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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『昆虫学者はやめられない』 小松貴さん

    「裏山の奇人」現る

    • 小松貴さん
      小松貴さん

     「裏山の奇人」は昆虫の採集ではなく、観察する人である。かつて「軍隊アリの引っ越しを5、6時間見ていて飽きなかった」という御仁ごじんだ。

     物心がつく前後、虫を捕まえては虫かごで死なせてしまった贖罪しょくざい意識がある。何より、「夜行性で湿地に生息する小さな虫や洞窟の虫は、エサが何か、どのように交尾するかなど生態がよくわかっていないから」、とことん自然な状態で見るしかないのだ。

     「誰も見たことがない昆虫の生態がわかった日には、『勝った!』と喜びで、焼酎で祝杯をあげる」という。

     本書は、求愛する際、エサをメスに贈るアズマキシダグモなど観察したユニークな虫たちの生態を、著者撮影の貴重な写真とともに紹介する。「共生」という言葉には仲良しの精神を感じるが、虫たちの共生とは、<両者の搾取の程度がたまたま拮抗きっこうしている状態>と定義するなど、冷静な観察眼も随所に光る。とりわけ面白いのは、カエルの鳴き声をまねたり、足踏みをして去って行くふりをして生き物との間合いを測ったり、雨にも風にも負けずに観察する作者の生態である。<私に見破れぬ擬態はない>と豪語する人の習性は、持ち前の諦めの悪さにある。

     国立科学博物館の協力研究員で36歳。「多くの人は、目に見える範囲のものを自然と思うが、見えないところで多くの虫が絶滅にひんしている。生態系は一つの大きなジェット機に例えられ、個々の生き物は一個一個のネジ。いくつネジがなくなったら危ないかは誰にもわからないし、一度失われたネジ(生き物)を元に戻すすべはない。だからこそ、自然をどれだけそのまま未来に渡せるかが大事です」。希代のナチュラリストの目からは、ドロムシもゴミムシもどんな虫にも「彼らの美しさがある」のだ。(新潮社、1400円)

     鵜飼哲夫

    2018年07月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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