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    読売新聞の書評担当記者が選ぶおすすめの1冊です。

    『湖畔の愛』 町田康著

     老舗の九界湖ホテルは、山に囲まれた湖を一望できる高台に立つ。静かで神秘的な空間でさえあるのに、集まってくるのは、客も従業員も俗人ばかり……。

     『パンク侍、斬られて候』をはじめ、破壊力ある小説を書き続ける作家の新刊は「湖畔」「雨女」など3編を収める。経営難を受け止めて働き続ける従業員たち。一夜をともに過ごすことで互いの愛を確かめ合う男と女。描き方によっては、いくらでも美談になる話を、その甘い砂糖菓子をまぶされた薄皮の奥に黒くよどむ軽薄や偽善に至るまで徹底的に見つめ、暴く。

     時には、激しい罵倒や暴力的な場面を重ね、首根っこをつかむようにして人間の本性に目を据えさせる。その先に、生きることのおかしさや悲しみが、不意に泡沫うたかたのように浮かぶのだ。(新潮社、1500円)(待)

    2018年06月27日 05時25分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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