[安心の設計]孤立 悩む人に「社会的処方」

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「つながり」提案 地域で支援

 妊産婦や独居高齢者など、社会的に孤立しやすいとされる人たちに、薬を処方するように、必要な“つながり”を提案する社会的処方と呼ばれる試みが各地で始まっている。実践の現場を訪ねた。(板垣茂良)

妊産婦…医療機関が「ママ教室」 参加声かけ

 「夕方になると5か月の娘が泣き出す。どうしたらいいかわからない」「離乳食は欲しがるだけあげて大丈夫?」

 1月上旬、大阪府高石市の市立総合保健センターで「ママのからだとこころのケア教室」が開かれた。妊産婦17人が2班に分かれて車座になり、助産師らと育児の困りごとや悩みを語り合っていた。

 参加した妊産婦は、市内の助産所などから参加を勧められて来た人がほとんどだ。孤立に悩む人たちが、人と人とのつながりが必要だと判断され、ケア教室に足を運んだ。同市では交流を通じて孤立した状況改善を図る「社会的処方」の事業を昨年4月から始めた。オンラインも活用し、ほぼ週2日のペースで行われている。

 妊産婦は体調変化などから不安を抱えてしまうことが少なくない。一方で「孤立感を強めている人ほど、自治体が受け皿を用意して待つだけでは支援につながりにくい」(市保健福祉部の杉本幸嗣理事)。そこで同市では医療機関や助産所に、孤立に悩む母親のケア教室への参加を積極的に呼びかけてもらう「社会的処方」の考え方に着目したという。対象は妊娠中から3歳未満の子どもを持つ女性だ。

 市立母子健康センターから教室参加の“処方”を受けたという女性(41)は、昨年8月に生まれた女児を育てているが、10年ぶりの出産であるうえ、人に頼ることが苦手な性格で、一人で不安を抱えこみがちだったという。女性も「誘ってもらわなければ来なかったかもしれない」と話す。同センターの助産師、黒川由香里さん(40)は、こうした女性ら一人ひとりの話に耳を傾け、不安な気持ちを和らげる役割を果たしていた。

回答者の2割「強い孤独」

 同市と共同で取り組みを行う筑波大の久野譜也教授らが、母親の孤独感について、市内の妊産婦約1300人を対象に国際的な指標を用いて調査したところ、回答した約500人の2割が「強い孤独」を感じているとの結果を得た。久野教授は「妊娠から出産1年未満の女性はうつ傾向を示す割合が高い可能性がある。サポートの仕組みが大切だ」と指摘し、社会的処方の意義を強調する。

 同市では医療関係者だけでなく、保育所の職員も母親らにケア教室への参加を呼びかけている。社会的処方の取り組みに協力する北里大の石井忍助教は「女性が追い詰められて命を絶ったり、子どもを虐待してしまったりするのを防ぐ手段の一つになれば」と期待している。

高齢者…健康改善に必要 医療と福祉の最適解模索

90歳代男性の診療に訪れた村井医師(左から2人目)。同居する息子の相談に耳を傾けていた(1月5日、宇都宮市で)
90歳代男性の診療に訪れた村井医師(左から2人目)。同居する息子の相談に耳を傾けていた(1月5日、宇都宮市で)

 社会的処方を高齢者支援に結びつける動きも活発になっている。宇都宮市で在宅医療に力を入れる村井邦彦医師(52)ら同市医師会の開業医らが、2019年夏から模索し始めている。

 村井医師は月に2回、高血圧や気管支炎などの症状がある96歳の男性の訪問診療をしているが、医療的な対処だけでは難しいと感じている。男性は目が見えないうえ、寝たきりだ。同居している63歳の息子は、20年ほど前に工場を解雇された後、引きこもりの状態が続き、社会的に孤立している。2人は月約12万円の父の年金で暮らしているという。診察を続ける村井医師は、男性の健康改善には、父子の孤立状態の脱却が不可欠だと考えるようになった。

 村井医師は診察にあたって、専門分野を超えて、社会福祉士やケアマネジャーの知恵を借りながら、男性の息子に社会的なつながりを促す助言をしている。男性を一時的に介護施設に預ける「ショートステイ」の利用回数を増やすことを提案したり、将来的な生活保護申請の検討を勧めたりして、医療と福祉の最適な組み合わせを模索している。「ひとりぼっちじゃないから、何でも相談してほしい」と励ます。

 効果的だとされる社会的処方は様々で、体操や囲碁の教室など、地域の集まりを紹介して参加してもらうことで、孤立感が和らぐケースもあるという。少子高齢化や未婚率の増加を背景に、社会的なつながりを必要とする人は今後も全国的に増えていきそうだ。孤立状態の改善に向けた社会的処方の試行錯誤は続く。

  ◆社会的処方 =望まない孤立の状態にある人を、ボランティア活動や趣味の集まりなどに結びつけることを通じて、地域全体で支援する取り組み。イギリス発祥で、医師が薬の処方箋を出すように、社会とのつながりを“処方する”ことから名付けられた。社会環境の改善が、健康回復にも役立つとの考えに基づいている。

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