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    ウェブで人気 単行本化続々

     ツイッターなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)全盛の今、無料ウェブコミック誌などで連載された、ほぼ無名の新人の作品が話題となり、単行本化されるケースが相次いでいる。新たなマンガビジネスの形を探し、様々な取り組みが行われている。

    展開大胆 自由に描く

     集英社のウェブコミック誌「少年ジャンプ+(プラス)」で毎週連載中の藤本タツキ『ファイアパンチ』は、“祝福者”と呼ばれる特殊能力者たちの過酷な運命を描く。「氷の魔女」によって雪に覆われた世界で、肉体再生能力を持つアグニとルナの兄妹は、自分の手を切り落とし村人に食料として分け与えていた――。今年4月に1話が公開されると、その衝撃的な設定に「アンパンマンもびっくり」「完璧な1話」などとネットで大きな話題を呼んだ。

     藤本さんは秋田県生まれの23歳の男性。東北芸術工科大学で洋画を学び、本格的な連載は今回が初めてとなる。5年前に、あるマンガ賞の最終候補に残ったことをきっかけに、同社の編集者と「いつかマンガ誌で連載を」と打ち合わせを重ねてきたが、紙媒体での掲載はかなわず、ウェブ連載に至ったという。

     結果として、それが幸いした。雑誌の場合、そのカラーをある程度意識する必要があるが、ネットならば比較的自由に描ける。1話終盤で、炎を操る祝福者によって妹ルナは殺されるという、大胆で速い展開にしたのも、計算通りという。

     「1話で6話分くらいの展開を押し込めている」と藤本さん。7月18日更新の13話では、8話後半に登場した祝福者トガタがアグニに、彼の復讐ふくしゅう劇を撮影し、映画にしたいと持ち掛け、読者に今後の展開を予想させない。藤本さんは「実験的、先進的なことをやって、かつ娯楽性の高いものを作りたい」と意気込む。

     9日発売の単行本1巻は、ネットでの反響の大きさから初版10万部。担当編集者の林士平さんは「新人としては異例の数字。(月刊誌は)ダメと言われた作品がこれだけ話題になるとは驚き。ウェブコミックで門戸は広がった」と話す。

     イラスト投稿SNS「ピクシブ」からも大ヒット作が誕生している。ふじた『ヲタクに恋は難しい』は2014年に投稿が開始されると、サイト内のブックマーク数歴代1位を記録。翌年、一迅社で単行本化され、既刊2巻で累計180万部を突破した。

     ただ、出版社が運営するサイトなどを除くと、SNSや投稿サイトにアップされる作品は玉石混交だ。そこから優れたものを見つけ、作家を育てていくことはたやすくない。

    版元選定 公開入札で

     そんな中、注目を集めるのが、多摩美術大学非常勤講師の竹熊健太郎さんが編集長を務める無料ウェブコミック誌「電脳マヴォ」。元々は12年に同大の優秀な学生の作品を掲載する場として開設されたが、現在は広く門戸を開放、反響があった作家についてはプロとして独り立ちできるよう竹熊さんらがサポートする。

     14年から連載がスタートした、女子高生と祖母との断絶を描く加藤片『良い祖母と孫の話』は、今年2月に最終回が公開されると、単行本化を望む声が殺到。公開入札によって版元を選ぶという形を取り、手を挙げた5社の中から小学館クリエイティブに決まった。9月に刊行予定だ。

     マンガ研究者の中野晴行さんは「音楽では、10年ほど前からインディーズの楽曲がSNSで話題になる傾向があり、マンガもこれを追っていると言える。出版社からすれば、ウェブで話題になった作品はある程度の部数を期待でき、今後も様々な試みの中から、ウェブ時代の新しいマンガビジネスが生まれてくるだろう」と分析している。(小間井藍子)

    2016年08月05日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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