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    米占領時代描く小説『宝島』…真藤順丈さん

    沖縄の戦後 たくましく

    • 物語の構想を練るために、取材以外でも沖縄を訪れた。「コザの路地をほっつき歩いて、お店に入ってソフトドリンクを飲んで……。下戸なんです」(東京都文京区で)
      物語の構想を練るために、取材以外でも沖縄を訪れた。「コザの路地をほっつき歩いて、お店に入ってソフトドリンクを飲んで……。下戸なんです」(東京都文京区で)

     真藤順丈さん(40)の『宝島』(講談社)は第2次大戦後のアメリカ施政下の沖縄を舞台にした長編小説だ。構想から7年がかりという大作で、当時の沖縄にあった熱量を、若者たちの成長たんの中で表現した。

     「戦果アギヤー」とは、戦果をあげる者、つまり米軍から様々な物資を略奪していた人々を指す沖縄言葉だ。作家は東京生まれ。しかし、「占領時代の沖縄には、昔から興味があった。(1970年の)コザ暴動に向かっていくあの時代の沖縄のエネルギーは、ちょっと比類がない」と語る。

     物語の軸となるのは、戦果アギヤーの“英雄”であるオンちゃんと行動をともにしていた親友のグスク、オンちゃんの弟・レイ、そして恋人のヤマコという幼なじみの3人だ。嘉手納空軍基地の襲撃に失敗して米兵に追われ、オンちゃんは行方不明となる。残された3人は、その影を追いながら、それぞれの道を歩み始める。琉球警察のグスクは米軍と秘密の関係を持ち、レイはアウトローの世界に生きる。そしてヤマコは教師となり、政治闘争へも身を投じる。本土復帰へ向かう時代の中で、3人の運命は様々な形で交錯していく。

     実在の事件を数多く盛り込んだ物語の中で、3人は過酷な事態に直面する。米兵による暴行事件は後を絶たず、米軍機が小学校に墜落して児童らが命を落とす事故も起こる。毒ガスが漏れる事故も発覚し、住民の不満は鬱積うっせきしていく。

     「沖縄の場合、身を削られるような事件がいきなり降ってきて、ざくっと終わる。フィクションで糊塗ことするのではなく、正面から扱おうと最大限に気を使った。解決が見えないもどかしさがおりのようにたまっていく様子を、グスクに体現させた」

     書きながら歴史の重さを痛感して、執筆を中断したこともあった。当時起きていた問題の多くは、現代にもつながることが見えてきたからだ。「最初の覚悟がたぶん足りなかった。僕がどういう理由付けと距離感で沖縄と向かっていくべきか、わからなくなった」

     それでもあえて再び筆をとったのは、自分がストーリーテラーであるという原点に立ち返ったからだ。「僕自身が、自分の足元を掘るのではなく、想像力で小説の世界を開いてきた人間なので、『本土の人間が書いた沖縄の小説』でも意味があると思った。逃げていては、腫れ物に触るような扱いをしてきた人たちと変わらない」

     合いの手を入れるような独特のリズムの語りを駆使し、土地が持つ風通しの良さを描写することで、あくまでもエンターテインメントとして表現することに心を砕いた。「重い過去を抱えながらも、しなやかに、明るくたくましく生きる。現実に根を生やした上での陽性の部分を表現したかった。それは沖縄という土地に呼び起こされたものかもしれません」

     元々は映画監督を目指していたが、「自分一人のアウトプットで全部できて、資本が無限にある」小説の執筆に打ち込み、2008年に鮮烈なデビューを飾った。異形の男の足跡をたどってアジアの現代史にわけいっていく『墓頭』をはじめとして、その後の作品も、ミステリーやホラーというジャンルの枠にとどまらない。規格外の作家は、今作に持てる力のすべてを注ぎ込んだという。

     「奇想に飛び過ぎず、現実だけに寄り掛からない。代表作と言われた時に、素直にうなずける物ができたと思います」(川村律文)

     ◇しんどう・じゅんじょう 1977年、東京生まれ。2008年に『地図男』で第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞、『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞を受ける。他の著書に『畦と銃』『墓頭』『夜の淵をひと廻り』など。

    ◎お気に入り

     ★帽子 小説家になる前から、たまにお小遣いをためて買っています。洋服に対するこだわりが年々なくなってきているので、帽子ぐらいはちょっといいものを買おうかな、と。普段はタオルを巻いているのですが、お出かけの時にはできないので。

     ★耳栓 執筆の時にしていたのが、範囲が広がって、寝るときや外を歩く時にもしています。最初は遮音のつもりだったと思うんですけど、耳栓をしていないと仕事のスイッチが入らない。ぐっと起動するために耳に入れています。

    2018年07月12日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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