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[安心の設計]「休眠預金」活用 若者を支援

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 新型コロナウイルスの感染拡大で、雇用への影響が広がっている。こうした中、金融機関に預けたまま10年以上放置された休眠預金を活用し、突然の失業などで困窮する若者を支援する取り組みが始まった。(板垣茂良)

困窮時 「仮の仕事」を緊急提供

消毒作業をする30歳代の男性は、昨年11月から働き始めた。「仕事探しで行き詰まり応募した」という(岐阜市の市立茜部小で)
消毒作業をする30歳代の男性は、昨年11月から働き始めた。「仕事探しで行き詰まり応募した」という(岐阜市の市立茜部小で)

 「お金を稼ぎながら、次の就職先を探せるので助かります」

 1月から、岐阜市内の小学校で毎日行う消毒作業や、地域の飲食店のホームページの情報更新などの仕事を始めた岐阜県各務原市の男性(26)は話す。

 男性が参加しているのは「キャッシュフォーワーク」と呼ばれる、就労機会づくりの取り組み。障害者の就労を支援する一般社団法人「サステイナブル・サポート」(岐阜市)の事業で、時給制で週に30時間働き、月収は10万円ほどになる。

 パニック障害を抱えながら医薬品卸会社で派遣社員として働いてきた男性は、昨年9月、新型コロナの影響を理由に契約更新を打ち切られたという。

 離職後、新たな就職先を探すにも、日々の生活費などが必要になる。休眠預金を活用し、収入を得るための一時的な仕事を提供するこの緊急支援策は、一般財団法人「リープ共創基金」(東京)と認定NPO法人「育て上げネット」(同)が始めた。サステイナブル・サポートなど7団体が昨年9月の審査に合格し、各地で事業を展開する。

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 この取り組みの特徴は、男性の賃金を発注者の小学校や飲食店は負担せず、間に入った団体が、休眠預金を原資とした助成金(7団体合計で約7800万円)から支払っている点だ。

 昨年12月の完全失業率(季節調整値)は15~24歳で5・1%、25~34歳では4・2%と全年齢平均の2・9%より高い。コロナ禍で、若者が就職先を探すことがより難しくなっている。

 サステイナブル・サポート代表理事の後藤千絵さん(41)は「対人関係に悩みを抱えている若者もいる。仕事を続けることによって就労への自信を取り戻してもらうのもこの取り組みの狙いで、消毒作業の仕事は、市教委にこちらから提案して3小学校で実現した」と説明する。

 育て上げネットの工藤啓理事長は「コロナ禍がきっかけでも、10年後に貧困状態に陥っていたら、『あの時になぜもっと頑張らなかったのか』と言われてしまう。新たな就職氷河期世代を生まないように、手厚い就労支援が必要だ」と力を込める。

 事業には、「若者の就労支援を地域課題の解決につなげる」という目標もある。岐阜市立茜部あかなべ小の田中丈晴校長は「作業を引き受けてもらって生じた時間を、保護者への対応などに充てることができた」と感謝する。

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 現在、20~30歳代の男女6人がサステイナブル・サポートの取り組みに参加している。ただ、支援の期限は3月末まで。後藤さんは「仮の仕事をしながら、自分を見つめ直す時間を持ってもらうのも目的。次の仕事が簡単に見つかる状況ではないと思うが、終了後もしっかりと就労支援を続けていきたい」と話す。

 小学校の消毒作業などの仕事をしている男性は、同時にパソコンを使った動画編集の技術などの研修も受けており、「身に付けた技能を生かせる就職先を見つけたい」と意気込んでいる。

 ◆休眠預金=休眠預金活用法で「国や自治体が対応困難な社会的課題の解決」などへの活用が可能になった。2019年度には各金融機関から預金保険機構に1457億円が移管され、すでに一部が活用されている。ただ、預金者はいつでも引き出すことができる。

キャッシュフォーワーク…海外では一般的 自己肯定感取り戻す意味も

 キャッシュフォーワークの取り組みについて、実践・研究を続けている関西大社会安全学部の永松伸吾教授=写真=に、コロナ禍での意義や課題を聞いた。

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 日本ではまだ耳慣れない言葉だが、海外ではNGOなどによる人道支援の手法として知られている。例えば、途上国で飢饉ききんが起きた際、次の凶作を防ぐ灌漑かんがい設備を作るため、地域の住民に働いてもらう。その対価としてお金を支払う。現金の代わりに、食料を配っていた時代もあった。

 2011年の東日本大震災後、被災者の失業対策として展開された国の緊急雇用創出事業は、まさにキャッシュフォーワークの仕組みと言えるだろう。

 私も関わった岩手県釜石市の取り組みでは、仮設住宅の見守りなどを行うNPO法人の事業で、130人以上の雇用が生まれた。大きな災害で住宅を失ったら仮設住宅が必要になるように、仕事を失ったら「仮の仕事」が必要だ、と言えばイメージしやすいかもしれない。

 収入を得てもらうことだけが目的ではない。より大切なのは、参加者たちが仮の仕事を通じ、失業などで傷つけられた自信や自己肯定感を取り戻すことだ。

 コロナ禍では、道路の復旧やがれきの撤去といった工事は生じないため、新たな仕事を生み出すのが難しい面もある。支援する側の力量が試されている。

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1813174 1 ライフ 2021/02/02 05:00:00 2021/02/02 05:00:00 2021/02/02 05:00:00 小学校で消毒作業に従事する男性(34)(1月14日、岐阜市の市立茜部小学校で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210201-OYT8I50118-T.jpg?type=thumbnail

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