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    読売新聞の書評担当記者が選ぶおすすめの1冊です。

    『死せる菩提樹』 梅津時比古著

     名曲は往々にして誤解される。シューベルトの歌曲「菩提樹ぼだいじゅ」もそう。さすらいの旅を続ける若者が、菩提樹の下で一時、甘い夢に浸る――そんな通俗的解釈に、著者は異を唱える。樹がささやく安らぎは、実は死へのいざないなのだ。

     「菩提樹」を含む連作歌曲集「冬の旅」の楽曲と歌詞を丹念に読み解くと、さすらう若者がアウトローとして社会から拒絶され、幻想や救いから見放されていく過程が浮かび上がる。

     本書によれば、シューベルト晩年の荒涼とした心象風景は、あらゆる救済を否定したニーチェのニヒリズムを先取りしているという。では、旅の最後に若者が出会う「つじ音楽師」は何者なのか。著者の見立ては興味深い。「菩提樹」の代表的録音を解説した巻末のガイドは役に立つ。(春秋社、2000円)(良)

    2018年08月29日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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