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    【エンタメ小説月評】半生の回顧で生まれる力

     過去を振り返るのは、後ろ向きなことばかりでない――。

     宇佐美まこと『骨を弔う』(小学館)を読んで、改めてそう思った。四国の田舎町で暮らす真実子や豊ら5人の小学生は、教師を困らせようと、理科室から盗んだ骨格標本を山に埋めた。物語が動き出すのはその約30年後。川の堤防から標本が見つかったことで、家具職人になった豊は友人たちを訪ねて歩くようになる。あの時埋めたのは何か、真相は何だったのか、と。

     イベントプランナーや政治家の妻など、すでに大人となった友人たちにとって、豊の行動は唐突に映る。〈お前は、自分探しをしたいんだ〉。友人の一人は、そう問いかけさえするのだ。それでも豊の遍歴が続く中で、人々の心境に変化が生まれていく。

     小学生とは思えないほど聡明な、過去の真実子の発言だけでなく、〈埋めたものはそのままにしておくのがええと思うわ〉〈真実が人を助けるとは限らん〉といった現在の人々の言葉が効いてくる展開はたくみだ。自らの半生を立ち止まって顧みることで、閉塞へいそく感のある現状を乗り越える力が生まれる。そう感じさせる物語だ。

     一方で、他人には語れない過去と向き合う人々を巡る小説もある。花房観音『うかれ女島』(新潮社)だ。「売春島」と呼ばれた地で春をひさぎ、やがて女衒ぜげんとなった真理亜は、自分の死を伝えてほしいと4人の女性に宛ててメモをのこす。息子の大和は、娼婦しょうふであった母への憎しみを抱きながら、女性たちと向き合うようになる。

     性風俗の世界に身を置き続ける者、島にいたことをひた隠しにする者。女性たちの人生は様々だが、表層的な倫理を乗り越えて生きる女性たちは、常識のかせに縛られた男たちの卑小さと比べて、生命力に満ちている。娼婦になった理由を〈生きるため〉と答える真理亜の真意が、装画に使われたカラヴァッジョの絵と重なって心を揺さぶる。性と生に切実に向き合った問題作だ。

     次は、濃密なムラ社会で起きた暴発を描いた櫛木くしき理宇りう鵜頭川うずかわ村事件』(文芸春秋)だ。有力者の一族が幅を利かす山村が、豪雨で孤立する。そこで起きた殺人事件を機に、若者たちの鬱積うっせきした不満が噴出し、暴力と狂気の連鎖を生んでいく。

     自警団を結成して力を持つことで、暴走していく若者たち。前半部分の閉塞感に満ちた村の描写が、暴力がエスカレートしていく後半の怒濤どとうの展開に力を与える。1970年代後半のサブカル的な小ネタを織り交ぜながら、閉鎖的な社会がパニックにみこまれていく恐怖を生々しく描き出した。

     最後に、木内昇の歴史小説『火影ほかげに咲く』(集英社)を。長州や土佐、薩摩の志士や、新選組隊士、芸子や詩人まで、幕末を生きた人物たちが心を通わせようとする姿を、著者は六つの短編の中で端正に描き出す。

     思いや感情の伝え方は、時に不器用に見えるかもしれない。様々な立場や身分に縛られ、時代が大きく揺れ動く中で、不自由にしか生きられない人々の行動が胸を打つ。長州藩の志士・吉田稔麿を扱った「薄ら陽」や沖田総司を主人公とした「呑龍どんりゅう」をはじめとして、いずれ劣らぬ秀作がそろう。(文化部 川村律文)

     ★5個で満点。☆は1/2点。

    宇佐美まこと『骨を弔う』

    構成の ( たく ) みさ ★★★★☆
    ミステリー度 ★★★★
    満足感 ★★★★


    花房観音『うかれ女島』

    性の奥深さ ★★★★
    衝撃度 ★★★★☆
    満足感 ★★★★


    櫛木理宇『鵜頭川村事件』

    暴走度 ★★★★
    田舎の 閉塞 ( へいそく ) ★★★★
    満足感 ★★★★


    木内昇『火影に咲く』

    叙情性 ★★★★☆
    切れ味 ★★★★☆
    満足感 ★★★★☆


    2018年07月19日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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