世界文学 多様な展開…海外作家 3人語る

無断転載禁止
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 世界文学の多様性を感じさせる3人の書き手がこの秋、来日した。イタリアから『帰れない山』(関口英子訳、新潮社)のパオロ・コニェッティさん(40)、フランスから『ヌヌ 完璧なベビーシッター』(松本百合子訳、集英社文庫)のレイラ・スリマニさん(37)、そしてノンフィクション『アメリカ死にかけ物語』(小澤身和子訳、河出書房新社)を英語で書いたベトナム生まれのリン・ディンさん(55)だ。

世代による男性の変化…パオロ・コニェッティさん

インタビューに答える作家のパオロ・コニェッティさん(23日、東京都新宿区で)=三浦邦彦撮影
インタビューに答える作家のパオロ・コニェッティさん(23日、東京都新宿区で)=三浦邦彦撮影
『帰れない山』
『帰れない山』

 牧草地や段々畑が続く、北イタリアの小さな山の村。『帰れない山』は、夏を過ごすため両親とこの村へやって来た都会育ちのピエトロと、彼と親友になる村の牛飼いの少年ブルーノの物語だ。

 「僕も都会育ちです。小さな頃は山で夏を過ごしました。街では母親に心配され、『北斗の拳』や『釣りキチ三平』など家で日本のアニメばかりを見ていたけれど、山では自由に過ごせた」

 物語は1980年代の2人の出会いから本格的に始まる。ピエトロの父と3人で山に登った少年時代。父親への反発を強めたピエトロの思春期。大人になった2人の挫折と友情の復活――。美しい自然描写とともに、成長してゆく彼らの姿を追う。

 「この長編は、自然に癒やされる小さな家族の物語であると同時に、登場人物を通してイタリア男性の世代による変化や、社会の移り変わりを感じさせる一種の『歴史小説』になることを意識した」と話す。

 「ピエトロの父親の世代は、戦後の混乱の中で国を立て直すため意志を持って強く進んだ。その息子の世代は性格が弱く、ある意味女性的。その代わりに優しく、調和を大切にして生きている。近年の経済危機の影響を若い世代が強く受けたことも描きたかった」

 話の途中では、戦争孤児で剛直な性格のピエトロの父と、世話好きな母の結婚の秘密なども明かされる。つづら折りの物語の果てには、清冽せいれつな結末が待っている。

 ミラノ生まれ。映像制作の仕事の経験がある。若い頃は、村上春樹『ノルウェイの森』を愛読した。「サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』に通じている」と感じたという。

 「本は一度その世界に入ると、違う人生を歩んだ気分を味わえる。地下鉄でもベッドの中でも、いつでも戻ってゆける。それは、文学だけが成し得ることだと思います」

 インタビューの間、いかにもこの小説の著者らしい優しい表情を終始、浮かべていた。

仕事と子育てとの葛藤…レイラ・スリマニさん

インタビューに答える、作家のレイラ・スリマニさん(20日、東京都千代田区で)=吉川綾美撮影
インタビューに答える、作家のレイラ・スリマニさん(20日、東京都千代田区で)=吉川綾美撮影
『ヌヌ 完璧なベビーシッター』
『ヌヌ 完璧なベビーシッター』

 「父親が家事や育児をすればほめられる。でも母親は、決してほめられない。仕事のために家をあけるとき、父親だって罪悪感を覚えても良いはずなのに」

 フランスは、男性の育児参加が日本より進んでいるイメージがある。だが実際の女性たちは、仕事のキャリアと子育ての間で悩んでいる。『ヌヌ 完璧なベビーシッター』は、この現代家族が抱える葛藤を突くミステリータッチの長編だ。

 パリに暮らす弁護士の女性は、音楽関係の仕事につく夫との間に2人の子供ができる。日中は家にいない彼らは、「ヌヌ」と呼ばれる子守と家事を任せる女性を雇う。料理や掃除、子供の面倒を完璧に見るヌヌの存在に喜んだのもつかの間、彼女は2人の子を殺してしまう――。

 一体、何が起きたのか。子育てを他人に任せる親の微妙な心理、雇う者と雇われる者との経済格差など、次第に背景が浮かび上がる。

 「ヌヌと雇い主の関係で興味を引くのは、『合理的な感情と非合理的な感情』が介在すること」と語る。「雇い主の立場からは、有能で時間に正確など、働き手としての能力を求める。でも同時に、我が子に接する大切な人として、愛情豊かで優しいなど、能力だけで説明できないものもほしい。家事は頼むけれど、家に入り過ぎるのも嫌なのです」

 モロッコ生まれ。母は医師で、家には住み込みのヌヌがいた。結婚して息子を出産後、自身もヌヌを雇った。

 「様々な大人に子どもが触れられる点でヌヌは良いもの。でも小さな頃、どんなに家族のように慕ったヌヌも、ある日突然、他人のように仕事をやめる日が来てしまう」

 不条理で切実な体験が、子育ての形を通して社会のあり方を問う作品に迫力を添えた。

 「小説は最後の句点を打ったら、もう読者のもの」と話す。

 好きな作家は、米国サスペンスの巨匠、パトリシア・ハイスミスだ。

格差拡大 分断される国…リン・ディンさん

リン・ディンさん
リン・ディンさん
『アメリカ死にかけ物語』
『アメリカ死にかけ物語』

 ホームレス生活を送る元アメリカンフットボールのプロ選手、16歳ですでにコカイン中毒だった薬物依存の女、地域振興のためカジノを導入しても衰退を止められない街……。『アメリカ死にかけ物語』は、格差が広がるアメリカの暗部をこれでもかと突きつける。

 「現在のアメリカの人々の半分は、こんな暮らしを送る。メディアには、取り上げられもしないのです」

 詩人で作家の著者が2013~15年にかけ、米国の低所得者の人々が集まる地域を中心に訪ねた記録を集めた。「どんな人にも生きるからには、一つどころか多くの物語があった」。枯れ葉やマッチ棒など道に落ちている物を何でも拾う女性の話をはじめ、それぞれの人物が鮮やかに目に浮かび、短編小説を読むような面白さがある。

 サイゴン(現ホーチミン)で生まれ、ベトナム戦争末期の1975年に米国に移住した。祖母からもらった2000ドルを下着に隠して出国したという。様々な仕事の傍ら、文筆の世界に入った。朗読会や大学行事に招かれて米国各地に行くようになったが、生身の人間に触れていないと感じた。それが、今著の旅のきっかけとなった。

 米国では、白人以外のマイノリティーの英語作品が文学の幅を広げるものとして重視される。小説家志望の若者の多くは大学の創作コースに身を置く。だが、「マイノリティーの作家は、肌の色のことしか聞かれない。大学は、学生を金の束としかみていない」。この傾向をも強く批判する。

 「ある都市の大学で創作のコースを一つ持ったことがあります。『地下鉄に乗って知らない駅で降り、その場所のことを書け』と課題を出しました。年間数万ドルの学費を払う学生たちは美しい芝や建物が並ぶ広大な大学のキャンパスに閉じこもり、怖がって地下鉄に乗りたがらない。実際、大学の周辺では危ない事件も起きている。これが、米国の『分断』の真実なのです」(待田晋哉)

52290 0 ニュース 2018/12/13 05:20:00 2018/12/13 05:20:00 2018/12/13 05:20:00 インタビューに答える作家のパオロ・コニェッティさん(23日、東京都新宿区で)=三浦邦彦撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181203-OYT8I50070-T.jpg?type=thumbnail

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ