にわかなブーム到来で大正の女学校の生態を知る…辛酸なめ子<46>
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憧れの令嬢たちを写真付きで紹介する一冊

実は今、大正ブームが来ているようです。YOASOBIが「大正
「大正ガールズコレクション」には100年前の女学生や令嬢の写真、文化風俗などが収録されています。「少女画報」「淑女画報」そして現代まで続く「婦人画報」といった雑誌(当時は画報ブームが…?)に掲載されていた、当時の人々の憧れの令嬢たち。大正時代に、女学校に通えるのは恵まれた家庭の子女の証でした。モノクロ写真からも品格が漂ってくるようです。

また、お見合い用も兼ねていそうな令嬢たちの凝った写真も掲載。華やかに彩色されたモノクロ写真の中で、優雅なほほえみを浮かべる令嬢たち。「お喜びの日近く、
結婚相手として人気があったアッパーな職業とは

大正の令嬢たちについてくわしく伺えればと、「大正ガールズコレクション」編著者で、竹久夢二美術館学芸員の石川桂子さんに取材いたしました。
当時、初婚年齢は平均23歳とのことで女学校も良妻賢母教育が多かったのでしょうか。そう伺うと、
「基本的には良妻、賢母育成ですよね。当時の記事を見ていたら、女学校に図書館ができたことがニュースになっていて。今だったら当たり前ですが、当時はそのくらい珍しかったんですね」
と、石川さん。たしかに本に掲載されている女学校の風景を見ても「

令嬢の写真にはお父様の名前と職業が明記されていて、実業家、軍の偉い人、医師、政治家、銀行理事、爵位がある華族、など、すごい上流感でした。マスコミとか芸能人は入ってこないんですね……。当時の女学校の学費の高さを考えると、庶民では通わせられなさそうです。今以上の格差社会です。やはり結婚相手にも、このようなアッパーな職業が人気なのでしょうか。
「はい。実業家や代議士、博士なども好まれました。軍人は大戦後には人気なくなっちゃうんですよね。あと肩書で『紳商』という言葉があって『教養があり、品位を備えた一流の商人』という意味だそうです。当時は教養と品位が大事だったんです」
結婚は、家同士の釣り合いが取れることが条件で、家と家との結びつきが第一。本人の意思や恋愛感情とは関係なく、親同士で進められていたそうです。学校がふさわしい結婚相手を紹介してくれる場合もあったとか。興味深いことに、男性側から人気の女学校の傾向というのもあり、実業家は女子商業学校を好み、実践女学校は陸海軍人に人気。東京女学館は外交官に好まれたそうです。教育方針と信念に通じるものがあったのでしょうか。
女学校時代は夢のように自由なひととき

ただ、せっかく女学校で良い教育を受けても、令嬢の場合は結婚相手も資産家なので働く必要はほとんどなく、
「女子は知識を深めるより、お母さんのお手伝いや家事をするのがよしとされていた時代です。女学校で知識や才能を極める必要はなく、基本は卒業したら花嫁修行とか家事手伝いをしていました」
女性が表現活動するなんて考えられない時代だったのでしょう。今の人はSNSなどで自分を自由に表現できて、教育も極めることができて、かなり恵まれています。当時の風潮はお稽古ごとにも現れていました。
「女学生の習い事で、ピアノでも琴でも一通りはするのですが、プロになってはいけないという空気がありました。将来の結婚相手の家と趣味を合わせるというか、楽しんでもらうための習い事です。裁縫は実用的なたしなみとして喜ばれましたね」
華やかでアッパーな令嬢写真を見て羨ましいと思っていたのが、だんだんそこまで嫁ぎ先や夫に合わせないとならないということを知って、
「当時のエピソードで、ある令嬢がとてもピアノがうまかったそうなのですが、結婚相手のご主人がピアノの音が嫌いで、絶対弾いちゃいかん、と言われてしまったとか。それがあまりに
そこまで夫や嫁ぎ先を喜ばせるためがんばらないとならないとは……。よほど、やんごとなきイケメンの貴族とか、スパダリ的なピシッとした陸軍中尉とかだったら少しがんばれるかもしれませんが、それでも一生サービスし続けるのは不可能です。
「お琴やお三味線の習い事は、ご主人が芸者さんのところに出入りするくらいだったら、家で満足させたい、という意味もあったようですよ」
令嬢写真のたおやかな微笑みからは想像できない過酷な現実。大正時代の妻がそんなに夫に対して立場が弱かったとは……。先人の女性たちのおかげで男女が平等になり、今自由すぎる生き方ができることを感謝したいです。
「令嬢たちにとって、女学校時代は夢のように自由にできるひとときだったんでしょうね。友情を育み、勉学や趣味に没頭できる貴重な時期だったんです。女学校はある意味、安息の場所でした」
石川さんの話を伺ったあと、また令嬢たちの写真を見ると、優雅な中にも、強さや覚悟が瞳に宿っているようでした。改めて、受難の時代を生きた人生の先輩たちをリスペクトです。
