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    ホラー小説大賞2作品、次回から刷新

     日本ホラー小説大賞は、次回から横溝正史ミステリ大賞と統合され、「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」へとリニューアルする。多彩な作品を生みだし、ホラーというジャンルを切りひらいてきたこの賞を締めくくる第25回は、初めて2作が大賞となった。古代エジプトの呪いにまつわる福士俊哉さん(58)の『黒いピラミッド』(KADOKAWA)と、読者賞とのダブル受賞となった秋竹サラダさん(26)の学園ホラー『祭火まつりび小夜さやの後悔』(同)。2作の刊行を機に、年齢も作風も対照的な2人の著者に話を聞いた。

    エジプト描写 経験基に…『黒いピラミッド』福士俊哉さん

    • 「年を取って、映像に対する興味がどんどんうせている。文字でシンプルに形になった方がいい」と語る福士さん
      「年を取って、映像に対する興味がどんどんうせている。文字でシンプルに形になった方がいい」と語る福士さん

     エジプトを舞台としたホラーという構想は、最初から固まっていた。福士さんは30歳から発掘調査の記録や、エジプト関連のテレビ番組、企画展の演出などに携わり、現地と日本を20年以上も行き来していた。「若い頃からホラー映画が好きで、そこにディレクターの仕事で携わったエジプトがプラスされた。エジプトを舞台にしたので、必然的に冒険になった」と語る。

     大学の古代エジプト研究室で教授の撲殺事件が起き、犯人の元講師・二宮は、「黒いピラミッドが見える……」と言って自ら命を絶った。その後も二宮がエジプトから持ち帰った遺物に関わった人々が、次々と命を落とす。専任講師の日下美羽はその呪いの謎を探るため、エジプトへと向かう。

     物語は美羽がエジプトへ行ってから、ドライブ感を増していく。考古学の様々な知識や、様々な動物を捕らえる「スネーク・ハンター」との旅、遺跡の描写などのリアリティーは、現地をつぶさに見てきた経験が生きた。「エジプトへ行ってからの部分は、サクサクとイメージができました」

     一方で、呪いによって次々と人が命を落とす日本のシーンでも、読者が娯楽として恐怖を楽しめるようにバランスをとった。

     「俺のホラーはお化け屋敷感覚で、怖いけど楽しい。エンターテインメントとしてうまく作りたいんです。シャレにならないのは困るじゃないですか」

     幼い頃から楳図かずおなどの漫画を読んで育ち、その後はハリウッドのホラー映画などに親しんだ。大学卒業後は映画脚本なども手がけ、50歳代後半に仕事を退職してから、本格的に小説の執筆に取り組んだ。初めての応募で賞を射止め、還暦近くなって作家としてのスタートラインに立った。

     「40代後半に老後をどうしようか考えた時に、もうちょっと納得できる作品をやりたいと思った。だから大賞を取ったときに、まだ俺はいけるのか、と。エジプト物で、もっとびっくりさせるような作品を何個か書こうかな」と充実感をにじませた。

    ドジなヒロインに魅力…『祭火小夜の後悔』秋竹サラダさん

     「夏と言えばホラーだと思うんですよ。書き始めたのも8月ぐらいで……」

     学園ホラーで賞を射止めた秋竹さんは、ひょうひょうとした口調で執筆のきっかけを語った。もともと、ホラー小説の短編が好きで、よく読んでいた。「綾辻行人先生の作品は、ミステリーもホラーもどちらも好きでした。そういう作品を参考にしているところはあるかもしれません」

     受賞作は、三つの短編と、短編の人物たちが絡む中編を収録した連作集。女子高生の祭火小夜は、教師や同じ高校の生徒らが出会う怪異に向き合っていく。そして不思議な現象を通じて小夜と関わりを持った人々が、夏休み初日の夜、“魔物”を引き付けるためのドライブに出かけることになる。

     ほのかな叙情を漂わせる文章に、ミステリー的な仕掛けを交えた物語は読みやすく、ちょっとドジな面があるヒロイン・小夜のキャラクターも魅力的だ。冒頭に置かれた三つの短編とは対照的に、中編「祭りの夜に」では、魔物からの逃走劇に加え、小夜自身が抱える葛藤にも踏み込み、物語が立体的になった。「それまでの短編が地味だったので、少しだけ派手な感じが欲しいと思いました」

     学生時代に小説は書いていたが、「ライトノベルの賞に1回応募し、その時は1次選考も通らなかった」。就職したものの、勤務先の会社が潰れて、時間ができたことで再び筆をとった。「練習のつもりで最初の話を書いて、まだ書けそうだから、と物語を広げていった」。応募先を探す中で見つけた賞でデビューのきっかけをつかみ、「驚いています」と正直に語った。

     「自分が書いている小説は、ホラーの中に幻想性や叙情性が入ってくる。広い意味でのホラーなのだと思います」(文化部 川村律文)

    2018年11月29日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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