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    若手歌人 初の歌集

     歌人の登竜門の一つ、「短歌研究新人賞」(短歌研究社主催)を受賞して話題になった若手2人の第1歌集が出版された。性的少数者(LGBT)を公言する小佐野だんさん(35)、約4年前に健在な父の死をうたって論議を呼んだ石井僚一さん(29)。2人の作品と言葉から、社会の現況や若者の渇望感が透けて見えてくる。

    LGBT 葛藤を表現…小佐野彈さん

    • 台湾に住み海外詠も収めた小佐野さんは、「外へ出て、自分の力で勝負したかった。台湾は近い」と話す。
      台湾に住み海外詠も収めた小佐野さんは、「外へ出て、自分の力で勝負したかった。台湾は近い」と話す。

     小佐野さんの『メタリック』は5月に刊行された。昨年、第60回短歌研究新人賞に決まって1年足らずだ。「ビジネスと同じで『鉄は熱いうちに打て』です」。慶応大大学院博士課程に在籍しつつ、起業して台湾で暮らす実業家でもある。

     <ママレモン香る朝焼け性別は柑橘かんきつ類としておく いまは>。同性婚、家族への思いなどをうたった受賞作「無垢むくな日本で」をはじめ、30代前半に作った370首が収められている。

     <家々を追はれ抱きあふ赤鬼と青鬼だつたわれらふたりは>。象徴的な巻頭歌について、「セクシュアル・マイノリティーとして日々生きる中で感じていることを、一番過不足なく言えた」と語る。

     中学生のとき同性への恋愛感情に気づき、「自分を認めたい」「認めたくない」と心の中で葛藤した。学校帰りに、本屋で平積みされた俵万智さんの歌集を買って読み、日記に残せないような気持ちも、短歌なら表現できると知った。「その日から国語のノートはびっしり五七五七七で埋まるようになった」。短歌は自分を映し出す「鏡」だという。

     友人に勧められ2014年、短歌誌「かばん」に入会。定期的に発表する場を与えられ、「誰かに読まれる緊張感」を持つ。

     表題の「メタリック」は計71首に及ぶ歌物語。描かれる東京・新宿は、「かつての逃げ場」であり、「小佐野家の故郷・山梨への起点となる特別な場所」でもあるという。

     <受けれることと理解のそのあはひ青くはげしく川は流れる>。母へのメッセージを託した1首。それは社会への問いかけでもある。

    鬱屈した思いを詠む…石井僚一さん

    • 歌集を編年体でまとめた石井さんは、「変遷が大事。うまくなってたらいいんだけど」と話す
      歌集を編年体でまとめた石井さんは、「変遷が大事。うまくなってたらいいんだけど」と話す

     <本当の気持ちはどこにあるのだろうマトリョーシカのようなわたくし>。昨年12月に出た石井さんの歌集『死ぬほど好きだから死なねーよ』は10年、北海学園大(札幌市)時代に作った一首から始まり、14~17年の作品を収める。今年の現代歌人協会賞の最終候補作にもなった。

     14年の第57回短歌研究新人賞受賞作「父親のような雨に打たれて」は、祖父の死を父に置き換えて作ったことが分かり、「虚構」をめぐる議論の的になった。当時は専門学校に入り直すと同時に、北大短歌会で短歌の勉強を本格的に始めた頃。困惑し、今も作品が評価されることに対し「微妙な気持ち」と明かす。

     昨年、首都圏で就職。出版にあたり大学時代の恩師が資金を援助した。「お金がなくて歌集を出せない若い世代の状況を、先生は気にしている。僕にお金の余裕が出来たら、下の世代が本を出すときに回したい」

     <手を振ればお別れだからめっちゃ振る 死ぬほど好きだから死なねえよ>。逆説的な行為と言葉。タイトルにするときは軽く突き放した表現を選んだ。<神さま、夢はもう見ませんから、重たくて分厚いまぶたを四つください>。不吉な数字の「四」は「きみ」の分も合わせた2人分。切なく鬱屈うっくつした思いが詠まれる。

     横書きや「!」を幾つも重ねるなど、ツイッターのスタイルも目を引く。中高生の頃メールが苦手で、大学生のときに始めたツイッターで言葉による交流が図れるようになったという。

     その縁で参加した歌会で、歌人の山田わたるさんの深い読みに「仰天した」。だから「人の歌を読む、人に歌を読まれる体験が大事。歌会では直接言葉のやりとりをして、その場で反応がわかる」。自身の名前を冠した短歌賞を主催し、歌会を各地で開く活動を続ける。(佐々木亜子)

    2018年07月19日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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