『麒麟児』で江戸無血開城描く…冲方丁さん

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傑物2人 究極の交渉

昨夏に北極を旅した。「完全に今の自分を客観視できる場所はどこだろうと。何もない場所に立って、何もない自分を実感して戻ってきました」=米田育広撮影
昨夏に北極を旅した。「完全に今の自分を客観視できる場所はどこだろうと。何もない場所に立って、何もない自分を実感して戻ってきました」=米田育広撮影

 作家・冲方うぶかたとうさん(41)の歴史小説『麒麟児きりんじ』(KADOKAWA)は、明治維新の江戸無血開城をテーマにした長編だ。勝麟太郎(海舟)と西郷隆盛という2人の傑物が成し遂げた歴史の転換点を、ダイナミックに描き出した。

 「大政奉還というのは、いつか書かざるを得ないと思っていた」という。徳川光圀を描いた2012年の『光圀伝』(同)でも触れたテーマだったからだ。

 とはいえ、書き始めるまでに時間がかかった。「幕末、明治維新、戊辰戦争というのは、非常に範囲が広い上に混沌こんとんとしている。どうしたらその時代状況から価値ある歴史をくみ取って小説として伝えられるのか」。考え抜いた結果が、無血開城をめぐるドラマにスポットライトを当て、物語として凝縮させる構想だった。

 1868年3月、鳥羽・伏見の戦いで勝利した官軍が江戸に迫っていた。勝は書簡を送って西郷を牽制けんせいしながら、一方で江戸を焼き払うための焦土戦術を準備する。使者を送ったことが功を奏し、勝は西郷との1対1の会見へとこぎつける。「勝は箱根を越えるなと言い、西郷は行くぞ、と言う。この2人が究極のマンツーマンによる交渉のために全ての布石を打っていたことが見えてきた」

 和議へ向けた2人の直接交渉は、わずか2日間。会話はスリリングだが、一方でお互いの意図を十分にくみ取った上での最高度のコミュニケーションだ。諸外国に対抗するための新たな国のかたちを見据えた人物として2人を描き出した。

 「その結果としての明治維新は、日本人同士の全面対決を避け、江戸という当時世界最大の都市を温存し、富国強兵の道をひらいた。ちょっとでも引いたりぶれたりしたら味方に殺されるような状況の中で、2人は、統合的な視野を持ちながらギリギリのラインで妥結した。無血開城という貴重な出来事から日本人は学ぶべきだと思う」

 西郷と勝は、ともに政治的には順風満帆な人生ではなかった点でも共通している。西郷は島流しに遭い、維新後に下野して西南戦争で生涯を終える。勝は軍艦奉行の職を一時解かれ、徳川のために奔走しながら、主君から疎まれたことさえあった。「明治維新では多くの英雄がいましたが、基本的に風雲児で、波風は立てても後かたづけをしない。次世代のために自分を犠牲にした2人の麒麟児の存在に焦点を当てた。苦労をした彼らが奮発できたのは、強い理想と信念、希望があったからです」

 学生時代に作家デビューしてから20年以上となる。SFから歴史・時代小説、本格ミステリーまで多彩な作品を書き、昨年刊の『破蕾』(講談社)では、江戸時代を舞台に、日本人のエロティシズムのあり方にも迫った。ゲームやアニメの世界でも才能を発揮するなど、その活躍は小説というジャンルにとどまらない。最近はランジェリーブランドと異色のコラボレーションを進めるなど、活動の幅はさらに広がっている。

 「映像技術が発達し、ユーチューブのような新たな媒体も発展すると思う。原作を提供するだけではなくて、今後、小説がどうなっていくのか、活字の娯楽はどういう役割を担うのか、統合的な見地が欲しいのかもしれません」

 多くのジャンルを俯瞰ふかんする「麒麟児」らしい言葉だった。(川村律文)

 

 うぶかた・とう 1977年、岐阜県生まれ。『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞。『天地明察』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞などを受け、『光圀伝』は山田風太郎賞に輝いた。他の作品に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『破蕾』など。

◎お気に入り

1月7日付夕書評面、作家の沖方丁さんのお気に入りの辞書(12月14日、東京都千代田区で)=米田育広撮影
1月7日付夕書評面、作家の沖方丁さんのお気に入りの辞書(12月14日、東京都千代田区で)=米田育広撮影
1月7日付夕書評面、作家の沖方丁さんのお気に入りのボールペン(12月14日、東京都千代田区で)=米田育広撮影
1月7日付夕書評面、作家の沖方丁さんのお気に入りのボールペン(12月14日、東京都千代田区で)=米田育広撮影

 ★辞書 子どもの頃に海外にいた時、本は高くて、なかなか手に入らなかった。これが唯一の娯楽のようなもので、“愛読書”でした。面白い単語を見つけると、鉛筆で線を引いて、お話を想像していました。今でも楽しんでいます。

 ★ボールペン アイデアを付箋に手で書き、それを整理してパソコンに打ち込むというやり方が気に入っています。「ジェットストリーム」というボールペンを愛用しています。デジタル機器は整理した情報をパッケージ化する道具で、その前段階はアナログなものがいい。

 

60257 0 ニュース 2019/01/17 05:20:00 2019/01/17 05:20:00 2019/01/17 05:20:00 1月7日付夕書評面、作家の沖方丁さん(12月14日、東京都千代田区で)=米田育広撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190107-OYT8I50034-T.jpg?type=thumbnail

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