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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『チンギス紀 一 火眼』『二 鳴動』 北方謙三さん

    北の草原 見果てぬ夢

    • 北方謙三さん
      北方謙三さん

     中国大陸を舞台に、51巻に及ぶ大河小説「大水滸伝」シリーズを書き上げた作家が、新たな物語の舞台に選んだのは、さらに北の草原だった。モンゴル帝国を建国した英雄・チンギス・カン(テムジン)は以前から書きたかった題材だった。「40歳ぐらいからの足跡はわかるけれど、それまでは謎が多い。何に邪魔されることもなく、その感性、存在感をすべて書き上げることができることに魅力を感じた」と語る。

     物語は、弟を斬った13歳のテムジンが、追っ手から逃れるために砂漠を越える場面から始まる。旅で出会った少年を家来とし、妓楼ぎろうで下働きをしながら史書を読む中で、テムジンは国家観を自らの中で形作っていく。「大地を一つにすることを、テムジンの生き方にしようと思った。どこまで行っても大地は続くから、テムジンの見果てぬ夢。でも、それは男にとって美しいと思う」

     やがてモンゴルへと戻ったテムジンは、好敵手と出会い、様々な業を背負いながら、英雄へと変貌へんぼうを遂げていく。「今はまだ足元しか見えていない。だんだん視野が広がって、地平線まで見えた時に、チンギスが人の中に何を見て、天の意思をどう感じるのか。英雄の心とはどんなものだろうと、今は思っています」

     古希を迎え、最初の小説が文芸誌に載ってからほぼ半世紀が過ぎた。〈俺がまだ生きて、やるべきことをやれ、と天が決めたら、俺はなにがあろうと死なん〉。作中のテムジンの言葉は、新シリーズの刊行を始める自身の心境にも重なる。「『書くことは生きることだ』という言葉は、どんどん実感として強くなっている。この50年、いろいろ考えたけど、書くことだけは揺らがなかった。小説の神様が書けと言っている間は書ける」

     (集英社、各1600円)

     川村律文

    2018年06月19日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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