東京都心で生まれるグラデーション、手作業が生み出す滑らかさ…内田染工場

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住宅街に立つ内田染工場
住宅街に立つ内田染工場

 東京メトロ丸ノ内線の茗荷谷駅から歩いて10分ほど、東京都文京区の閑静な住宅街の一角に、衣類の染色加工を手掛ける内田染工場は立つ。3月下旬、社屋も兼ねた工場を訪れると、グラデーション染めの作業が行われていた。

湯気が立ち上る工場内
湯気が立ち上る工場内
様々な色の染料が並ぶ
様々な色の染料が並ぶ

約1時間の作業の後、美しいグラデーションが完成した(東京都文京区で)=永井秀典撮影
約1時間の作業の後、美しいグラデーションが完成した(東京都文京区で)=永井秀典撮影

 湯気が立ち上る青い液体に、淡いグレーのニットワンピースをつけ、数センチ単位で上げ下げしながら、ゆらゆらと泳がせる。染料の濃度を調整しつつ、約1時間動かし続けると、胸もとから裾にかけて徐々に青みが増していく美しいワンピースに仕上がった。

 すべてが手作業。3代目社長の内田光治さん(59)は「根気と丁寧さが出来栄えに表れる。経験と勘がなせる仕事」と胸を張る。

 1909年に同地で創業。当時、工場の前には川が流れて、同業の工場も並んでいたという。和装織物用の糸染めで始まり、昭和初期に靴下の染色に移行。戦時中、群馬県桐生市に逃れたが、55年に創業の地へ戻り、染色業を再開した。

上部の薄茶色から生成り色になるように脱色した服
上部の薄茶色から生成り色になるように脱色した服

 現在は縫製済みの服を染める、製品染めを主に手掛ける。得意とするのが、染めたり脱色したりして、グラデーション加工を施す特殊染めだ。熟練の職人技と必要に応じて職人が自作する機械から生み出す「境目のない滑らかな色の変化」が特長。パリコレクションの常連ブランドや大手アパレルから、若手デザイナーやスタイリストまで幅広く仕事を請け負う。

 パリコレや東コレに参加するデザイナーの久保嘉男さんは「我々の希望を実現できるように試行錯誤してくれる。 真摯しんし なもの作りの姿勢が色に表れている」と信頼を寄せる。

グラデーション染めを使った、久保嘉男さんが手がける「ミュラーオブヨシオクボ」の2022~23年秋冬の新作
グラデーション染めを使った、久保嘉男さんが手がける「ミュラーオブヨシオクボ」の2022~23年秋冬の新作

 創業から113年を経た今、周辺に同業の姿はない。国内を見渡しても、繊維産業の衰退に合わせて、染色加工業そのものの存在が危うくなっている。それでも、内田さんは「だからこそ頑張りたい。環境意識の高まりやコロナ禍で消費者の意識は変わり、服作りの裏側やものづくりへの関心も高まっている」と話す。

 数年前から、若手社員を中心に実験的な加工を施した服をSNSに投稿したり、古着を染めて期間限定店で販売したりするなど、消費者と直接的につながるための取り組みも始めた。「染めの魅力は変化にある。時代にあわせて私たちも変化しながら、東京の中心でファッションを染め続け、顧客の期待に応えていく」。内田さんは力を込めた。(生活部 野倉早奈恵)

 愛用の、思い出の、憧れの――。心に残る服や装身具はどこで、どのようにつくられているのだろう。全国に点在する生産現場に足を運び、心浮き立つ意匠や高度な技術が注ぎ込まれる瞬間、作り手の思いを随時紹介していく。

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