「マルシェの再開」~ロックダウン後のパリノート(2)

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 マルシェが再開した。ロックダウンとほぼ同時に閉鎖されていたが、フランス食文化のシンボルと呼べるマルシェの再開は何より喜ばしいことであった。ぼくは週に一度のマルシェへの買い出しが習慣だった。というのは扱っている食材は鮮度もよく、圧倒的に安い。家の近くの魚屋で鯛を一尾買うと30ユーロ(3600円程度)もする。ところがマルシェだと店によっては同じ大きさのものが10ユーロで買える。しかも、産地直送なので美味い。ぼくの行きつけのマルシェは150軒ほどが出店し、肉、魚、野菜、パン、チーズ以外にも、ワイン、お菓子、日用品、靴下、アンティーク、古本、花屋となんでもござれ、まさに生活市場なのだ。

辻仁成のパリノート

 パリ在住の作家・ミュージシャン辻仁成さんが、新型コロナウイルスで都市封鎖が解除された直後のパリでの子育てや、暮らしの様子を伝えます。

 辻 仁成(Tsuji Hitonari)

 1959年、東京生まれ、パリ在住。作家。89年「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞。97年「海峡の光」で芥川賞、99年「白仏」のフランス語翻訳版「Le Bouddha blanc」で仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞。長男が小学5年生の頃から、シングルファーザーとしてパリで子育てを行う。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Webマガジン「Design Stories」主宰。

 死者数も二桁台まで減じ、収束が見えつつあるフランスだが、それでもウイルスが消え去ったわけではない。なので、各店舗はプラスティック板やビニールシート、中にはサランラップで客と商品の間に飛沫バリアーを設け、安全対策に余念がない。行きつけのスペイン食材店などは、ビニールシートの中ほどに四角い穴をあけ、そこを通して金品の受け渡しを行っていた。全店舗が同じような対策を講じていたので、行政指導が徹底されている印象を受けた。

 店員も客もほぼ全員がマスクをつけている。人気店の行列も普段より少なく、しかも、社会的距離を客同士がきちんと守っているし、守れていない人には注意する人もいる。こういうことにルーズだったフランス人だが、2か月に及ぶロックダウンを通してかなりの学習がなされた様子がうかがえる。人出は以前ほどではないが、7割程度は回復している印象で、このことがそのままフランス全体の経済回復を物語ってもいる。

 魚屋ではかつて、魚をさばく店員がお金の受け渡しも担っていたが、解除後、レジ係が登場し、その上、コインや紙幣に触るたびにジェルで手袋の上から消毒していた。この衛生観念はこれまでのフランスには見当たらないものだ。コロナ対策が隅々まで行きわたっているという証拠であろう。

 レストラン、カフェの営業方法について間もなくフランス政府が発表をするという情報が飛び込んできた。いまだ、どのような再開がなされるのか具体的方向性が明らかにされていなかった。飲食業界全体が気をもんでいたが、これで道が開ける。安全を確保さえ出来れば、市民のリターンはスムーズになる。長いロックダウンの後、減ったとはいえウイルスがまだ残っている社会で、経済を取り戻すためのリハビリがはじまった。市民はおっかなびっくりながらも、ロックダウン以前の暮らしへ戻ろうとしている。

 解除からちょうど2週間が過ぎた。ここから先、感染者が増えるかどうかを政府も市民も気にしている。感染者、死者数が再び増えることになれば、開いた経済の門が再び閉ざされる可能性もある。この綱渡りは国民の衛生観念次第というところか。客も店側も新しい市民生活への移行が出来るかどうかを見守っている。ウイルスを手渡さない受け取らない対策こそが、収束への力強い目安となるだろう。昔のように、街角のテラス席でカフェオレを飲める日が待ち遠しい。

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1241871 0 ライフ 2020/05/27 07:00:36 2020/06/03 11:11:48 2020/06/03 11:11:48 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/05/paris6.jpg?type=thumbnail

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