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    長く読み継がれてきたおすすめの文庫を紹介します。

    『老後の資金がありません』 垣谷美雨著

     「ちびまる子ちゃん」のおじいさん友蔵は、昭和のお年寄りである。子供夫婦と暮らし、孫をかわいがり、ちゃぶ台でお茶をすする。それが今日では、老後破産、老老介護――寿ことほぐべき長寿の印象はなんだか暗い。

     小説は、そんな平成の世相を踏まえながらも痛快な老後エンターテインメントとなった。「老後は安泰」だったはずなのに、娘の派手婚、しゅうとの葬儀で、老後の資金はみるみる減るばかり。おまけに夫婦そろって失職し、2人から漏れる声はフーフーばかり。

     しかし、そこから始まる奮闘に手に汗握り、思わずページをめくると見えてくるのは、夫を亡くしたしゅうとめの変身であり、子の成長。人生いろいろ、長い老後もいろいろ、普通の老後なんて、どこにもない。

     単行本は実用書と思われたのか、6500部だったが、楽しいイラストに装丁を変えた文庫は今年3月の発売から7刷で12万部。是枝裕和監督の映画「万引き家族」で着想の元になった年金詐欺もいち早く題材にし、今日性も抜群だ。(中公文庫、640円)(鵜)

    2018年06月20日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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