「つまずき」「間違い」「失敗」は全て主体的な学びの宝庫…粟根秀史<11>

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つまずくことは良くないことか

 算数の学習で、最も重要なのは先生に解き方を教えてもらうことではなく、自分の頭で考えることです。やや難しめの問題にトライしたなら、解けなかったり間違えたりする場合があって当然です。にもかかわらず、不正解になることを極端に恐れる子供は多いのです。その背景には、保護者による我が子の「つまずき」に対する不安や心配が少なからず影響しているようです。

 塾の先生と保護者の間では、いかに目先の点数を上げていくかということが話し合われ、協力し合ってその手立てを考えます。そこには「つまずき」はあってはならないものという考えが前提にあります。子供たちはこのような雰囲気から、つまずくことは良くないことだと感じ取ってしまいます。このため、できなかったことは隠したい、どんな方法でもいいからとにかく正解したいという態度を形成しています。

 授業中、問題を解く際に、問題を一読して「分からない」「分かりそうにない」と判断した場合、何も書かない子がいます。「どうせ間違っているのだから書いても仕方ない」と思っているのかもしれません。そして、先生が解説してくれるのを待ち、板書をそのままノートに写して、マルをつけます。

 また、自分の考え方や答えを書いても、正解を聞いてそれが間違えていた場合、書き直してマルをつける子もいます。さらには、宿題においても、自分で出した答えではなく解説にある式と答えをそのまま写してマルをつけることもあります。

 これらの作業は、算数の学習とは言えず、全く無意味な時間を過ごしているだけなのですが、そこに考えが至らないほどに、子供たちは自分の失敗の形跡を残すことを恐れています。

 間違えると怒られる子供は、どのようにして自分の間違いをなかったことにするか、そこに意識が向くようになり、肝心な学習内容の方に集中できなくなっているのです。

子供たちが安心して失敗できるためには

失敗で落ち込んでいても、チャレンジする姿勢を評価したい(写真はイメージです)
失敗で落ち込んでいても、チャレンジする姿勢を評価したい(写真はイメージです)

 高校サッカー界の革新者として知られた畑喜美夫氏は、広島県立安芸南高等学校のサッカー部監督を務めた時の指導経験をもとに、「あえて失敗にポジティブに向き合う」ことの大切さについて、次のように著書で語っています。

 「安芸南高校では、試合の公式戦のときは、どんなときも『いいね!』と声を掛け合っています。特に失敗したときやミスをしたときに声を掛け合います。そうすると相手チームは、ミスをしていても『いいね!』とくるのでパワー負けをするのです。不思議なことに、ミスをしたチームの方が勢いづき、試合展開を優位に押すことになるのです。

 練習のときも、意図的に使うことがあります。なぜかというと、失敗はワザとしているわけではないし、一生懸命やった結果なのだから批判、攻撃する必要があるのかということにつながります。怠けた失敗ならともかく、一生懸命やったことであれば、『いいね!』と捉えて、そこから考えればいいのです。」(「チームスポーツに学ぶボトムアップ理論」から)

 周りの大人たちが自分のチャレンジを評価してくれて、たとえ失敗したとしても、それを「いいね!」で肯定してくれたなら、子供たちはどんなに勇気付けられることでしょう。逆に失敗を責めたなら、子供たちは 萎縮(いしゅく) しチャレンジ精神を喪失してしまうかもしれません。

 私たち大人が評価すべきは、「子供が目の前の問題に対して全力を尽くして解こうとする姿勢」であり、正解か不正解かではありません。目先の小さなことにとらわれてしまって、子供の大きな芽を摘みそうになっていないか、考え直してみる必要があります。

失敗から主体的に学ぶことの価値

 スタンフォード大学ビジネススクールのアントレプレナーシップ(企業家精神又は起業家精神)の授業では、「フェイルファースト」をしきりに言われるそうです。「フェイルファースト」とは、直訳すれば「早く失敗しなさい」ということ。「失敗を恐れるな」ではなく、より積極的に「できるだけ早くたくさん失敗しなさい」という「失敗の奨励」なのです。そこには、「失敗と成功は対極的な結果ではない。失敗し尽くした先にこそ真の学びがある」という考えが根底にあります。これは算数の学習にも通じることで、生徒は多量の失敗をして、そこから反省に反省を重ねていくことで本当の実力が付いていくのです。

 このとき、私たち大人が特に気を付けなければならないことがあります。

 大人が「ここを間違えているよ」と指摘するのではなく、自分で間違いを見つけさせること。子供自らが丁寧に自分の思考過程を見直して、どこに矛盾があったのか、何が不足していたのかなど、自分で間違いの原因を突き止めようとすることが重要なのです。そこで不正解と正解を比較したり、不正解から正解を見いだしたりすることで新たな「気付き」が得られます。これは、つまずいたからこそできる貴重な経験です。

 算数ができる子というのは、自分で間違いを見つけて修正し、反省して、次からは間違わないように意識できる子です。大人が間違いを指摘しそれを正してしまっては、せっかくの能力を伸ばす機会を逃してしまうことになります。

 子供が考えに考え抜いて、それでも行き詰まった時だけ大人が手を差し伸べること、それには子供が思考の限界に達するまで待つという大人側の懐の深さが必要です。

 人を育てることは、もともと時間のかかる行為です。その手間を惜しんで効率やスピードばかりを求めていては、結局は本人が力を付けるのを阻んでしまうことになりかねません。

 私たち大人の役割は、子供が安心して失敗から学べる環境を整えること、そして、そこで子供の思考がゆっくりと熟成されるのをじっと待つことなのです。

プロフィル
粟根 秀史( あわね・ひでし
 教育研究グループ「エデュケーションフロンティア」代表。森上教育研究所客員研究員。大学在学中から塾講師を始め、35年以上にわたり中学受験の算数を指導。首都圏の大手進学塾教室長、私立小学校教頭を経て、現在は算数教育の研究に専念する傍ら、教材開発やセミナー、講演を行っている。また、独自の指導法によって数多くの「算数大好き少年・少女」を育て、「算数オリンピック」金メダリストや灘中、開成中、桜蔭中の合格者などを輩出している。「中学入試 最高水準問題集 算数」「速ワザ算数シリーズ」(いずれも文英堂)など著作多数。

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