大妻高校で応援ヴァイブスに触れる…辛酸なめ子<44>

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この雄々しいエール! 確か女子校のはずですが

各組の応援の発表の様子。キリッとした表情がかっこいいです
各組の応援の発表の様子。キリッとした表情がかっこいいです

 大妻高校の伝統の応援団の動画を拝見していたら、気迫でモニターが割れるかと思いました。女子校なのに武士道の本質すら感じさせる 真摯(しんし) な口上。パキパキした動きが体育祭の会場を清め、生徒全員の士気が高まりそうです。

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 その大妻高校の応援団長に取材できるとのことで、緊張しながら学校を訪問。しかし応接室にいらしたのは、雄々しいエールを叫んでいた生徒とは思えない、奥ゆかしい3人の女子でした。オンとオフの切り替えがきっちりしているのかもしれません。

 お話を伺わせていただいたのは、高校3年の3名。伊藤はなさん(白組団長)、久住美月さん(青組団長)、武田真咲さん(黄組団長)です。

 素人にとっては、すごい真剣にエールを叫んでいるのは伝わってきながらも言葉が聞き取れなかったのですが、

 「基本、やっていない人にとっては何言ってるのかわからないと思います。でも一回ちゃんと (のど) 開けて声出すと、他の大学の応援でも何言ってるかわかるようになるんです。応援マジックです」と、青組の久住さん。

 同じ発声法を習得することで、応援の共通言語で通じ合えるようです。

 ちなみに白組が早稲田、黄組が明治大学、青組が慶応大学の応援のエールを使っているとのこと。校名の部分を変えたりアレンジしています。一学年上の先輩から、エールや振り付けを受け継いでいき、60年以上の伝統があるそうです。教員は基本ノータッチで、練習内容やスケジュール管理など生徒の自主性に任せられています。応援団の役職についたら、今後、実生活でも順調に出世しそうなポテンシャルを感じます。

応援団を取り巻くさまざまな二面性の謎

 高3になると、白、青、黄それぞれ団長、副団長、鼓手という三役につきます(3人×3組)。役職決めはスムーズにいくのかというと、

 「ケンカだよね……」と言いかけて「円満な話し合いです」と、白組の伊藤さん。応援団のピリッとした空気が垣間見えました。高2までキツい練習を続けたからには、三役をやりたい、という思いになる人が多いそうです。高1で入った人が次々辞めてしまうほど練習はハードだそうですが……。

 「先輩方からご指導していただくんです」と、黄組の武田さん。

 伊藤さんも「キツいことを言われるんですが、それで精神が鍛えられます」と慎重に答えます。

 高校の先輩だけでなく、合同練習の際にはOGの方を呼んで指導してもらうことも。

 「先輩は二面性を持ってて、裏表違いすぎない?って思うほど優しいときと怖いときのギャップがあります」と、青組の久住さん。

 「首だけかしげてどっかに行っちゃったりとか……。でも練習終わると優しいんです。差し入れしてくださったり」と、当時を思い出す伊藤さん。

 指導と差し入れ、アメとムチですね。二面性がある女性は魅力的かもしれません……。でも話を聞くと文化系の部活の私など想像できないくらい厳しい世界のようでした(そもそも部活と両立は難しい、特別な活動のようです)。

 「静止していなければならないとき、先輩は足音を立てないように 裸足(はだし) でそっと入ってくるんです」(久住さん)

 「太ももに手を当てて動かないようにしないとならないんですけど、先輩が後ろからバーッて手を払って『動くだろ!!』って。力入ってないと怒られます」(武田さん)

 「腕が伸びてないとかめちゃ罵声が……。ずっと上を (にら) んでないとならなくて、目線をずらすとまた怒られる。怒られたら、『はーい、失礼しましたー』と返事します。組によって返事の仕方も違うんです」(伊藤さん)

それぞれ左から黄組、青組、白組の静止の姿勢です
それぞれ左から黄組、青組、白組の静止の姿勢です

 基本の姿勢も組ごとに違っていて、白は足を開き気味。青は背後で親指を立てて、黄色は肩を収納、などのルールがあるそうです。

 「指がちゃんと立ってないと親指~!って怒られます」(久住さん)

 3人とも後ろを向いて基本姿勢を見せてくれました(写真)。エールのとき以外はとにかく静止していないとならないとか。

 「体をナナメらせて固まるみたいな姿勢があるんです。反って固まるのが一番 (つら) いですね」(伊藤さん)

 「いろいろな種類の姿勢があって、そのまま耐えてキープし続けたり、エンドレスって言って殴るふりをずっとやり続けたりします」(久住さん)

 この緊張感の連続が一糸乱れぬ本番につながるようです。

 「こんな怖いってことは入るまで知らなかったです」と、伊藤さんはおっしゃいます。

 「『入ると楽しいよ~』と勧誘の時に言われて……」

 と、ノリが全然違っていたそうです。やはりここでも二面性が……。

 「こんなこと書いたら倍率下がるかも」と伊藤さんは心配していましたが、一生の思い出になることは間違いないです。

何にもなかった高3時代に応援だけが残った

 実際、高校時代はこのご時世なので、切ないことに学校行事がほとんどなくなってしまったそうですが、応援団は練習を続けてオンラインで発表できたので、青春を感じられたと3人は口を (そろ) えます。

 「高3は何もなくて、ビデオ発表だけが私たちの最後のイベントです。それに関しては応援団やってて良かったなって。修学旅行にも行けてなくて、体育祭文化祭もできてない。唯一応援団入ったから思い出ができました」という久住さんの言葉が重いです。コロナ禍で学生生活を送っている人たちの集合思念が伝わってきます。

 「高校の中で一番楽しかったかもしれない」と、武田さん。辛さと楽しさは表裏一体でした。応援団を一言で表すならもちろん「青春」だそう。

 「どんどんやめちゃう子がいたけど、途中でやめなくて良かったなって本番を迎えて思います」と、真摯な瞳で語る伊藤さん。

 「辛い練習で絆が深まりました。人脈とか増えるんで、最終的に良かったなで終えられます」と、久住さんもポジティブシンキングです。

 ちなみに応援団で得たことが日常で生かされるシーンはあるのでしょうか? 「睨み」で部屋の隅にいた霊とかが逃げ出してお (はら) い効果はありそうな気がしますが……。

 「どなり声がデカくなります」(伊藤さん)

 「あの練習を耐えてきたから、多少辛いことがあっても耐えられると思えます」(武田さん)

 「大人になってから高校生活の思い出は何?って聞かれたら、真っ先に『応援団』って出てくると思います」(久住さん)

 気力、体力、忍耐力、人脈、魔よけ……。これから生きていくのに必要なスキルは全て応援団で学べそうです。自分のためだけでなく、人を応援する、という目的が何よりも素晴らしく、その精神があればどんな時もポジティブに切り抜けられそうです。3人からにじみ出る応援ヴァイブスに励まされ、間接的に応援していただいた気持ちになりました。これからも世の中に応援の空気を振りまいていってほしいです。

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。人間関係、恋愛からアイドル観察、皇室、海外セレブまで幅広いテーマで執筆。著書に「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」「スピリチュアル系のトリセツ」「愛すべき音大生の生態」「無心セラピー」「電車のおじさん」「新・人間関係のルール」ほか多数。この連載をまとめた「女子校礼賛」も。

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