【エンタメ小説月評】武家の悲喜 巧みな構成

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 ああ、うまいものだ――。朝井まかて『草々不一そうそうふいつ』(講談社)を読みながら、何度そう思ったことだろう。いい塩梅あんばいなのだ。武家の悲喜こもごもを描く短編8本を収めるが、語るべきことは存分に語り、余分は記さない。だから一編一編は短くとも、登場人物の人生が確かな手応えをもって伝わってくる。

 味わいはバラエティーに富む。主人公は牢人ろうにん者だったり、格上の家に婿入りして戸惑う者だったり。江戸城の料理人もいれば、大石内蔵助の妻も登場する。そのそれぞれで、身分やしきたりに縛られた武家の暮らしが丁寧につづられ、おかげで私たちにも彼らの葛藤や苦悩、恋心が手に取るようにわかる。

 一方、いくつかの短編では、主人公や主人公とかかわる人物の心の内が、ラスト近くまで伏せられる。それがまた、いい。例えば表題作は、漢字を読めぬ隠居侍が、亡き妻が残した手紙を読むために手習い塾に通う話だが、最後に侍が目にする妻の言葉には、こちらも思わず涙した。他の数編の終盤で明かされる秘密には、彼らの来し方、行く末までも想像させられた。デビューから10年。著者の充実ぶりを改めて示す一冊となった。

 ラストが印象的なのは宇佐美まこと『聖者が街にやって来た』(幻冬舎)も同じだ。ただこちらはミステリー。謎が解かれ、慌ててページを戻れば、ヒントがいくつも記されていたことに気づき、ああ、やられた――。

 タワーマンションが林立し、人口が急増した神奈川県のとある街で、若い女性が相次いで殺された。どの現場にも花びらが一片残されており、花屋を営む桜子と娘の菫子とうこは、桜子の同窓生が刑事になっていたこともあり、事件に関わるようになる。

 この、ごく普通の人々を主役に据え、彼女らの日常もしっかり描いたのが素晴らしい。2人は母子家庭であり、店の常連はゲイバーの従業員。時々顔を出す少年は母のネグレクトに遭い、危険ドラッグの影もちらつく。優れたミステリーは、時に社会の今を浮き彫りにするが、それは本作にも当てはまる。

 篠綾子『青山せいざんに在り』(KADOKAWA)は清冽せいれつな歴史小説だった。時は幕末。川越藩筆頭家老の息子、小河原左京はある日、自分とうり二つの貧しい少年、時蔵と出会う。農民の子の時蔵は年も同じ。あまりに似ているので一時は互いの出自を疑うものの、他人の空似とわかってからは身分を超えた友情を育む。だが、やがて彼らは時代の波と数奇な運命に翻弄ほんろうされていく。

 友情、恋、親への思い、己へのいらだち。描かれるのはまさに青春の葛藤だが、現代が舞台の青春小説と決定的に違うのは、そこに「義」のためなら命も惜しまぬ覚悟があること。懸命に生きるとはどういうことか、教えられた気がする。

 三崎亜記『30センチの冒険』(文芸春秋)には、自分も冒険に出たような興奮を覚えた。故郷に戻るバスに乗った「僕」はなぜか、〈大地の秩序を失った〉世界へ運ばれる。そこでは距離や高さの概念がゆがみ、目の前に見えるものが実は遠くにあったりする。さらに「僕」の来訪で街は全滅の危機にひんし、最初に「僕」を助けてくれた女性にも異変が起きる。「僕」は皆を助ける決心をし、旅に出る。

 もし、あなたが運命を信じる人ならば、あるいは約束を大切にする人であるならば、ぜひ、この長い旅を見届けてほしい。最後の1ページに、きっと心が震えるはずだから。(文化部 村田雅幸)

 ★5個で満点。☆は1/2点。

朝井まかて『早々不一』
朝井まかて『早々不一』

朝井まかて『草々不一』

人間の営みが見える★★★★☆
長編のような読み応え★★★★
満足感★★★★☆


宇佐美まこと『聖者が街にやって来た』
宇佐美まこと『聖者が街にやって来た』

宇佐美まこと『聖者が街にやって来た』

展開の妙★★★★
時代を捉える力★★★★☆
満足感★★★★


篠綾子『青山に在り』
篠綾子『青山に在り』

篠綾子『青山に在り』

青春の苦悩★★★★
清新さと力強さと★★★★
満足感★★★★


三崎亜記『30センチの冒険』
三崎亜記『30センチの冒険』

三崎亜記『30センチの冒険』

異世界の怖さと魅力★★★★
切なく、懐かしい★★★★
満足感★★★★

無断転載禁止
54058 0 ニュース 2018/12/20 05:20:00 2018/12/20 05:20:00 2018/12/20 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181211-OYT8I50027-T.jpg?type=thumbnail

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