文字サイズ
    本にまつわる全国、世界各地の最新ニュースをお届けします。

    自伝「少年の名はジルベール」刊行 竹宮惠子さん

    少女マンガ革命の原点

    • 「よく書いてくれた、という反響が多くて、びっくりしています」と語る竹宮惠子さん(京都精華大で)=長沖真未撮影
      「よく書いてくれた、という反響が多くて、びっくりしています」と語る竹宮惠子さん(京都精華大で)=長沖真未撮影

     少年愛やSFを題材とする名作で少女マンガ史を塗り替えた竹宮惠子さん(66)と萩尾望都さん(66)は若き日に短期間、伝説の<大泉サロン>で同居生活を送っていた。

     しかし、2人はたもとを分かち、サロンの実相もベールに包まれてきた。現在は京都精華大学長を務める竹宮さんが自伝『少年の名はジルベール』(小学館)で45年前の出来事を克明に明かした。

     南仏の男子校で少年たちが悲劇的な恋愛を繰り広げる『風と木の詩(風木)』(1976~84年連載)の竹宮さん。ドイツの寄宿学校を舞台に普遍的な人間愛を描く『トーマの心臓』(74年)の萩尾さん。2人を筆頭に昭和24年前後生まれには逸材が集中していて、<花の24年組>と呼ばれる。

     出会いは70年。竹宮さんは徳島、萩尾さんは福岡から、ともに20歳で上京した。初対面の印象を、竹宮さんは「その後の人生を変える運命の人」と記す。

     萩尾さんの文通相手で、後に竹宮さんのブレーン役となる増山法恵さん(66)が、練馬区大泉の自宅近くに築30年のオンボロ長屋を見つけ、同居生活が始まった。

     こたつに差し向かいでペンを走らせる2人に、増山さんが「少女マンガで革命を起こそう」とけしかける。砂糖菓子のような従来の少女マンガを超え、少年マンガや音楽、文学、映画の手法も取り入れようと徹夜で語りあった。山田ミネコ、佐藤史生しお、坂田靖子ら全国から若手が訪れ、“少女マンガ界のトキワ荘”の様相を呈した。

     この頃すでに竹宮さんは、『風木』の原型と冒頭50ページを作り上げていた。性に奔放な主人公の名はジルベール。だが「少年同士の魂と身体のふれあいを描く」構想は出版社に受け入れられなかった。

     一方、萩尾作品は、早くから評価され、その完成された世界観、心の動きを絵にする繊細な画力におののいた。力を振り絞っても空回りするばかり。編集者と衝突を繰り返した。

     72年秋、竹宮、萩尾、増山に先輩作家の山岸凉子さんを加えた4人は、欧州に旅立つ。美しい街並みに生活様式、空気の匂いまで作品にリアリティーを込めたい一心の45日間にわたる取材旅行。帰国後、竹宮さんは賃貸契約更新を機に別の仕事場を構えた。それでも焦りと不安は募り、遊びに来た萩尾さんに別れを告げてしまう――。

     「自分がつらくてそうなったと、なかなかオープンにできなかった」と竹宮さん。執筆を通じ「当時の自分は考え抜いて結論を出したのだと、納得はできた」。でも「突然言われた萩尾さんはショックだったと思う。完全に独り相撲。申し訳なかった」と悔いる。

     転機となったのは、出版社に有無を言わさない人気を確立するために増山さんと作戦を練った『ファラオの墓』(74~76年連載)。先鋭的なテーマを読者が共感できるドラマに昇華させる。物語を制御する自信と喜びがよみがえった。

     着想から7年。『風木』の「週刊少女コミック」(小学館)連載は、衝撃をもって迎えられた。劇作家・寺山修司には「これからのコミックは『風と木の詩』以前、以後という呼び方で変わっていく」と人間観の革新性を激賞された。

     「私にとってマンガとは、考え、問い続け、真理に近づこうとする媒体なのだと思う」

     大学で教えていると、スランプ時代の体験談が「最も学生の心に響く」。今、マンガを描こうとする人の役に立つなら、との思いが執筆を後押しした。<革命>を起こせたのは奇跡のような出会いがあったから。「本当につらかった。でも楽しかった」。その言葉に、万感の思いがこもる。(大阪文化部 西田朋子)

     ◇たけみや・けいこ 1950年、徳島生まれ。高校時代の68年にデビュー。80年『風と木の詩』『地球(テラ)へ…』で小学館漫画賞を受賞。2000年から京都精華大マンガ学科教授を務め、14年から学長。

     ◎お気に入り

     ★馬の絵柄の食器 学長室でケーキとコーヒーを楽しめるようにと、私が乗馬好きだと知る知人から就任祝いに頂きました。乗馬にはまったのはモンゴル旅行がきっかけ。今も毎夏必ず1週間は、モンゴルに出かけます。

     ★懐中時計 1972年の旅行の折、パリのアンティーク店で一目ぼれして手に入れました。女性用の手巻き時計で、写真が入れられる裏ぶたには繊細な花模様が施されています。『風と木の詩』と同じ19世紀の品。大事にしています。

    2016年03月11日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    リンク