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    【回顧2018】ベストセラー 名著、ロングセラー出色

    雑誌低迷 出版界に影

     吉野源三郎の名著を羽賀翔一さんが漫画化した『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)が年間ベストセラーの1位に輝いた2018年。雑誌の部数低迷を受けた、出版界の様々な構造的な問題が垣間見えた1年でもあった。

     平成最後の年間ベストセラーで目をひくのは、マンガ版と原作(新装版)がそれぞれ1位と9位に輝いた『君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)。刊行は昨年8月。昨年末から爆発的に売れていた。3位に入った児童書『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)と続編で6位の『続ざんねんないきもの事典』(同)もロングセラーの証しと言うべきか、昨年に引き続きのランクイン。

     そんな中、今年ブレイクしたのが2位の『大家さんと僕』(新潮社)。都内の一軒家で、お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんと高齢女性の大家さんが暮らす日々をつづったコミックエッセー。ほのぼのとした描写が人気を集めた。

     振り返れば、平成の30年間には、吉本ばななさんの本が多数ランクインした「ばなな現象」や、「ハリー・ポッター」シリーズが巻き起こした「ハリポタブーム」など、様々な現象やブームがあった。次はどんな現象・ブームが起きるか、楽しみに待ちたい。

     突然だった。新潮社は9月、性的少数者(LGBT)に関する論考で物議を醸していた月刊誌「新潮45」を休刊すると発表した。同誌は、自民党の杉田水脈みお衆院議員の、LGBTのカップルは「『生産性』がない」とする寄稿を8月号に掲載。作家などから批判が相次ぐ中、10月号に改めて杉田氏を擁護する論考を載せていた。同社は、その中に「常識を逸脱した表現があった」と謝罪した。

     同社が明らかにした「背景」も衝撃的だった。編集上の無理が生じたのは、部数低迷に直面した同誌が試行錯誤する過程で起きたという。1985年創刊の同誌はノンフィクションなどを掲載し、最盛期の2002年の発行部数は10万部に達したが、近年は2万部を下回っていた。

     実は低迷に苦しんでいるのは同誌だけではない。出版科学研究所によると、昨年の書籍・雑誌の推定販売金額(電子出版を除く)は、前年比6・9%減の1兆3701億円だったが、雑誌に限ると、同10・8%減の6548億円。減少率が10%を超えたのは初だった。今年も1~10月の書籍・雑誌の推定販売金額は、前年同期比6・4%減の1兆754億円だが、雑誌は同10・2%減の4857億円と大幅に落ち込んでいる。

     そして、このような雑誌の低迷は、出版界全体に暗い影を落としている。出版流通網は、週刊誌や月刊誌など一度に大量に流通する雑誌部門の利益で、量は少ないが種類が多く、効率の悪い書籍部門のコストをカバーしてきた。だが、雑誌の低迷に、運送費の上昇が重なり、この構造が成り立たなくなりつつある。

     今年11月、出版取次大手の日本出版販売(日販)とトーハンは物流拠点の相互活用や統廃合などの検討を始めたと発表した。「2大取次」と呼ばれる両社が、より深い提携を模索し始めたことは、それだけ状況が厳しいことを示している。(十時武士)

    親子や高齢世代向け存在感

    作家 朝比奈あすかさん

     漫画と原作が両方ランクインした『君たちはどう生きるか』は宮崎駿氏による映画化も予定されており、待ち望む親子が多そうだ。他にも『ざんねんないきもの事典』シリーズ、『おしりたんてい』シリーズなど、親子で楽しめる本、不登校の子ども達の思いを掬い上げて本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』も広く読まれた。

     一方で、高齢者の心情を熱い言葉で綴った芥川賞受賞作『おらおらでひとりいぐも』、高齢の大家さんと心を通わせた日々を描くエッセイ漫画『大家さんと僕』、佐藤愛子氏によるエッセイ『九十歳。何がめでたい』なども、人気を集めた。社会や仕事の現場から少しはみ出た世代に、そっと差し出されるような本の存在感が光っている。

    教養ブーム人生の軸求め

    文芸評論家 友田健太郎さん

     もうけたい、出世したい、健康な心身がほしい――赤裸々な欲望を映し出すビジネス書だが、今年のベストセラーは例年と一味違う。一つは教養ブームで、『大人の語彙力ノート』がトップに、『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』が3位に入った。美術を扱った本も多く出た。もう一つは未来や世界などへの関心の広がり。『1日1ページ』のほか、2位に『10年後の仕事図鑑』、4位に『お金2・0』が入った。

     ここ数年、ビジネス書ベストセラーは投資、人間関係や仕事術などの本が中心だったが、今年は多少の余裕が出てきた反面、社会や世界の急激な変化に戸惑い、生きるための軸を求める動きが表面化した年と言えるかもしれない。

    文学賞、才能ある新人に光

    作家 藤井太洋さん

     「不作でしたね」と何度も聞いた。確かに昨年の「単行本フィクション部門」リストはきらびやかだった。村上春樹と又吉直樹の新作に、記憶に残るタイトルで勝った『コンビニ人間』、そして「キミスイ」という流行語まで生んだ住野よるが4作も並ぶ。話題には事欠かない1年だったのだろう。

     だが今年も捨てたものではない。書店員が投票する本屋大賞の『かがみの孤城』は同部門で1位になり、2位には芥川賞の『おらおらでひとりいぐも』が続く。昨年鮎川哲也賞でデビューした今村昌弘の『屍人荘しじんそうの殺人』に、住野よるも入っている。単にメディア向きの話題が少なかっただけのことだ。文学賞は使命を果たし、才能ある新人も支持されている。良い1年だった。

    2018年12月20日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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