ひでし
 教育研究グループ「エデュケーションフロンティア」代表。森上教育研究所客員研究員。大学在学中から塾講師を始め、35年以上にわたり中学受験の算数を指導。首都圏の大手進学塾教室長、私立小学校教頭を経て、現在は算数教育の研究に専念する傍ら、教材開発やセミナー、講演を行っている。また、独自の指導法によって数多くの「算数大好き少年・少女」を育て、「算数オリンピック」金メダリストや灘中、開成中、桜蔭中の合格者などを輩出している。「中学入試 最高水準問題集 算数」「速ワザ算数シリーズ」(いずれも文英堂)など著作多数。

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