「裏切りと安心」挑み続ける オートクチュール初参加のsacai阿部千登勢さん
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2021年のファッション界で、最も注目されているニュースの一つが「sacai(サカイ)」のデザイナー阿部千登勢さんのオートクチュール(高級注文服)への初挑戦だ。コロナ禍でファッションのあり方も大きく変わる中、サカイは今後、どのような世界観を表現するのか。阿部さんに服作りへの思いを聞いた。(生活部 谷本陽子)

1月下旬、パリで開かれるオートクチュールコレクション。通常はオートクチュール組合の会員しか参加できない。阿部さんは今回、パリのブランド「ジャンポール・ゴルチエ」のゲストデザイナーに選ばれ、初参加する。
サカイとゴルチエによる夢のコラボ。周囲の期待は高まるが、阿部さんに気負いはない。「特別な場面で着るオートクチュールで、あっと驚くような意外性のある服を見てもらえたら」とにこやかに話す。
阿部さんがデザインした服を、パリのアトリエの仕立て職人たちが、一針一針縫って丁寧に作りあげていく。「今までの服作りと全く違う。こんな貴重な経験はなかなかできない。とても興味深いですね」

昨年はファッション界もコロナに揺れた。休業などで苦戦するブランドも多かった。サカイは約40の国と地域にある店舗のほか、昨年から始めたオンラインストアでの販売も好調だという。
なぜ支持されるのか。
阿部さんがこだわるのが「裏切りと安心のバランス」だという。「なにこれ?」と思わせる、ひと目では分からないひとひねりしたデザインと、高度な服作りの技術が生み出すブランド独自のエレガントさ。
例えば、ニットとシフォンなど異素材を組み合わせる。ワンピースとジャケットなど異なるアイテムを合体させる。相反するものを取り入れて、予想外のフォルムを生み出す。「うん?」という疑問が「これステキ」と変わっていく。「このバランスの見極めを大切にしています」
小さい頃から、友達と全く違う服が着たかったという。
母親に頼んで、ブラウスの袖にゴムを入れてギャザーを寄せてもらったり、スカートのシルエットを変えてもらったり。小学5年の時にテレビで知ったデザイナーの仕事に憧れ、中学に入るとミシンで服を自作した。
結婚、出産、仕事と子育ての両立――。年を重ね、環境も変化していく。しかし、「自分が着たい服を作る」という思いはずっと変わらない。「日常のうえに成り立つデザイン」が信念でもある。
「こんな時代だからこそ、より強く、より濃く、サカイらしいコレクションを作りたい」という。ファッションには人をときめかせ、明るく前向きな気持ちにさせる力があると信じているからだ。
「着てくれた人の背中を、そっと押すことのできる服でありたいですね」
ショーのあり方 コロナ禍で変化
コロナ禍はショーのあり方にも変化をもたらした。無観客で行ったり、動画で発表したりするブランドも増えた。



サカイは昨年、2021年春夏コレクションで、メンズは動画で発表。レディースはパリではなく神奈川県小田原市の海を見下ろす屋外の会場でショーを行った。
阿部さんは「何が正解かなんてないと思う。そのとき伝えたいことが動画(デジタル)的なことか、リアルなショーなのか。どちらにも良さがある」と話す。