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    戦争の狂気に「嘘」で迫る…『ディエンビエンフー』 西島大介

    ベトナム戦争テーマ…17年がかりで完結

    • 西島大介さん
      西島大介さん

     ベトナム戦争を、かわいいキャラクター同士のバトルとして描いた異色作『ディエンビエンフー』(双葉社)が完結した。西島大介さん(44)がマンガという手段で「戦争の真実」に迫ろうとした執念の大作だ。

    かわいいキャラ

     「戦争がしきものなのは自明です。反面、子どもが戦争ごっこに興じるように、どこか人を高揚させるのも事実。その矛盾を表現するため、戦争を面白く軽薄に描くやり方も『あり』じゃないかと考えました」

     “普通”の戦争マンガを想像していると、絶句することになるだろう。西島さんが描くキャラはみなアニメのようにかわいい。そんなキャラ同士がゲームのように殺し合う。戦争の悲惨さを分かりやすく訴える場面はなく、何もかもが狂っている世界。戦争をこのように描くことに眉をひそめる人もいるかもしれない。

     1965年の南ベトナム・サイゴン。日系米国人の従軍カメラマン、ヒカル・ミナミは南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)の少女ゲリラに出会い、ハートを射抜かれる。物語の主軸は、ヒカルと「お姫さまプランセス」と呼ばれるこの少女とのラブストーリーだ。

     タイトルは第1次インドシナ戦争で有名な激戦地だが、ベトナム戦争とはあまり関係ない。「ただ言葉の響きだけで選びました」

    中断と迷走

    • 無敵のベトコン少女「お姫さま(プランセス)」。「ンクク」としか言葉を発しない ©西島大介
      無敵のベトコン少女「お姫さま(プランセス)」。「ンクク」としか言葉を発しない ©西島大介

     戦争の推移はほぼ史実に沿って進み、73年の米軍撤退で幕を閉じる。そこに至るまでの連載は、中断と迷走の連続だった。

     2001年に原型となる6ページの短編を発表。それを長編化し、角川書店(当時)から最初の単行本が出たのは05年。掲載誌が休刊して1巻で中断し、06年から小学館の「月刊IKKI」に移籍して再スタート。単行本で12巻を出したが、同誌の休刊で再び未完に。「もう永久に完結できないと思った」と振り返る。

     仕切り直して双葉社の「月刊アクション」で完結に向けた『ディエンビエンフー TRUE END』を始めたのは17年。今年9月に出た第3巻で、予定した結末にやっとたどり着いた。「物語を早回ししたところはあるが、納得いくエンディングが描けました」

     

     現在入手可能なのは、新装版『ディエンビエンフー』全6巻、『ディエンビエンフー TRUE END』全3巻(いずれも双葉社)。

    マンガでどう描く

     1990年代からイラストレーターとして活躍した西島さんは、2004年にSFファンタジー『凹村おうそん戦争』(ハヤカワ文庫)でマンガ家デビュー。「マンガで戦争をどう描くかはずっとテーマだった」と語る。

     F・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』(1979年)にも影響を受けたが、ベトナム従軍経験のある米作家ティム・オブライエンの小説『本当の戦争の話をしよう』(村上春樹訳、文春文庫)の次の一節に大きなヒントを得た。

     〈多くの場合、本当の戦争の話というものは信じてもらえっこない。/往々にして馬鹿みたいな話が真実であり、まともな話がうそである。〉

     「ならば、日本から遠いベトナム戦争を、マンガという『嘘』を存分に使って描くことで、人間を狂わせる戦争の『真実』に迫ることもできるんじゃないかと思ったんです」

    現代日本と「地続き」

     東京生まれだが、子どもの頃は広島市で育ち、2011年から同市在住。本作には太平洋戦争や原爆のイメージも忍び込ませた。過去のベトナムを、現代の日本にもつなげるためだ。

     「戦争を前にすると人は『何か正しいことを言わねば』と固まってしまう。マンガは、自由な表現であるべきです。この作品は、戦争マンガへの僕なりのカウンターパンチなんです」(編集委員・石田汗太)

    2018年11月08日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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