辞書になかった最多画数の漢字「幽霊文字」の怪…「タイト」さんをご存じないですか? 

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 日本人は漢字が大好き。画数が一番多い漢字の秘密を伊藤剛寛・編集委員が紹介する。

難漢字は画数が多い

 難しい漢字の書き方を、独特のリズムで覚える方法が話題となった。お笑いコンビ・オジンオズボーンの篠宮暁さんが、テレビやネット、書籍などで披露している。

 例えば、「薔薇」。漢字を分解し、「クサ、ツチ、ジン、ジン、カイ、クサ、ビー、イー」と、歌うように唱える。それぞれ草かんむり、土、人、人、回、草かんむり、「微の中に横棒」を表している。確かに印象に残る。無理のあるものが多いが、芸として笑える。

 日本人は、漢字が好きだ。クイズ番組では、定番の問題になっている。難しい漢字は、概して画数が多い。

「肉玉そば」で有名なこの店の名前は…

「おとど」ののれん
「おとど」ののれん

 全部で84画ある。

 東京都昭島市のバー「DAITO(ダイト)」。店名の漢字は、「雲」三つと「龍」三つを組み合わせたものだ。

 千葉県松戸市などに店を構える「おとど」は、焼き肉と卵黄がのったラーメン「肉玉そば」で知られる。読みは違うが、同じ漢字を使う。

 この漢字、最も画数が多いと言われることもある。ただ謎が多い。

 早稲田大学教授の笹原宏之さん(日本語学)は、10代の頃に「難読姓氏辞典」という本でこの字に出会い、衝撃を受けたという。最大級の漢和辞典、大修館書店の「大漢和辞典」では64画が最多だからだ。研究者となってからも、調査を続けている。

 「誤って生みだされてしまった『幽霊文字』で、当初は一つの文字ではなかったと考えています」と笹原さんは話す。

最多画数の漢字は、ある青年の名刺から…

 由来は、「姓氏の語源」(丹羽基二著、角川書店、1981年)のコラムで触れられている。

 昭和のある日、ある青年が証券会社に大金を持って現れた。「タイトと申します」と名乗り、名刺を出した。三角形に並んだ「雲」三つの下に、同じく「龍」三つを配置した漢字として紹介されている。龍の字は、雲に食い込んでいない。

 本やインターネットで紹介されるうちに、最多画数の漢字とも言われるようになった。読みは、「だいと」「たいと」「おとど」の3種ある。

姓氏の語源のコラムで紹介された字形。これで1文字(左)。「雲」三つ(中央)、「龍」三つ(右)の字は、それぞれ大漢和辞典にも掲載されている。
姓氏の語源のコラムで紹介された字形。これで1文字(左)。「雲」三つ(中央)、「龍」三つ(右)の字は、それぞれ大漢和辞典にも掲載されている。

 大漢和辞典には掲載されていないが、三角形に雲三つが並ぶ「たい」と、同じく龍三つの「とう」は存在する。コラムで紹介された漢字を、上下で分けたものだ。意味はそれぞれ、「雲のさま」「龍が行くさま」とされる。

 笹原さんは「名刺にはこの2文字が書かれており、『たいとう』と名乗ったのでは。男の名前は仮名だったと思う」と推理する。二つの文字の間隔が狭く、1文字と認識されたのかもしれない。

 笹原さんは現在、長年にわたる調査結果を雑誌「戸籍」に連載中。字形の変化や、読み方が増えていく経過などを詳しく紹介している。

だいと、たいと、おとど?

 若い男が現れたとされる証券会社に問い合わせてみたが、残念ながら、新たな情報はなかった。「姓氏の語源」のコラムには、「もし、タイトさんがいられたら、姓のいわくをあかしてもらいたい」とある。存命の可能性もある。関連する情報があればぜひ知りたいと思う。

 「だいと」「たいと」「おとど」という読み方のバリエーションが生まれた経緯も、詳しくはわからない。「おとど」には「大臣」という意味があるが、「だいと・たいと」との関係はどうなのだろう。

 「daito」と「otodo」を比べると、使われている子音が同じで、「d」と「t」は似た音ではある。「だいと」を逆から読むと、「おとど」っぽく聞こえないかと思いついた。試しに、スマホのソフトで音声を逆再生してみたが、何とも言えない音。そもそもなぜ逆から読むのか、と自問した。

幽霊文字が国際規格に昇格

 店名になったことで、幽霊文字は実体を伴うことになった。今年3月、この文字は、国際的な文字コード規格「ユニコード」にも追加された。笹原さんは「幽霊文字が社会性を獲得し、一人前になった珍しい例」と話す。

大漢和辞典(大修館書店)で最多とされるのは64画
大漢和辞典(大修館書店)で最多とされるのは64画

 大漢和辞典に掲載されている最多画数64画の漢字は二つ。「興」が四角に四つ並ぶ字(せい、意味未詳)と、「龍」が四つ並ぶ字(てつ・てち、多言の意)だ。

 「最も画数が多い漢字」をどう判断すればいいのだろう。

 「ユニコードではこの漢字、大漢和辞典ではこの漢字と、条件をつけて言うことになる」と笹原さんは話す。ミステリアスな経緯がなんとも不思議な状況を生み出すことになった。

「鬼滅」に登場の「栗花落」

 さて、前述の「姓氏の語源」には「栗花落サンは何と訓むか」というコラムも収録されていた。今年になって、読める人が急増しているだろう。「鬼滅の刃」のキャラクターに「栗花落(つゆり)カナヲ」がいる。同書では、梅雨入りが、栗の花が落ちる頃だからと語源が説明されている。

 「鬼滅」は、主人公を始め、難しい漢字だらけだ。それが、作品に謎めいた重厚さを与えているのは間違いない。「薔薇」の覚え方のように、登場人物の漢字を分解して歌う動画もあるようだ。

 「最多画数」の漢字が「ユニコード」に追加されたことで、今後コンピューターで広く対応できるようになれば、いつか「最多画数の名前を持つキャラクター」が登場するかもしれない。

プロフィル
伊藤剛寛( いとうたけひろ
読売新聞生活部編集委員。学生時代から言葉好き。好きな新聞のコーナーは家庭欄「こどもの詩」。

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