[生活調べ隊]伝統の祭り 存続に外部の力

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 少子高齢化による担い手不足などで、各地に伝わる祭りが危機に直面している。都市からのツアーで「助っ人」を呼び込んだり、他の地域との連携を図ったりと、伝統を守るために対策を練っている。(岩浅憲史)

 

首都圏から体験ツアー / 他地域と連携

黒石寺蘇民祭の体験ツアー参加者は極寒の中、気合の入った表情で境内を巡った(岩手県奥州市で)
黒石寺蘇民祭の体験ツアー参加者は極寒の中、気合の入った表情で境内を巡った(岩手県奥州市で)

 11日の夜から翌朝にかけ、岩手県奥州市の黒石寺こくせきじで、無病息災や豊作を祈願する伝統の裸祭り「蘇民祭そみんさい」が開かれた。黒石寺蘇民祭保存協力会は、担い手確保や情報発信などで一般社団法人「マツリズム」(東京)の支援を受ける。同法人が企画した体験ツアーには、東京や埼玉などから6人が参加。1週間前から肉や魚を断つ精進に励み、住職らから由来や作法を学んだ。

 祭りの当夜。下帯姿で角燈かくとうを手にした参加者は、極寒の中「ジャッソウ、ジョヤサ」とかけ声を響かせながら境内を巡り、川で水を浴び身を清めた。翌朝、クライマックスの蘇民袋争奪戦では、厄よけに御利益のある小間木を手にできた。埼玉県川口市の男性会社員(38)は「過酷でしたが何とか乗り切り、達成感を味わえた」と満足げに話す。

 蘇民祭は岩手県南各地で毎年1~3月に開かれる。「岩手の蘇民祭保存会」によると、戦前に約30あったが現在は11まで減少。参加者も減少傾向にある。黒石寺蘇民祭は今年、県外や市外から約70人が参加した。同保存会理事長の菊地敏明さん(44)は、「『寒さがつらい』『裸は嫌』と敬遠する住民もいる中、遠方から駆けつけてくれるファンの存在は心強い」と話す。

      ◇

 こうした中小規模の祭りの連携を強化するため、マツリズムは1月下旬、交流会「祭サミット」を東京都内で開いた。支援先の全国八つの祭りの運営者ら約50人が、互いの祭りの魅力を紹介したり、振興策を話し合ったりした。

 その一つ、福島県二本松市の「小浜の紋付祭り」(10月開催)は、担い手「若連」会員が昭和初期に約100人いたが、昨年は約15人に激減。準備や山車の運行などの担い手不足から、2年前に首都圏から体験ツアーの参加者を受け入れ始めた。祭りの動画も近く公開予定という。字新町若連会取締の湊和也さん(39)は「外部の力を借りて、伝統の祭りを守りたい」と話す。

 島根県雲南市の「大東七夕祭」(8月開催)は、浴衣や法被姿の小学生による子ども行列が風物詩だ。関係者によると2004年の町村合併のあおりで、運営にあてる補助金の確保が難しい状況だ。「スタッフも足りず、2年前から民泊ツアーの参加者に協力を求めている」。減少する子ども行列の参加者を確保するため、親子連れのツアー客を誘致したり、他地区との連携を図ったりしていきたいという。

      ◇

 日本の祭り研究所(大阪)の苦田秀雄所長によると、伝統ある祭りは全国に推計約30万あるが、少子高齢化や資金難、互助精神の衰退などで、地方を中心に減りつつあるという。「地域の振興やコミュニティー維持に役立つ祭りの廃絶は、地域の廃絶につながる」と苦田さんは指摘する。マツリズム代表理事の大原学さんは「一時的なファン作りだけでは存続は厳しい。祭りの継承ノウハウを持った人材を育成し、住民や出身者らの関心を掘り起こすことが大切」と話している。

■伝統行事の存続、継承のポイント

・支援団体やボランティアなど外部の力を借り、地域の人材を育成

・住民主体でPR動画を作成し、SNSで発信

・小中学生の参加・見学を促進

・女性や外国人の参加拡大

・祭りを担う団体のネットワークを作り、ノウハウ共有

(苦田さん、大原さんの意見をもとに作成)

 

訪日外国人客呼び込む

自分たちもナマハゲにふんして配膳での問答を体験するブラジル人ら(秋田県男鹿市で)
自分たちもナマハゲにふんして配膳での問答を体験するブラジル人ら(秋田県男鹿市で)

 伝統行事の体験企画をインバウンド(訪日外国人客)の呼び水にする動きも広がる。

 昨年11月にユネスコ無形文化遺産に登録された「男鹿のナマハゲ」になれる体感型プログラムが好評だ。第一広告社(仙台市)の企画が、復興庁のインバウンド事業に採択された。

 1月下旬、秋田県男鹿市の双六集落では2日間の日程で開かれ、ブラジル人留学生ら男女5人が参加した。双六ナマハゲ保存会会長の三浦幹夫さん(69)らの手ほどきを受け、カラフルな面や「ケデ」と呼ばれる衣装を手作りした。ナマハゲが厄災を払う行事を体験した。レディット・ラリサ・ビアンカ・ノゲイラさん(29)は「神様の体験がユニークで面白かった」と話す。

 男鹿市によると、ナマハゲ行事は昨年、7町内会で復活した。三浦さんは「文化遺産登録が追い風。行事や体験会で外国人を受け入れたい」。

 第一広告社は昨年、東北ツアーを募集する海外向けサイト「Try! Mystical TOHOKU」を開設。3月から来年3月にかけイギリスから団体客約150人が7回に分かれ、東北を訪れる予定だ。

 東京都墨田区で毎年6月に開かれる「高木神社例大祭」も4年前、米国やインドなどの外国人を受け入れ始めた。獅子頭やみこしを担いで行脚する担い手が不足。高層マンションの建設が相次ぐが、住人はほとんど参加しない。運営に携わる平田慎吾さん(55)は、「伝統行事に関心がある外国の方なら歓迎。下町の活性化につながる」と話す。

 毎年4月、川崎市の若宮八幡宮で開かれる奇祭「かなまら祭」は安産や子孫繁栄などの御利益があるとされ、そのユニークさから、外国人観光客が詰めかけている。

 世界47か国を旅し、国内外の伝統行事に詳しい渡邊賢太郎さん(36)は「自然や風土、神々の信仰に根ざした日本の伝統行事は原始的で神秘的なものが多く、驚きや不思議さを感じる外国人も多い。本物に触れる企画の需要は今後、高まるだろう」とみている。

 

今度は参加者に

 ◇取材を終えて 祭りは非日常(ハレ)の奥深さと、日常(ケ)を生きる住民の願いや思いを共有できる。単なる一地域の祭りではなく、普遍的な体験価値があることに気付かされた。黒石寺では蘇民祭開始直前に雪が降り始め、銀世界となった。「神様が降らせたんだ」。長年参加する地元のベテランがつぶやく。裸に氷点下、極限の状況で長時間の苦行に立ち向かう「祭人」の勇壮さに心躍った。今度は参加者として来よう。

449918 1 ライフ 2019/02/19 05:00:00 2019/02/19 05:00:00 2019/02/19 05:00:00 雪が降る中、体験ツアーで、参加者は下帯姿で威勢良く練り歩いた ※生活面で2019年3月使用予定、無断使用禁止 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190218-OYT8I50067-T.jpg?type=thumbnail

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