「グランドセイコー」還暦…岩手に新工房 世界発信の拠点に
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セイコーウオッチの高級腕時計ブランド「グランドセイコー(GS)」。その誕生60年を迎えた今年、岩手県雫石町に新しい工房「グランドセイコースタジオ雫石」がオープンした。豊かな自然の中で行われている精密な時計作りの現場を訪ねた。

工房は、建築家の隈研吾さんが設計し、7月にオープンした。自然の中に時の流れを感じる日本人の感性を具現化した建物を目指したという。


森の一角にある2階建ての工房は、カラマツなどの木材をふんだんに使った。壁には、板を1枚おきに少し重ねて張る「大和張り」という技法も用いた。時を刻むようなリズムを意図したという。隈さんは「セイコーのもの作りは世界レベル。その代表的な時計を作るスタジオを設計できたことは幸せ」と話す。
1階のクリーンルームと呼ばれる部屋では、約20人の時計師たちが真剣に作業をしていた。工房の通路から、その様子をガラス窓越しに見学できる。
時計の心臓部であるムーブメント(駆動装置)は、直径数センチの大きさ。なかには200を超える微細な部品を組み立てて作ることもある。小宇宙にも例えられる時計の奥深い魅力と、時計師の卓越した技術の一端を直接見ることができる貴重な場所でもある。
工房は今後、コロナの影響を考慮しながら一般にも公開する予定だ。「GSというブランドを世界に発信する拠点にしたい」。セイコーホールディングス会長の服部真二さんは力を込めた。(生活部 福島憲佑)
最高級追求 国産時計の進化史体現
GSの歴史は、国産時計の進化の歩みと重なる。






GSの初代モデル=写真《1》=は1960年に誕生した。当時の時計師たちの合言葉は「世界に挑戦する国産最高級の腕時計」。国産では初めて、スイスの検査基準に準拠した高精度の機械式時計として発売された。価格は2万5000円。当時の国家公務員上級職の初任給の倍以上するほど高額だった。
その後も高性能・高精度のモデルを次々と発表した。72年には、月差±2分を実現した女性用としては画期的な精度を持つモデル=同《2》=を生み出した。
一方、69年にセイコーが世界初のクオーツ式腕時計を発売すると、時計界の主流はクオーツ式に。GSも88年に初めてクオーツ式=同《3》=を発売した。
しかし、90年代には熟練した職人が手仕事で作る機械式の良さが見直され、人気が再燃した。98年にはGSでも機械式が復活=同《4》=。2000年代に入っても進化を続け、07年には初のクロノグラフを発売=同《5》=。そして、今年は誕生60周年を記念したモデル=同《6》=が発表された。