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    『AIの遺電子』 山田胡瓜著

    ヒューマノイドを治療する医者が主人公

    • 山田胡瓜さんの“自画像”
      山田胡瓜さんの“自画像”

     人と同じように思考するAI(人工知能)を持ち、姿形も人間と見分けのつかない「ヒューマノイド」がいる近未来で、様々な“病”にかかった彼らを治療する医者・須堂を主人公にした山田胡瓜きゅうりさん(31)の『AIアイの遺電子』(秋田書店、既刊2巻)が話題になっている。

     描かれるのは、人ならぬものを巡る様々なエピソードだが、そこから浮かび上がるのは、「人間とは何か」という根源的な問いだ。

    「人間とは何か」問う

     ヒューマノイドが人口の1割を占めるようになった世界。彼らは、ほぼ人間同様の生活を送り、子供こそ作れないが、結婚もすれば、養子を迎えることで家族を作りもする。山田さんはそんな世界を、夢物語としては提示しなかった。

     「まだ現在では、AIが囲碁で人間に勝ったというようなことが話題になるレベルだけれど、やがて、人と変わらない『ヒューマノイド』が登場するはず。その時に起きるであろう出来事を描くことで、私たちが気づけることがたくさんあるのではないか」。それが今作を描くきっかけの一つになったという。

     例えば、第1話で須堂の元へやってくるのはAIがウイルスに侵された女性ヒューマノイド。バックアップした記憶データを戻せば治るが、バックアップ日から今までの記憶は失われてしまう。彼女は、それでも自分は自分なのかと悩む。

     第2話では、うまそうにそばを食べる真似まねが出来ないのは、人間とは違って「五臓六腑ごぞうろっぷ」で味わえないからだと思い込む落語家ヒューマノイドが登場する。

    • ヒューマノイドを診断し、治療も行う須堂(右上など)(C)山田胡瓜/秋田書店
      ヒューマノイドを診断し、治療も行う須堂(右上など)(C)山田胡瓜/秋田書店

     「ヒューマノイドの悩みとして描きましたが、これらは、人間とは何かということでもあるんです。他人との違いで生まれるコンプレックスに触れた落語家の話には、自分の力で一つ一つ乗りこえられる部分もあるのでは、との思いも込めました」

     山田さんは以前から「技術」と人間との関わりに関心を持っていた。もともとは、インターネット関連のニュースサイト「ITmedia」の記者。その合間に描いていたマンガ『勉強ロック』で2012年、アフタヌーン四季大賞を受賞。翌年から、AI、スマホ、ツイッターなどを題材に「バイナリ畑でつかまえて」を「ITmedia PC USER」で連載し、好評を得た。『AI――』は15年から「週刊少年チャンピオン」で連載中で、今年4月に単行本が刊行されると、マンガとしては異例なことに、複数の全国紙の書評欄でも取り上げられた。

     続く第2巻の終盤では、世の中の均衡を保つ“超高度AI”の存在も明らかにされる。

     「『シンギュラリティー』(技術的特異点)といって2045年ごろ、人間の能力をはるかに超えたAIが登場すると超加速度的に技術も進化、人の生活も様変わりすると言われています。そうした概念なども分かりやすくちりばめたつもりです」

     ウソでしょ?と思うような世界がちょっとした先に広がっているかもしれない。そうした世界を先取りし、思いをはせてみては。第3巻は10月7日に発売予定。

    人ならぬものから学ぶ

     人ならぬものの目を通し、人間の姿を見つめ直す佳作が相次いで発表されている。「泣く子はいねが~」と迷える人々を探して回る猫が主人公の深谷かほる『夜廻よまわり猫』は、日々の暮らしにある悲喜こもごもを描く。

     水城せとな『新装版 黒薔薇ばらアリス』は、バンパイアの物語。繁殖を終えると滅んでしまうため、彼らは生きることについて深く考えざるを得ない。その姿にハッとさせられる。

     内田実『さよならの生涯』は短編集。恋する人間を食べる化け物と、心がない男のやり取りを描いた「夜明けのパレイドリア」、謎の輪っかをかぶると植物と話せる画家が主人公の「花の生涯」など、人間が異形のものから様々なことを教えられる作品を収める。(小間井藍子)

    2016年10月06日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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