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青森県三戸町「豊誠園食堂」
青森県

「ご飯おかわりは?」。作業着姿の男性5人組が、ご飯を食べ切る直前の絶妙な頃合い。思わず全員が茶わんを差し出した。特製のニンニク入り豚汁は丼いっぱいに注がれていて、野菜の甘みが際立つ。

男性たちが平らげる間に、きぬさんが小上がりで仕込みを始めると、世間話に花が咲いた。「これはすいとん。青森では『ひっつみ』って呼ぶんだ」ときぬさん。「去年、店内に野生のクマが入ってきた。うちはクマも食べに来るくらいおいしいんだよ」。おちゃめな冗談に、皆が笑った。


男性たちは、近くの鉄工所に、埼玉からやってきたという。「こういうおふくろさんの店は、チェーン店とは違うあったかさがあるね」。翌日のすいとん定食5人分を予約した。こうして日々、緩やかな縁が生まれている。
1967年創業。元々リンゴ直売所だったが、義母が食堂を始め、約40年前にきぬさんが引き継いだ。「おらはやれね、って言ったんだけども。ばあちゃんが『やれる』って言うから」
かつて、店の前の国道は十和田湖へ向かう観光バスがたくさん走っていた。高速道路の開通で交通量は減り、周辺の食堂もほぼ姿を消した。今は、客の多くが運転手や力仕事の作業員だ。「一生懸命働くお客さんのため、栄養のあるものを食べさせないと」。こつこつと、店を守り続ける。
早朝から働く人のために、午前6時ごろに店を開ける。閉店は午後9時過ぎだ。合間に畑仕事をし、そばを打つ。「遠くから食べに来てくれる人たちのことを思ったら、休むわけにいかない」と、定休日もない。

自分で育てた野菜を使い、おかわりを積極的に勧める。家族のような付き合いが生まれ、九州の運転手がカステラのお土産を持って訪れ、お返しに自家製リンゴジュースを持たせたことも。
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