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    古今の作家を巡って専門家と読者からの感想、意見を紹介します。

    どっち派? 芥川賞と直木賞

     今日こそ決着をつけてやろうじゃないか! 純文学の新進作家に贈られる芥川賞。新進・中堅のエンターテインメント作家に与えられる直木賞。両派の対決は、投稿された方々の思い入れとともに、ヒートアップしたのでした。どちらもすばらしいなんて、予定調和型の結論にはしませんぞ。

    芥川賞…個性派続々 自由な作風

    • 高橋弘希さん
      高橋弘希さん

     「やっぱり次は、どんな新人が賞を取るかなって思う」

     芥川賞派の東京都昭島市の高橋聖子さん(39)は、綿矢りさ『蹴りたい背中』(河出文庫)と金原ひとみ『蛇にピアス』(集英社文庫)の2004年のダブル受賞に衝撃を受けたそうです。みずみずしい受賞者と受賞作が、この賞には目立ちます。

     和歌山市の田中克則さん(39)は、若者たちのいら立ちを荒々しく刻んだ村上龍『限りなく透明に近いブルー』(講談社文庫)に、「この一作から文学に興味を持った」。お笑い芸人を目指す者たちの苦闘を描く又吉直樹『火花』(文春文庫)には、東京都小平市の清水健壮さん(18)から「『何だよ、小説って自由だな』と笑顔で憤りました」。

     憤ったあなたも、若い!

     「近年は、個性的な受賞者も続いています」とは、横浜市の子安一也さん(52)の指摘です。受賞決定時の不機嫌な記者会見でも注目を集めた田中慎弥『共喰い』(集英社文庫)と、特異なキャラクターで愛される西村賢太『苦役列車』(新潮文庫)を挙げます。

     文学に持ち重りがあった昭和の作品も忘れられません。苦しい過去を抱えた2人の男女の再生の道行きを記す三浦哲郎『忍ぶ川』(同)。青森市の長牛由美さん(43)は、「相手をそのまま認め、包み、生きる2人の姿に打たれる」。1961年の受賞作です。

     田辺聖子『感傷旅行センチメンタル・ジャーニイ』(ポプラ文庫)には、東京都杉並区の鈴木正宏さん(70)から。「人間の本音をさりげなく語る恋愛を扱った小説です」

     「どっち派」にいつも丁寧な投稿を下さる静岡市の竹内久美子さん(58)は、自分の好きな受賞者を数えると、10対4で芥川賞が多かったそうです。「古井由吉、藤沢周、奥泉光、松浦寿輝……」。一度は読みたい作家ばかりです。

     芥川賞 文芸春秋の創業者である菊池寛が、友人の芥川龍之介の名をつけ、1935年に制定。石原慎太郎『太陽の季節』から村田沙耶香『コンビニ人間』まで、時代を画す話題作を生むことがある。選考委員は、小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、高樹のぶ子、堀江敏幸、宮本輝、山田詠美、吉田修一さんたち。第159回受賞作は、高橋弘希さんの『送り火』。

    直木賞…圧倒的な楽しさや香気

    • 島本理生さん
      島本理生さん

     「断然、直木賞に傾倒する。読んで圧倒的に楽しいから」

     『梟の城』(新潮文庫)で受賞した司馬遼太郎や宮尾登美子、宮城谷昌光さんの名をあげて力説するのは、茨城県利根町の田口広子さん(73)です。歴代受賞者には、華のある作家の名前が並びます。

     「今でも香気のある作品」と福島県会津若松市の満田信也さん(65)が挙げるのは、井上ひさし『手鎖心中』と藤沢周平『暗殺の年輪』(ともに文春文庫)。医者の処置の違いで運命が分かれた男たちを描く渡辺淳一『光と影』(講談社文庫)は、兵庫県猪名川町の西条武俊さん(73)から「人生が一人の考えで左右されることに衝撃を受けた」。

     近年の直木賞受賞作には、女性作家の作品も増えました。恋愛や結婚、仕事。人生の選択肢が増え、迷いも増えた現代社会を映しています。

     熊本市の加藤けさみさん(56)は恋愛小説の名作、小池真理子『恋』(新潮文庫)に、「恋愛の価値観は一人ずつ違うことを教えられた」と言います。人間の成熟について考えさせる角田光代『対岸の彼女』(文春文庫)には、神奈川県藤沢市の秋山ゆかりさん(55)が、「立場の違う女同士の友情と生き方を考えさせられた」と感銘を受けました。

     東京都東大和市の松原達雄さん(84)は、都内のマンションでの殺人事件を題材にした宮部みゆき『理由』(朝日文庫)に、「当時ひとごとではないように感じました」と振り返ります。

     「今までは芥川賞の方が読みがいがあった。今回は直木賞の島本理生さんに共感しました」。愛媛県大洲市の森本正男さん(59)の『ファーストラヴ』(文芸春秋)へのご意見です。著書が多い作家が目立つのも直木賞作家の特徴。森本さんも、続けて島本さんの本を読みたいそうです。

     直木賞 1935年の制定で、年2回受賞者が決まるのは芥川賞と同じ。池井戸潤『下町ロケット』、恩田陸『蜜蜂と遠雷』をはじめ、読む喜びのある受賞作が多く並ぶ。現在の選考委員は、浅田次郎、伊集院静、北方謙三、桐野夏生、高村薫、林真理子、東野圭吾、宮城谷昌光、宮部みゆきさんたち。第159回受賞作は、島本理生さんの『ファーストラヴ』。

    作家名冠した賞 他にも

     けれど、思うのです。果たして芥川賞と直木賞だけが、すばらしい文学賞か。両賞の受賞作に触れたら、有名な作家の名を冠すほかの賞を受けた作品も読んでみませんか。

     谷崎潤一郎賞は、太く、長く生きたこの大作家にふさわしい実力派に与えられる賞。今年は、星野智幸『ほのお』(新潮社)に決まりました。川端康成文学賞は、短編の佳品が対象。今年の受賞作を収めた保坂和志さんの単行本『ハレルヤ』(同)は、生の哀歓を味わうことができます。柴田錬三郎に山田風太郎、織田作之助……。ほかにも様々な作家の名の賞があり、どの受賞作も目が離せません。(待)

    2018年10月03日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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