[たからもの]飯野和好さんのカンカラ三線…素朴な響き 自由気ままに
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仕事机の傍らから取り出したのは、丸い空き缶を胴にした三味線。沖縄生まれのカンカラ
沖縄の伝統楽器である三線は、胴に蛇の皮を張ったもの。簡易式のカンカラ三線は、物資が乏しかった戦後、米軍支給の缶詰の空き缶を利用し、盛んに作られたとされている。
「厳しい状況に置かれても楽しもうという、沖縄の人たちの心意気が感じられます。廃品を使い、気取りのないところも気に入っています」。自作の絵本を読み聞かせるイベントで全国を巡る際、必ず持ち歩く「相棒」だ。
テレビアニメにもなった代表作「ねぎぼうずのあさたろう」は、野菜などのキャラクターたちが登場する絵本シリーズ。舞台は江戸時代で、主人公のあさたろうは、編みがさをかぶった旅ガラスだ。わけあって故郷を離れ、全国各地を巡りながら悪者たちを懲らしめている。
「時代ものなので浪曲を意識してセリフを考えています。カンカラ三線を弾きながら読むと、イメージにピッタリ合うんです」
群馬県内の百貨店勤務を経て上京。イラストレーターとして活躍していた30代の頃、行きつけのバーにカンカラ三線が置いてあったが、弾くことはなかった。音の魅力に気づくようになったのは、1999年にあさたろうシリーズ第1作を発表し、図書館などに招かれて読み聞かせをするようになってからだ。
「最初は口で『ベベン』なんて言っていたんですが、ある時、イベントで共演した落語家の桂文我さんが三味線を弾いてくれた。お客さんにもうけ、楽器があった方がいいと思いました」
手にするようになったのは、2003年頃に仕事で訪れた沖縄でのひょんな出会いからだ。
三線を奏でながらユーモアたっぷりに社会を風刺する沖縄歌謡漫談家の照屋林助さん(1929~2005年)を訪ねた時のこと。三線の音色が好きだと言うと、帰り際に照屋さんが経営する店に連れていかれ、「これを買っていきなさい」と立派な三線を勧められた。
「値札を見ると20万円くらいする。隣に1万数千円のカンカラ三線があったので、つい『こっちにします』と言ってしまったんです」
音楽好きで今も年数回、ブルースバンドのライブでハーモニカを披露するが、三線を弾いたことはない。成り行きで買ったものの、途方に暮れて、恐る恐る「どうやって弾けばいいでしょうか」と尋ねた。「自分の声に合わせて好きなように弾きなさい」と、答えが返ってきた。
「おしゃべりするみたいに、自由に弾けばいいんだと言われました。僕はバンドに入るため、必死でハーモニカを練習してきた。それからは、肩の力を抜いて楽器の演奏を楽しめるようになりました」
絵本を読みながらカンカラ三線を弾くと、晴れやかな気持ちになれた。独学で試行錯誤するうちに好きな音を出せるようになり、今ではライブの幕あいで三線のソロ演奏を披露するまでに上達した。
「カンカラ三線は僕にとって自由の象徴。いい加減で、気負わずに楽しめるんです」。風の吹くまま旅を続けるあさたろうは、シリーズ10作目になった。絵本の創作も、音楽も、自由に楽しもうと思っている。(増田真郷)
いいの・かずよし 絵本作家、イラストレーター。1947年、埼玉県長瀞町生まれ。81年に「わんぱくえほん」(偕成社)で絵本作家デビュー。「ねぎぼうずのあさたろう・その1」(福音館書店)で2000年に小学館児童出版文化賞。創作絵本「火 あやかし」(小峰書店)を6月に刊行する予定。