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    話題作の著者へのインタビューで、創作の意図、素顔に迫ります。

    『不在』 彩瀬まるさん

    遺品整理で父を思う

    • 彩瀬まるさん
      彩瀬まるさん

     「わからないものに自分なりに言葉を当てはめていく」

     小説を書くという行為について、作家はこう表現した。言葉にしづらい感情やテーマに、物語を通じて分け入っていく。「書いていくうちに、結論がこれだとわかってくる。疑似体験をしたくて書いているのかもしれません」

     本書でもそのスタイルは変わらない。漫画家の明日香は、父の死に際して古い洋館を相続した。長く疎遠だった父は<明日香を除く親族は屋敷に立ち入らないこと>と謎めいた遺言を残していた。恋人の冬馬と整理を始めながら、明日香は亡き父について考え始める。「ぱっと把握できない、でも邪険にもできない。娘からすると、父親は把握しづらいもの。それが大きな家とオーバーラップした」と語る。

     整理を続ける中で、明日香は仕事のリズムを崩し、冬馬との関係にも不協和音が生じる。冬馬を難詰し、手をあげる場面さえある。理不尽な状況に直面して暴力的になる人物を書くのは、今作での一つのテーマだった。「自分が持っている自分の像はもろいもので、外因によって割と簡単にゆがむ。それを書くことで確かめたかった」

     2010年デビュー。『くちなし』が直木賞候補となるなど、注目を集める新鋭にとって、15歳の時に母を病で亡くしたことは作品にも影響を与えている。そうした思いは、喪失感を抱える人々を繊細な筆致でつづった『骨を彩る』や『やがて海へと届く』などの作品として結実してきた。

     今作ではそのテーマが、より深化した感がある。「『不在』という言葉は、明日香の父がいないというだけでなく、理想とした父がいなかった、という意味にもなる。死について書くというより、人間の存在の方に、興味の持ち方が変わってきている気がします」(KADOKAWA、1500円)

     川村律文

    2018年08月07日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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