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    【エンタメ小説月評】普遍的で切実な「SF」

     先入観で読まず嫌いをしてはいけない。ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(早川書房、中原尚哉訳)で感じた。第2次世界大戦で日独が勝利し、アメリカの西側を日本が支配している「日本合衆国」が成立しているという設定の歴史改変SF。タイトルも、アニメのような機械兵がビル街に立つ表紙を見ても、マニア向けのイロモノにしか見えなかったからだ。

     とはいえ、読み始めると、物語の世界に引き込まれた。検閲局のベンが特高警察の槻野つきのとともに、反動的なゲーム「USA」で抵抗勢力に協力しているという退役軍人・六浦賀むつらが将軍の行方を追っていく。作中の1988年では、スマートフォンの代わりに超高性能の“電卓”が活躍し、機械兵や腕に付ける光線銃といった小道具も登場する。著者が幻視する異世界を旅する楽しさがある。

     さらに驚くのは、オタク的で極彩色のストーリーの中に、戦争の敗者への抑圧や、苦しい中で前を向く人間の誇りや強さなど、普遍的なテーマが違和感なく融合していることだ。静かなラストシーンも印象深く、作者の力量を感じた。

     同じようにSF的な手法を使った古谷田奈月『リリース』(光文社)は、同性婚の合法化と国営の精子バンクが設立された架空の国が舞台だ。精子バンクで起きたテロ未遂事件を目撃し、テロリストの言葉に強く影響されたビイは後に記者となり、事件を追うようになる。

     男女が性の役割から解放された社会では、かつての男性優位の反動から同性愛者が多数派となり、マッチョな振る舞いだけでなく、異性愛者であることさえも白眼視されていく。少数派が抑圧される息苦しさは、裏返せば現代社会にも通じるものだ。とっぴな設定のようでいて、イデオロギー的な言葉で単純化するとこぼれ落ちてしまう性や愛に関する切実な思いを巧みに表現した。

     続いて久坂部羊『老乱ろうらん』(朝日新聞出版)は、認知症をテーマにした長編だ。妻に先立たれた78歳の幸造と、その行動に振り回される息子の嫁・雅子らの視点を使いながら、物語は進んでいく。

     医師として高齢者の在宅訪問診療に携わった経験を持つ著者は、老いにあらがおうとしながら行動や思いが空回りしていく幸造の心情を丁寧に描く。そして、悪意がないにもかかわらず、世話をする雅子らとのすれ違いが生まれる様子を冷静につづっていく。がん患者と医師の視点から医療の本質を見つめた『悪医』(同)という秀作がある著者は、同じ手法を使って認知症や介護の実情に切り込んだ。

     最後は軽快なミステリーである真保裕一『脇坂副署長の長い一日』(集英社)を。地元出身のアイドルが一日署長を務める警察署の一大イベント。その日の未明にスクーターの転倒事故の一報が入る。運転していたとみられるのは、インフルエンザで休んでいた若手署員で、現場から逃走していた。調査に乗り出す副署長の脇坂を、分刻みでトラブルが襲っていく。

     家庭内の不穏な動きや、県警内部の派閥抗争などもあり、伏線や謎は1冊のミステリーには盛りだくさん過ぎるほど。それを軽妙に収束させていくのはベテランの技。スピード感あふれるストーリーは、一気読みに最適だ。(文化部 川村律文)

     ★5個で満点。☆は1/2点。

    ピーター・トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』

    イメージの豊かさ   ★★★★☆
    冒険小説度     ★★★★
    満足度       ★★★★


    古谷田奈月『リリース』

    SF的な設定     ★★★☆
    マイノリティーの息苦しさ★★★★☆
    満足度       ★★★★


    久坂部羊『老乱』

    認知症のリアリティー  ★★★★☆
    家族小説度      ★★★☆
    満足度        ★★★★


    真保裕一『脇坂副署長の長い一日』

    てんこ盛りの謎     ★★★★
    スピード感       ★★★★
    満足度        ★★★★

    2016年11月24日 05時40分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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