水道橋で遭遇する無限大のポテンシャル…辛酸なめ子<45>

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ワイルドな下町から桜蔭一本で合格

イラスト・辛酸なめ子
イラスト・辛酸なめ子

 日本で最難関と言われる桜蔭中高。実社会で卒業生と出会う確率も低く、もしいらしたらぜひ話を聞かせていただきたいと思っていました。先日、週刊誌の取材で知り合った方の奥様がなんと桜蔭ご出身と聞いて、畏れ多くも取材を申し込みました。

ベルギーからお嬢様女子校へ……。羨望のプロフィール…辛酸なめ子<47>

 どこか奥ゆかしく上品な雰囲気のHさんは私よりもちょっと年上で、第2次ベビーブーム世代。ひと学年の人数が多いなか、桜蔭に進まれたということはかなり優秀だと思われます。

 「たまに水道橋を通ると30年前にタイムスリップしたような気分になります。見た目も () で立ちも全く変わっていなくて……」と懐かしむHさん。同じく水道橋で桜蔭生と遭遇すると、真面目そうな人が多いのはもちろんのこと、倍速再生したような会話に頭の回転の速さを見せられたように感じて畏怖の念を抱いていました。

 「私が通っていた当時は、お医者様や弁護士、大企業のお子さんが多かったんです。田園都市線沿線や小田急線沿いの世田谷区、新宿区に住んでいた人も結構いました。お嬢様学校ではないんですけど、裕福な家の子が多かったですね。私は下町の自営業の娘だったので、桜蔭生の本流とはちょっと違う感じでした」

 と、Hさんはおっしゃいます。私も埼玉から都内の中高に通っていて、当時埼玉在住者は学年に数えるほどしかおらず、そのアウェイ感、わかります。

 「親は勉強しろって感じじゃなかったんですが、地元の中学がワイルドだったので出たいと思っていました。小4のとき、習い事の一つとして塾に入ったんです。そこで私立中の存在を知りました。親には、どうして公立中があるのに私立を受けたいの?と言われました。地元の塾は、そこまで中学受験に熱心じゃなくて、四谷大塚に入りました。準会員で、結局会員には上がれなかったのですが、その中で10位以内まで行きました」

 と淡々と話されていますが、準会員から桜蔭とはすごい快挙です。でも会員の下の方よりも準会員のトップの方が実はできるのかもしれません。会員という立場に慢心しないで着実に努力を積み重ねるイメージです。

 「親が中学受験に理解がなかったので、日本一偏差値高い女子校だけ挑戦させて、と言って桜蔭だけ受けました。入試は地道に基礎力を問うような問題だったので、そこをきっちりやれば近付けるんじゃないかと」

 と、堅実に桜蔭一本に絞ったことで無事合格。おばあちゃん子だったHさん。祖母が早くに亡くした検察庁勤めの自慢の息子の代わりになって、優秀な成績をおさめたい、という祖母思いの気持ちが天に届いたのかもしれません。受かったら喜んでくれたそうです。

濃い人ばかりに囲まれて、楽しかったけど楽しくなかった

 「入ったら本当に優秀な人が多くて驚きました。ちょっと勘違いして勉強できるつもりでいたけど入って粉々になりました。中学生にして (しゃべ) ってる内容が専門的。人生で培ってきたものが既に違うようでした。ただ勉強だけしてきたって感じじゃない、底力がありましたね」

 それは卒業した今も一貫して同窓生に感じているというHさん。

 「精神的に強くて、自分の物差しでやっている。自分の世界観を極めている人が多いような気がします。ただ当時は濃い人ばかりに囲まれて緊張感があって、楽しかったけど楽しくなかった女子校時代でした。大学行った方がのびのびとやっと息ができた感じです」

 桜蔭にも、勉強好きのグループ、オタク系、派手で大人っぽいグループ、楽しくさわいでいる無邪気なグループ、となんとなく派閥があって、Hさんはわいわいふざけてる感じのグループにいたそうです。

 「私はいじられる方でしたね。友達から教科書に落書きされたり、頭にムース付けられて気付かないまま廊下を歩いていたり。でも、陰湿ないじめとかはなかったと思います。ちゃんと () み分けがされていました」

 桜蔭の派手目な女子の生態についてぜひ知りたいです。小学校のとき桜蔭の文化祭に行ったら、数学部で男子に楽しそうに応対していたきれいな女子高生が忘れられません。

 「きれいな感じの女の子集団は、桜蔭だけどそんなことないよ、みたいなスタンスでしたね。頭が良いだけでも男子からは煙たがられるご時勢だったので。制服を少し着崩して、革の黒い (かばん) はぺったんこにして、トートバッグメインで肘にかけて登校してました。肘からかけてかわいく登校するスタイル、今でも覚えてますね。そうじゃない子は黒いカバンにパンパンに詰めて、トートバッグは肩からかけてました。イケてるグループに入れてもらいたい子は、厚底メガネをコンタクトにして、スカートは短く折ってと、ワンシーズンごとにちょっとずつ 可愛(かわい) くなっていって近付いていきました」

 派手なグループの一部の子は、塾で男子と知り合って交遊することも。その派手な子たちとは別の流れで、制服長くしてスケバンっぽい子も一人いたそうで、時代を感じるエピソードです。そういえば2つくらい上の某女性タレントは都内の女子校のスケバンだったと (うわさ) が回ってきたことがありました……。

でも、卒業した今は友達が財産

 Hさんは桜蔭でどんな青春を過ごしたのでしょうか?

 「おふざけグループは、おしゃれなグループとは違うので、男子バレーの追っかけをしたり、ミーハーなノリで気になる男子校の落書きをしたりしていました。ロッカーに男子御三家の校章や校名を書いている子も。私は高校のとき、小西克哉さんの大ファンで……おじさんが好きでした」

 ジャニーズにハマる女子校の生徒も多いなか、小西さんに行くとはマニアックで、男性の知性に () かれるとはさすがです。今では旦那さんに「口では (かな) わない」と言われるそうです。さらに、桜蔭で培ったものは……。

 「卒業して友達が財産だと実感しています」と、Hさん。

 「男の子がいたらここまで深く仲良くなれなかった。女子校ならではの絆があるかもしれないですね。SNSでつながって、一生懸命生きている同窓生の姿を見ると励まされます。今になって支えられている気がします」

 それを聞いて、同窓生のまっとうな生き方を直視できなくてFacebookにも入っていない自分を反省しました。大変な時代だからこそ、タフな同窓生のパワーを感じることで乗り切れそうです。部外者ながら、また、水道橋で無限大のポテンシャルを感じさせる桜蔭生のエネルギーを吸収させていただきたいです。

プロフィル
辛酸 なめ子( しんさん・なめこ
 漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。人間関係、恋愛からアイドル観察、皇室、海外セレブまで幅広いテーマで執筆。著書に「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」「スピリチュアル系のトリセツ」「愛すべき音大生の生態」「無心セラピー」「電車のおじさん」「新・人間関係のルール」ほか多数。この連載をまとめた「女子校礼賛」も。

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