完了しました
基本の繰り返しだけでは応用力は付かない
「うちの子は基本問題はできるのに、応用問題になると全く手が付かない」という悩みを持つ保護者の方は多いです。それに対して塾の先生からは、「基本問題を解く練習が足りていません。応用問題は基本問題をひねっただけ。基本が完成していないから応用問題が解けないのです。とにかく基本を繰り返し練習してください」とアドバイスされることもあるようです。
もちろん、まずは基本を理解して、反復練習によって定着させることは大事です。ただし、基本問題を繰り返し解けば、いずれ応用問題も解けるようになるというのは誤解です。
応用問題に対応できるようになるには、基本問題から「基本的な思考の流れ」、つまりテーマ全体を貫く考え方を学び、さらに応用問題でそれを応用するトレーニングを積んでいくしかないのです。
そのように応用問題に取り組んでいくことで、逆に今度は、基本問題をどのように学ぶべきかという方向性も見えてきます。
「平面の分割」というテーマを例にして、基本問題から応用問題へ展開してみます。下の基本問題はもともと大学入試で出題された問題でしたが、最近では中学入試でも頻出のため、どの進学塾のテキストにも載っているはずです。
<基本問題>
1枚の画用紙があります。この画用紙に直線を1本引くと、(図1)のように二つの部分に分けられます。直線を2本引くと、(図2)のように四つの部分に分けられます。

直線を10本引いて、画用紙を最も多くの部分に分けると、いくつの部分に分けられますか。
難関中学の先生方も受験生のほとんどがこの「基本問題」を塾で習っていることを知っていますから、そのまま出題されることよりも、少し条件を変えて出題されることの方が多いです。例えば「もしも2本だけ平行だったら」「直線ではなく折れ線だったら」というように、条件を変化させて、新たな問題にも柔軟に対応して基本を活用する力が試されるのです。
引いた直線のうち、何本かは平行になるような条件をつけ加えると、次のような応用問題になります。
<応用問題1>
1枚の画用紙があります。この画用紙に直線を1本引くと、(図1)のように二つの部分に分けられます。直線を2本引くと、(図2)のように四つの部分に分けられます。

直線を15本引いて、画用紙を最も多くの部分に分けると、いくつの部分に分けられますか。ただし、15本の直線のうち4本の直線だけが互いに平行であるものとします。
直線を折れ線に変えると、次のような応用問題になります。
<応用問題2>
下の図3のような、1回折り曲げた線を考えます。長方形の紙に折り曲げた線を、一つずつ重ならないように描きます。
二つの折り曲げた線で分けられる最も多い部分の個数は7個で、例えば下の図4のように描いた場合です。
10個の折り曲げた線を描いて、長方形を最も多くの部分に分けると、いくつの部分に分けられますか。

肝要なのは問題の構造を理解すること
上記の「基本問題」には、次のような公式があります。
直線をn本引いたとき、平面がいくつに分けられるかは、
n×(n+1)÷2+1(個) で求めることができます。
よって、答えを求めるだけなら、この公式にn=10をあてはめて
10×(10+1)÷2+1=56(個)
となります。
基本パターンを確認するようなテストでは、この公式にあてはめるだけで解けてしまうため、とても便利です。
しかし、これを覚えただけでは上記のような「応用問題」に取り組んだとき、何をやればよいのか分からないはずです。
「基本問題」の構造でさえ理解していないのに、「応用問題」の構造が理解できるはずがありません。
問題の構造を深く理解するには、まず問題のルール通りに自分の手を動かして試行錯誤してみることです。これが学びの第一歩になります。次に、そこで得られた情報から自分で「規則性を発見する」という経験をしなければなりません。さらに、「規則性の発見」で完結するのではなく、「なぜこんな規則になるのだろう」と考察していきます。
「基本問題」に取り組む意義は、テーマ全体を貫く「基本的な思考の流れ」を作ることであって、単に「基本問題が解ける」ようになることだけではないのです。
「基本的な思考の流れ」が形成されないまま応用問題に取り組んだとしても、お手上げになるのは当然です。結局、過去に習った技法を生かすことなく、応用問題においても解法の手順を暗記することになってしまうのです。
上記の「基本問題」との関わり方を具体的に示すと以下のようになります。
まず、小さい数で実験して得られた結果を観察してみましょう。
問題文の例にあるように、直線を1本引くと、二つの部分に分けられる。直線を2本引くと四つの部分に分けられる。では直線3本では? 4本では?……と順番に実験してみて、その結果を表にまとめることで規則性が見えてくるのです。
この作業に初めて取り組む時は、試行錯誤する段階で時間がかかる子供が多いです。「最も多くの部分に分ける」ためには、どのように引けばよいかを考えなければならない上に、4本目を引いた後などは何か所に分かれたのかをかなり丁寧に数えなければならないからです。ですから、この試行錯誤する段階では、子供をせかしたり、すぐにやり方を教えたりしてはいけません。この試行錯誤する時間が、物事の本質への気付きにつながる経験となるのです。
「問題のルールに従って、正確に作業する力」は、せかされたり、教えられたりして身に付くものではありません。子供自身が自分の手と頭を使って経験を積んで身に付けていくしかないのです。
下の図のように、3本目の直線を引くと7個の部分に分かれ、4本目を引くと11個の部分に分かれます。

ここまでで分かったことを表に整理すると、次のようになります。

増える数が一つずつ大きくなっていることに気付いてもらえたでしょうか。この規則性がこの後も続くはずであると判断すると、直線を10本引いたとき、分けられる部分の個数は
1+(1+2+3+4+………+10)=56(個)
と分かります。
答えを求めるだけならこれでよいのですが、ここで終わるとこの問題の構造をまだ深く理解したことにはなりません。「なぜ、このように変化していくのか」を、4本目を引く場合をモデルにして考察してみましょう。
下の図は、すでに3本の直線が引かれている状態から、4本目の直線(点線の矢印)を引いた場合を表したものです。
すでに引いてある直線に突き当たるごとに(図のア、イ、ウの黒丸を通るごとに)一つの部分が二つに分かれ、最後に長方形の辺に突き当たる(図のエの白丸に到達する)と、さらに一つの部分が二つに分かれます。よって、4本目の直線を引いたとき、分かれる部分の個数が(3+1=)4個増えることになるわけです。

ここまで理解できて初めて、「基本的な思考の流れ」が形成されたことになります。
真に効率的な学習を実現するには、まず自分はどのような力を付けたいのか考え、そのための最良の方法を選び、そしてそれを実践しなければなりません。応用力を付けたいのであれば、ショートカットによる解法で手っ取り早く正解する学習ではなく、問題の構造を分析・考察する学習を実践し続ける必要があるのです。
